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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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49 エサイアス視点

「エサイアス様、ナーニョ様やローニャ様は元気でいらっしゃるのでしょうか」


 ロキアやマーサは、二人が王宮に移り住んだことでとても寂がっており、こうして時々二人の様子を聞いてくるようになった。


「ああ、二人は王宮で大切にされている。この間、ローニャ様は騎士から可愛い猫柄のハンカチをもらったと話をしていたな」


 俺はそうロキアに話すと、横にいたマーサが「まあ!」と驚いた。


「エサイアス様、明日にでも商会を呼びましょう」

「ん? マーサ、なぜだ?」


 不思議に思っていると、二人は呆れた顔をしている。


「エサイアス様。エサイアス様がナーニョ様をこの邸の夫人として迎えたいというお気持ちは重々に承知しておりますが……。甘い、甘すぎます。これは緊急事態で、一刻を争うことなのですよ?」

「ど、どういうことだ?」


 二人の真剣な様子に聞き返すと、また二人はため息で返してきた。


「いいですか? ナーニョ様もローニャ様も愛くるしい容姿で治癒魔法が使え、しかも王女様になったんですよ?彼女たちを狙わない男性がどこにいると思いますか?」

「……まさか」


「そのまさかです! エサイアス様、遅れをとってはなりません!ナーニョ様にもっとも近い男性はエサイアス様でしたが、そこで高を括っていると足元を掬われます。急ぎましょう」


「いや、だが、ナーニョ様の好みがわからない」

「ナーニョ様はエサイアス様の心のこもった贈り物ならきっと喜んで下さいます」

「そ、そう、なのか?」


 今まで女性と無縁な生活を送ってきたせいか全く気付いていなかった。そうか、それもそうだよな。


 ナーニョ様の好きな物……。

 だめだ。

 分からない。


 俺はロキアとマーサに呆れられながらもナーニョ様へのプレゼントを何にしようか一晩掛けて悩むことになった。



 翌日、久しぶりの休みで、朝から商会が我が家のサロンに商品を運び込んでいた。


「エサイアス様、本日はお呼びいただきありがとうございます。私はソロティル商会の会長、キートルです。どうぞよろしくお願いいたします」

「ああ、急に呼び出してすまない。早速だが見せてもらえるだろうか」

「もちろんです」


 キートル商会長は一つ一つ丁寧に品物を見せて説明してくれる。


 ソロティル商会は女性向けの品物が豊富で指輪やネックレス、ドレスや靴に至るまで様々な品物が揃っている。


 マーサは二人がいつ戻ってきてもいいようにといくつかのドレスや小物を注文している。


 俺は商品を眺めていると、小さな白い花をあしらった髪飾りが目に留まった。


 小さいけれどとても精巧な作りで可憐な感じだ。彼女の髪にとてもよく似合うのではないだろうか。


 するとキートル商会長は笑顔で話しかけてきた。


「さすがエサイアス様、やはり他の人と着眼点が違いますな。これはある職人が丹精込めて作った一品なのです。大切な方へのプレゼントにどうですか?この小さな花の中の蒼い宝石はエサイアス様の瞳の色。それを贈るだけで他の方への牽制にもなりますから」

「牽制?」


「ええ。世の貴族女性は男性から装飾品やドレスを送ってもらうのが『愛されている』ステータスシンボルとみなされているのです。特に生産数の少ない物、送られた相手の色を纏うのが高く評価されているのです」


「……そうなのか。この髪飾りを買おう」

「ありがとうございます!!」


 商会長に乗せられた気がしないでもないが、ナーニョ様に似合うと思って初めて買った。


 ……俺の瞳の色、か。


 そう思うと少し恥ずかしいな。


 俺はリボンの付いた箱をポケットにしまい、会える日を待っていたが、ナーニョ様になかなか会えずにいた。


 彼女はとても忙しい毎日を送っていて、最近では王都の街で平民の治療も行っているとも聞いた。乱暴な者はいないだろうか、苦労していないだろうか。とても心配だ。


 彼女にプレゼントを渡せないまま、俺は討伐で負傷し医務室で治療を受けることになった。


 普段はこんなかすり傷程度なら医務室に行かないのだが、今日はナーニョ様が治療を行うと聞いて向かった。


 以前と変わらず可愛い。


 いつプレゼントを渡すか迷っていた。魔獣討伐でもこんなに緊張したことはなかったのだが、彼女を前にすると上手く話せない。


 俺はこんなに口下手だっただろうか。


「私もエサイアス様に会えないのは寂しいです。ロキアさんたちにも会いたいし。今度また遊びにいけるよう話をしてみますね」

「ロキアもマーサも首を長くして待っている。あぁ、そうだ。この間ナーニョ様にとても似合いそうな飾りを見つけたんだ。受け取ってもらえるだろうか」


 プレゼントを突き返されてしまうのではないかと心配をしていたが、俺の不安とは裏腹に彼女は嬉しそうに箱を開けた。


「わぁ! 素敵! 本当に貰っても良いのですか?」


 彼女は髪飾りを見るなり、耳はピンと立ち、フワリと満面の笑みが浮かんだ。


 良かった。

 気に入ってくれたようだ。


 俺は彼女の笑顔にほっと胸を撫でおろした。


「ああ、ナーニョ様に似合うと思ったんだ。気に入ってくれたかな? 髪に付けよう」

「はい」


 緊張で手が震える。


 ナーニョ様は俺がこんなに緊張しているのを気づいてしまっただろうか。


 情けない男に見えていないだろうか。


「可愛いな。よく似合っている」


 無意識に言葉が零れていた。


「エサイアス様、ありがとうございます。本当に嬉しい。この髪飾り、とっても素敵です」


 良かった。俺はこの流れで今度一緒に王都の街に遊びに行こうと誘おうと決めた。そして意を決し言葉を出した時。


「ナーニョ様、今度「ナーニョ様! 治療中、すみませんっ!! ローニャ様がっ!」


 突然、医務室に駆け込んできた騎士が大声で私を呼んだ。


「ローニャがどうしたのでしょうか?」


 さっきまでの優しい雰囲気は一転し、緊張に包まれた。


「ローニャ様が、突然体中が痛いと震えだして……ナーニョ様を何度も呼んでいるのです」

「……体中が、痛い」


 彼女は何かを考えこんでいる。


「エサイアス様、ごめんなさい。ローニャが呼んでいるので行きますね」

「あぁ。ローニャ様に何かあったら大変だ」


 そうして彼女は騎士と共に部屋を出て行ってしまった。


 ……ローニャ様の一大事だ。


 ローニャ様の身体も心配になるが、ナーニョ様も大丈夫だろうか。


 妹を心配しすぎて彼女がいつか壊れてしまわないかと心配になる。


 ナーニョ様は人一倍真面目で頑張り屋だが、その裏で傷ついている姿を必死に隠そうとしている。とても心優しい人だ。


 どうにか彼女の傍で支えられるように俺も動き頑張らねば。


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