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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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46 お披露目会

 それから一週間私たちは勉強と治療、魔力や魔法の研究、新しい指輪の試験と目まぐるしく動いた。


 新しい指輪は初級魔法を中心に作られることになった。


 研究者達は様々な素材や装飾の施策を繰り返し、より良い物を目指して作る。その技術を使い、上級の指輪や最終目標である空間を閉じる指輪の作成に尽力したいという話だ。


『どうせなら空間を閉じる指輪を先に作った方が良いのでは』という意見も出たが、彼女たちに合う指輪を作れていないこと、試作段階で彼女たちに万が一があってはならないこと、さらに必要な魔力や一人で閉じられるかが不明なため、魔獣が湧く空間に近づけるのは危険だと判断された。


 私たちを取り巻く人たちも神経を尖らせているのは間違いない。


「ナーニョ様、ローニャ様、準備が整いました」

「こんなに素敵にしてもらってありがとう」

「私も嬉しい! でも早く大きくなってお姉ちゃんみたいな綺麗なドレスを着たいな」


 今日は新たに王族となった私とローニャのお披露目の会だ。


 普通なら成人した王族がお披露目と成人の祝いを兼ねてするものだが、今回は貴族や国民へ周知する目的で行われる。


「ナーニョ様、とても美しいです。ローニャ様も可愛くて皆が見とれてしまいます」

「ふふっ。ありがとう!」

「ローニャ、今日はお姉様だからね?」

「大丈夫だよ! この日のために頑張って勉強してきたんだからっ。任せて!」


 ローニャはニコニコ笑顔で扇を仰いでみる。その様子を侍女たちが微笑ましく見つめていた。




 ナーニョ達は部屋を出て、王族住居区画の入り口まで行くと、兄のケイルートとエサイアス様が待っていた。本日のエスコート役だ。


「ケイルート兄様! どう? 似合っているかな?」

「ローニャはいつも可愛いが、ドレスを着た姿もまた可愛い。良からぬ虫がたくさん湧きそうだ。ナーニョも美しい。女神のようだ」

「お兄様、ありがとうございます」

「ナーニョ様、月の女神が降臨してきたようだ。本当に美しい。エスコートという栄誉をお与えいただき感謝しております」


 仰々しく頭を下げたエサイアスに驚くナーニョ。それを見たケイルートは苦笑している。


「エサイアス様、顔を上げて下さい。褒めて下さりありがとうございます。本日のエスコートをよろしくお願い致します」

「そろそろ時間だ。行こうか」


 ケイルートはローニャと手を繋ぎ、ナーニョははにかみながらエサイアスに手を出す。エサイアスは優しく手を添えてエスコートする。


 控室に入ると既に父達はお茶を飲みながら待っていた。


「ナーニョ、ローニャ。そこに座りなさい」

「はい、お母様」


 エサイアス様は控室前で待機するらしい。


「ナーニョもローニャも緊張していないかしら?」

「少し緊張しています。いつも帽子を被っていたからこの姿を見て、みんなに受け入れてもらえるかどうか心配です」

「私はちょっと緊張しているけれど、お兄様と手をつないでいるから大丈夫です!」

「耳や尻尾は特徴的だけど、とても可愛くて素敵よ?何にも問題にならないわ。むしろ愛くるしい感じしかないわ」


「ローニャ、儂の隣においで」

「おとうさま、せっかく侍女さんに髪の毛を結ってもらったからわしゃわしゃしないでね?」

「あぁ、もちろんだ」



 ―コンコン


「そろそろ式の時間となりました」


 従者の声で立ち上がり、会場に入る。父と母の後にナーヴァル兄様とグレイス様、ケイルート兄様はローニャと手をつなぎ、私はエサイアス様のエスコートで会場に入る。



 会場は父達が見えた途端、大きな歓声が上がった。


 会場には王都にいる貴族が今日のために集まっている。あまりの人の多さに驚いて私はカチカチと固まりながら歩くので精いっぱいだった。


 ローニャはケイルートにしがみつく感じで歩いている。


 二人ともこれほどの人数を見たことが無かったためしっぽは身体にギュッと巻きつけていたのは仕方がない。



 宰相の言葉で式が始まった。


 国王陛下の挨拶、貴族の挨拶。グリークス神官長の挨拶と続いた。


 そして神殿から私たちは優秀な治療者として正式に認定するという宣言があった。神殿が正式に宣言する事は意味が大きい。会場にいた者達からどよめきが起こった。神官長からの突然の宣言。


 二人はどのような人物なのか。見るからに耳の生えた可笑しな人間。疑問を浮かべる者達。そんな中、宰相からの私とローニャについての説明がなされた。


 落ち人で獣人ということ。二人は魔法が使え、現在は魔獣の討伐で怪我をした騎士を中心に怪我の治療に当たっていると話があった時に歓声が上がった。


 そして今後の展望として魔獣による怪我人の治療をしながら魔法の研究を進めていく事や魔法を使える人間を増やしていく事、農作物の収穫量を増やし、民を飢えから守る事、最終目標として異次元の穴を塞ぐ事の話があった。


 どれも前向きな話に貴族達は高揚する。


「ではこの度、養女となったナーニョ様、ローニャ様、前にどうぞ」


 私もローニャもエスコートされ、中央に移動する。足はガクガク、ブルブル震える手を止めようとするが、緊張はどうしても解けない。


 尻尾はぎゅっと体に巻き付けたままだ。


「こ、この度、王女となったナーニョ・ヘルノルド・アローゼンです。まだこの世界に来て間もない私たちを優しく迎え入れてくれた事を感謝しております」


 私はバクバクと、今にも口から心臓が出てきそうなほどの緊張をしながらもなんとか言葉を言い終えた。会場からは温かい拍手に包まれた。


「ローニャ・ヘルノルド・アローゼンです。好きなものは木の実や果実です。この世界に落ちて来た時は不安でしたが、温かく迎えて貰って嬉しかったです。皆様、これからいっぱいご迷惑をおかけしますが、温かい目で見ていただけると嬉しいです」


 ローニャは私とは対照的にぴこぴこと尻尾を振っている。


「可愛いっ」

「ローニャ様!」


 ローニャの言葉に会場はドッと沸いた後、拍手が送られた。


 ナーニョはとても恥ずかしくなった。妹はこんなに上手に人前で話しているというのに自分は出来ていないと。


 誇らしいと思う気持ちもある。姉としてもっと頑張らないといけない。


 彼女は一人落ち込む気持ちと叱咤する気持ちを噛みしめる事になった。


「ナーニョ様、お手をどうぞ」


 エサイアスは微笑みながらエスコートの手を差した。


 ケイルートは何を思ったかヒョイとローニャを抱えて席に着いた。その様子を見ていた貴族達は二人が王家に歓迎されているのだと感じたのかもしれない。


 会場からは割れんばかりの拍手でナーニョ達のお披露目会は終わりを告げた。


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