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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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43 教会での治療

「こっちが私の妹のローニャです。彼女は見ての通りまだ幼い姿をしております。それに妹はまだ重症患者を見慣れていないため、治療は軽傷の患者をお願いしたいです」

「なんと!? 幼いローニャ様も治療ができるのでしょうか?」


「えぇ。ローニャも治療魔法を使えます」

「ローニャも頑張ります! フォンスレイド様、よろしくお願いしますっ」


 ローニャは先ほどフォンスレイド様がしたような敬礼を執ってみせた。


 聖騎士団長は幼いローニャが元気よく挨拶するのを見て微笑む。


「では怪我人がいる部屋へと向かいましょう」


 ボッシュ様は神官長の元に戻るのかと思いきや私たちの後ろをフェルナンドさん達と共について歩いてくる。


 彼はグリークス神官長から身を挺しても私たちを守るように仰せつかっているらしい。そして治療もしっかり私たちを見守ってくれるようだ。



 そうして私たちは医務室に入った。

 この部屋も王宮騎士団の医務室と同じく薬品の香りがし、診察台には人がいるようだ。


 どうやらここで診察を行い、治療した後、そのまま入院するか、持ち場に戻る事ができるかを判断するらしい。


 重症者は別の場所に直接運び込まれるのだとか。


「ローニャ様、ここで医者をしているジュードです。分からない事があれば何でも聞いて下さい」


 フォンスレイド様がジュード医師を紹介する。

「はーい! あっ、あのね。ローニャ達は怪我人を治せても病気は治せないから気を付けてね?」

「そうなのですか?? 分かりました」


 ここも王宮と同じように軽傷者と重傷者では部屋が別れているようだ。王宮では下女が怪我人の世話をしていたけれど、ここでは信者や孤児院に住んでいる人が怪我人の世話をしているらしい。


 フェルナンドさんはローニャの護衛に付いてくれるようだ。私は侍女にもローニャに付くようお願いをする。


「じゃあ、お姉ちゃん。私も頑張ってくるね!」

「ローニャ無理しないようにね」

「うん!」


 私はマルカスさんとボッシュさんと聖騎士団長のフォンスレイド様と一緒に重症患者がいる部屋に向かって歩き始めた。


「ナーニョ様は最近王家の養女になったと聞きました。それはやはり治療魔法が使えるからなのでしょうか?」

「……そうですね。公式に発表されるまではあまり公にはできないですが、来週だったかな? 公表すると国王陛下が言っていました」


「私共も魔法が使える人間が過去に存在していたと聞いたことはあったのですが、こうしてお会いして見学できるなんて夢のようです。本来なら神官長もここへ来て見学する予定だったのですが、何か突然部屋に籠もられてしまったのです。神官長と一緒でなくて申し訳ありません」


「いえ、気にしないで下さい。きっと神官長は今張り切って魔法を勉強しているのだと思いますから」

「魔法の勉強……ですか?」

「えぇ。詳しくはグリークス神官長に聞いてみてくださいね」


 私はグリークス神官長が魔法の練習に取り組む姿を想像してクスリと笑った。


 その様子を見てボッシュさんも笑顔になり、フォンスレイド様だけが不思議そうな顔をしていた。




 そうして私たちは雑談をしながら重傷者が待つ部屋の前に立った。


 神殿も王宮とはさほど変わらず、扉を開けるとツンとした薬品の匂いや汗に混じった血の匂いが立ち込めていた。


 先ほどまでの和らいだ雰囲気は一変し、部屋は重苦しい雰囲気に包まれている。


「ここの部屋にいる重症患者は二十一名。神の膝元へ向かう事を願っている者も少なくないです」


 フォンスレイド様は沈痛な面持ちで彼らをジッと見ている。


 王宮の重傷者は数が少なかったけれど、ここは重傷者の数が多い。一人ひとり丁寧に治していると全員を治すことができない。


 私が次に来るのは来週だ。

 一週間後には命を落としているかもしれない。


 私は彼に一つの提案をしてみる。


「フォンスレイド様、今から治療をしますが、一人を完全に回復するまで魔法を掛けると全員に魔法を掛けることができません。


 私が次に神殿に来るのは来週だと聞きました。その間に治療出来なかった人たちは死を迎えてしまうかもしれない。だから、皆様回復魔法が行き渡るように治療を六割程度にさせてください」


「!! 本当ですか!? 皆に回復魔法をかけていただけるとは。ここにいても死を待つのみ。藁にも縋る状況なのです。どうか、よろしくお願いします」


 私は一番近いベッドの上にいる白い布がグルグル巻きにされている患者の手を取る。


 息も荒く痛みを我慢しているのだろうか。布から染み出した液が痛々しい。


「すぐに治療を始めますね」


 私は慎重に『ヒエロス』と唱えた。


 いつものように淡い光が患者を包んでいく。

 どうやらこの患者は魔獣に毒液を掛けられたのか、火を吹かれたのか分からないが皮膚は黒ずみかなり痛んでいる。


 全身が火傷すればすぐに死んでしまうと聞いたことがある。


 この人はここに運ばれてまだ間もないのだろう。軽い火傷の状態までは回復させた。


「完治させられなくてごめんなさい。また治療させてください」

「!! あぁっ。声が出せる! 痛っ。痛いけど、ヒリヒリと痛いけど、かなり楽になった。ああ、神よ。感謝します。お嬢さんありがとう」


 次のベッドの患者は背中を爪で割かれ、傷口が化膿し熱が出ている状態だという。


 横向きで寝ているせいか腰のあたりに床ずれも起きているようだ。


 ナーニョは肩に手を当てて背中を治療する。この患者は比較的怪我が軽いため背中の治療はすぐに終わった。


「フォンスレイド様、この方は背中の傷は治しましたが、傷口からのばい菌が全身を弱らせているようです。後はこの方の生命力を信じるしかありません……」

「分かりました。彼は人一倍体力がある。彼の生命力の強さを信じましょう」


 こうしてナーニョは一人ひとりに声を掛けながら治療していった。


 六割程度でも重症患者にとっては軽傷まで回復出来ている。ほとんどの人たちは意識が朦朧としているが、じきに目が覚め動く事もできるだろう。


 フォンスレイドは長年の付き合いのある同僚もいたようで治療し、回復していく様子を見て涙を拭っていた。


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