40 初めての教会
しばらくすると、侍女が部屋にやってきた。
どうやら夕食の準備をするらしい。
ローニャも眠い目を擦りながら支度する。
王女様はドレスに着替えて髪を整えてから夕食を摂るらしい。私たちはシンプルなドレスに着替えて侍女に髪を結ってもらう。侍女は私たちに驚く様子はない。事前に話は聞いているのだと思う。
用意されたドレスは尻尾の部分が綺麗に出せるようになっている。
「お姉ちゃん、このドレスふわふわ尻尾が出せるんだね!」
「私たちのために用意されてある。後でお礼を言わないとね」
「そうね!」
ローニャは綺麗なドレスを着て髪を結ってもらって上機嫌だ。
「遅くなりました」
時間丁度に食堂に来たけれど、どうやら私たちが最後のようだった。ケイルート兄様が手招きをした。
私はケイルート兄様の隣、ローニャは母の隣に座った。
お母様はあまりおしゃべりではないけれど、私たちの事をよく見ていて話を振ってくれたり、食べ方も間違っていれば教えてくれる。王族は食べ方が特に厳しいみたい。
義姉様はあまり私たちを見ない。良く思っていないのかもしれないが、これは女の勘にすぎないけれど。
ローニャも無理して義姉様に話そうとはしていない様子だ。
こうして和やかに食事を終えて部屋に戻った私たち。侍女に明日の予定を聞くと、
「明日は朝から神殿へ向かう日となっています」
「ありがとう。明日も頑張らないとね。さ、ローニャ。明日も早いし寝ちゃいましょう」
「うん。侍女さんありがとう。おやすみなさい」
翌日、朝から寝ぼけ目のまま侍女たちにドレスを着せてもらい食堂で朝食を食べる。
朝食は果実とロティを中心とした食べ物のようでとても食べやすかった。
「ナーニョ、ローニャ。今日は教会に行く日だったな。気を付けて行きなさい。面倒だったらすぐに帰って来てもいいからな」
「はい、お父様。王家の名に恥じぬよう頑張ります」
「ふふっ。いい娘を持ったわ。ナーニョ、無理しないのよ?」
「はい、お母様」
私たちは食事を終えた後、部屋に戻ると騎士服が用意されていた。
どうやら私は女騎士と同じ服のようだが、王家の紋章が胸元に入っていた。ローニャには幼い頃のケイルート兄様の訓練服らしい。
「侍女さん、これは昨日のうちに刺繍をしたのですか?」
「はい、そのように聞いております」
「短時間でこんなに素晴らしい刺繍を刺していただいて感謝します」
「刺繍をした部署に伝えておきます」
「私もルート兄様の服を貰ったわ! しっかりしていて動きやすい。これなら転んでも破れなさそう! 後で兄様にお礼を言わないとね!」
そして肝心の尻尾部分はきっちりと穴が空いていた。細部まで気づかわれている事に感謝する。
その後、護衛と侍女を伴って神殿に到着する。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ。グリークス神官長がお待ちです」
若い神官が神殿の入り口で待っており、ナーニョ達を見つけるとすぐに案内する。
ローニャは初めての大きな建物に興奮しっぱなしだ。
参拝客と神官が行き交っていて神殿内は活気に溢れていた。国一番の大きな神殿と聞いていただけあって建物の大きさにも、人の多さにも圧倒される。
「ナーニョ様、ローニャ様、こちらです」
そうして神官のみが入る事の許されている通路を通り、どこか別の建物に向かうようだ。
人の居ない静かな通路は両側の窓が大きく取られていて足元には重厚な絨毯が敷かれ、光が差し込みとても荘厳な雰囲気を醸し出している。
通路の先に細部にまで装飾が施された一枚の扉が見えた。
私たちはその扉の前までやってくると、神官は「どうぞ」と扉を開いた。
開かれた扉の先から見える景色は今まで目にしたこともない緻密な絵が天井と足元に広がっていた。
私とローニャは思わず息を呑んだ。
案内する神官は二人を気にする事もなくスタスタと歩いていく。そして一番奥の部屋に到着すると、神官が扉をノックした後、扉は開かれた。
「ようこそナーニョ様、ローニャ様、首を長くして待っておりました」
先ほどの荘厳な作りとはまた違っている。
モスグリーンの無地のカーテンをはじめ、大きな机やソファなどが置かれ、贅沢を味わうというより仕事をするための部屋になっていた。
そして中央の机に居たのはグリークス神官長その人だった。
「グリークス神官長、こんにちは。今日は教会の日という事で教会に来ました」
彼はすぐに立ち上がり、入り口まで来て私たちをエスコートするように手を取ってソファに座らせた。
「今日は一日教会に時間を取っていただきありがとうございます。ゆっくりと話を聞きたいところですが、時間が惜しい。すぐに取り掛かりましょう」
神官長はそう言うと、侍女にマートス長官からの預かりものがあるかの確認をしている。
「まず何からはじめますか?」
「この間、私に魔力があるとナーニョ様は仰っておりましたが、お聞きしたい事がいくつかあります」
私もローニャも彼の言葉に軽くうなずいた。
「どうぞ」
「ありがとう。食べていい?」
「ええ、もちろん」
グリークス神官長付きの神官は私たちに木の実とお茶を出すと、ローニャは笑みを浮かべ木の実を頬張り喜んでいる。




