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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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29 新しい指輪の試験

 助手のエリオットの案内で病室に着いた。


 昨日、ローニャは三分の一程の患者を治療したらしい。騎士たちは広い部屋に詰め込まれていた。


 昨日に比べて圧迫感が和らいだとはいえ、まだ三十人近くベッドで寝ていた。


「エリオット医務官、今日もローニャちゃんは治療してくれるのだろうか?」


 一人の若い騎士はエリオット医務官に期待するように聞いてきた。


「いえ、ローニャ殿は今の時間はこの国の言葉の勉強をしています。今日はローニャ殿の姉、ナーニョ殿がおられます。研究所の新しい道具の試験に来たのです」

「ローニャちゃんの姉? 君も治療ができるの?」

「少しですが」


 話しかけてきた騎士を無視するように、第二研究室の研究員が私に話しかけ始めた。


「色々と騎士達が言ってくるとは思いますが、気にしなくていいですので。では指輪の試験を始めましょう」


 無視された騎士は不貞腐れながらも私たちのやる事に興味があったようでじっと見ている。


 研究員が取り出したのは幾つかの指輪。どの指輪にもヒエロスと言葉が刻まれている。


 どれも同じように見えるが、一つだけ金色だったので素材の違いを一目で見てわかった。


 まず、金色の指輪をつける。


 冷んやりとした金属の感覚が指に伝わってくる。少し魔力を通してみるとやはり金色の指輪は魔力が通りやすい。


「騎士様、昨日はローニャが五月蠅くしてしまい申し訳ありません。今から私がローニャに変わって治療をしますね」

「あ、あぁ。頼んだ」


 そうして一番近い騎士に魔法を使う。


 魔力の通りが良いせいか一瞬で治療は完了したようだ。ゆっくりと体調を確認するような時間はないようだ。


 そして私の持っている指輪に比べ魔力を多く使っている感じがする。


 すぐに自分の指輪を嵌めなおして騎士の体調を確認すると、怪我をした箇所以外の古傷も治していたようだ。


「おぉぉ! 治ったぞ!! ナーニョさんといったね。ありがとう!! 一瞬だった! すげぇぇ!」

「回復したならすぐに騎士団の詰所にお戻りください。ナーニョさん、使い勝手はどうでしたか?」


 騎士の喜びとは反対に淡々とした研究員。私は無愛想な研究員の代わりに微笑んだ。


 騎士も研究員はいつも研究以外、興味が無いのを知っているのか私にありがとうと感謝してくれている。


「この指輪だと魔力で身体の弱っている部分を探す間が無いほど治療が一瞬で終わります。ただ、魔力の通りがよすぎて魔力を使いすぎてしまうことに不安が残ります。私の場合ですが、ヒエロスとして使うより攻撃魔法か上位魔法を入れた方が良いような気がします」

「なるほど。では次にいきましょう」


 先ほどとは違う指輪を受け取り、隣の怪我をした騎士に話し掛けた。


「治療していきますね。痛い場合すぐに言ってくださいね」


 先ほどの指輪とは違ってゆっくりと流れ出す魔力。ただ少し魔力の流れに抵抗があるような気がする。


 先ほどと同じように怪我を治療していく。


「お前! 顔の傷が無くなっているぞ!?」


 向かいにいた騎士が治療をした騎士に言った。


「本当か? 俺のハンサムな顔が取り戻せたのか!! 確かに顔の痛みが無くなった。ナーニョさんありがとう! これで世の女性を不幸にさせずに済む」


 彼の言葉にドッと笑いが起きた。


「治って良かったです。これからは女性に恨まれることはないようにして下さいね」

「ナーニョさん、どうでしたか?」

「魔力の通りは悪くなかったのですが、少し抵抗を感じました。その分魔力はロスがあるような感じです」

「なるほど。では次をお願いします」


 こうして幾つかの指輪を試してみた。どの指輪も結果として治療する事が出来た。


 その中に使い勝手が良い指輪があったのが幸いだった。


 研究員にローニャの分も同じものが欲しいと言うと、すぐに用意してくれるようだ。


「ナーニョ様、一応ヒエストロの指輪も作ってみたのですが、使ってみますか?」


 材質は先ほどとは違い、銅鍋のような色をした指輪で、父や母の指輪を見せた時のような小さな装飾がされてあった。


 私が指輪の形状を伝えた物を再現してくれたようだ。


 不安はあったけれど、怪我をした人たちの怪我が少しでも回復できるのならやってみる価値はあるのではないかと思い指輪を受け取った。


「これは、教会の台所で使われていた銅鍋と同じような色をしていますね。では、試してみますね。騎士様方の怪我が少しでも早く治りますように」


 私はそう口にした後、範囲魔法『ヒエストロ』を唱えた。


 指輪は魔力の通りが良く、淡い光が波紋を描くように騎士達を包んでいく。


 怪我人が多いせいか魔力を根こそぎ持っていかれるような感覚に襲われ、私はその感覚に耐えきれずに片膝を突いた。


「ナーニョ殿!!」


 魔力の調整をして維持しようとしていたけれど、まだ難しいようだ。魔力が底を突き、淡い光はフッと消えてしまった。


「……ごめんなさい。治療しきれませんでした」


 私一人ではこの部屋にいる全ての怪我人を治療出来なかったようだ。


 自分ではもう少しできると思っていたのに。


 少し悔しくて残念そうにしている私とは違い、騎士達は興奮し、大騒ぎとなっていた。


 ……どこまで治療が出来たのだろう。


 私は力が抜け、ふらりと倒れかけたところを、すぐにフェルナンドさんに抱えられた。私は指輪を研究員に返した。


「ナーニョさん、素晴らしい結果をみせてもらいました。試作品でここまで披露して頂けるとは。どれほど治療が出来ていたか確認します。ナーニョさんは研究室にお戻り下さい」


「この指輪は使えたけれど、対象となる人数を絞れず、魔法にムラが出ていたような気がします。最後まで協力出来なくてごめんなさい」

「十分ですよ!!」


 興奮した研究員はこれから一人ひとり怪我を確認していくようだ。


 騎士達は完全とはほど遠いながらも身体の痛みが軽減した事や光に包まれた事に感動していたようだ。


「ナーニョさん、ありがとう!」


 騎士達は感謝の言葉を口にしているが、フェルナンドさんに抱えられていた私は疲労感と共に急激な空腹に襲われて会釈するだけで精一杯だった。


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