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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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116/119

116 ヒエロスの指輪

「今は家族みんな忙しくて時間が取れないから今日の食事には絶対出るんだぞ? 部屋食は無しだからな?」

「もちろんです! お土産を持ってきたんですから。あ、兄様にも渡さないと」


 私はケイルート兄様にもお土産を渡す。


 私たちの腕輪とは少し違うけれど、金でできた指輪に宝石のような魔獣の玉が嵌っている。


 これは特注品なの。

 お父様やお母様にも同じものを用意した。


 討伐時に魔獣の玉がいくつも取れたんだけど、宝石のような綺麗な物は数が少なかった。


 いつもの玉は魔力を増幅させる作用があるが、宝石のような透明な玉はほんの少しだけ私の魔力が入る事に気づいた。


 持ってみてなんとなく、もしや、と私の勘が囁いた。


 これも数千、数万と魔獣を焼いて出てきた物。

 どれも小指の先ほどのものしかない。


 私はローニャの宝石箱を作った職人にお願いをしてこの特殊な玉の装飾品を作ってもらうことにしたわ。


『ナーニョ様のために』と昼夜問わず職人さんは頑張ってくれた。そうしてでき上がった指輪には装飾の一部のようにヒエロスの呪文を彫ってもらった。


 試しにエサイアス様に使ってもらうとやはり魔法を使うことができた。


 私やローニャ、グリークス神官長が使うような回復魔法には遠く及ばない。しかも一度きり。けれど、魔力のない人たちからすると夢のような代物だと思う。


「ナーニョ、素敵な指輪をありがとう」


 ケイルート兄様はただの装飾がついた指輪だと思ったらしい。ローニャも横から興味を示している。


「ねぇ、にいさま。この指輪、普通の指輪じゃないよ?? ……!?」

「あら、ローニャ。普通の指輪じゃないことが分かった?」


「うん、だって、この指輪装飾のように呪文が刻まれているわ? それって変でしょう? 詠唱の言葉を刻んでも何もおきないもの」

「良いところに気づいたわね。ケイルート兄様、その指輪をはめてみて下さい」


 ケイルートは訳が分かっていないようだがナーニョの言葉に従い、指輪をはめてみた。


「はめたぞ? 何もないが?」

「兄様、試しにローニャの手に触れて『ヒエロス』と言ってください」


 ローニャは面白そうだと満面の笑みを浮かべてケイルートに手を差し出した。ケイルートはローニャの手を取り、疑問に思いながらも言葉にする。


「??『ヒエロス』」


 すると指輪から淡い光がローニャを包み込んだ。


「!!! やっぱり! 凄いよ、お姉ちゃんっ!」


 ローニャは喜んでいるが、ケイルートは目を見開き固まった。


「ふふっ。これはまだ研究所の人も持っていない特別品です。どうですか? ケイルート兄様、驚きました?」

「……あ、あぁ。こ、この指輪、は、何だ?」

「一度だけなのですが、ヒエロスが使える指輪なんです」


「回復魔法か!」

「兄様、このことは内密にお願いしますね。食事の時にお父様とお母様にも渡そうと思っているんです」


 私はケイルート兄様が付けている指輪に魔力を補充しながら言った。


「私やローニャが使う魔法には及びませんが、何かあったときに兄様を助けられるでしょう? まだ研究所の人たちも知らない指輪なんです。極秘ですよ?」


 ケイルートはバッと顔を上げ、周りを見渡した。部屋の中にいるのは兄様の護衛のみ。


 私たちは姉妹水入らずが良いと侍女に下がってもらっていたのだ。


「おい、お前! この事は絶対に漏らすなよ? お前しか知らないことだ。話が漏れたらお前からだからな!! 命令だ」


 ケイルートは焦ったように騎士に命令する。


 きっとあと半年か一年後くらいには公表されるかもしれないけれど、この玉はかなり貴重品だと思う。


「ナーニョありがとう。本当に嬉しい。ずっと肌身離さず付けておく」

「喜んでもらえて良かったです」


 兄様ともっと話をしたかったけれど、ここで「執務の時間です」と従者が呼びにきてしまった。


「お姉ちゃん、凄い物作ったんだね。私も負けてられないわ!」

「ふふっ。たまたまよ? ローニャだって色々と発見や発明しているじゃない。きっと人々はこの先もローニャが作った物を使い続けるのよ?」


 ローニャは研究所の人たちと一緒に対魔獣の武器だったり、グリスコヒュールの指輪を作ったり、魔力を持つ人々の教科書になるものを作ったりしている。


 私なんて足元にも及ばない。


 ケイルートが執務に戻って夕食までの間はゆっくりと二人の時間を過ごした。


 ローニャは王宮で研究員の人たちと研究をしつつ、王女として忙しくしていたらしい。


 グレイス妃が神殿へ預けられてから貴族たちの勢力図も大きく変わり、ローニャはとても居心地が良くなったようだ。


「みんなが褒めてくれるの」と喜んでいた。


 ローニャの周りは従順な人だけになってしまったのかと不安になっていたけれど、研究所の人たちやケイルート兄様はローニャがわがままになりそうになるとしっかりと苦言を呈してくれると言っていた。


 その場はムッとするけれど、その苦言に間違いはないようで後で謝る事もしばしばあるらしい。


 人の忠告や意見を受け入れることができるなんて大人になったんだなって私は思ってしまった。


 なんだか母親になった気分ね。


「ナーニョ様、ローニャ様。夕食の準備ができました」

「「はぁい。今行きます」」


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