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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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112/119

112 綴じられた空間

 魔力が一気に無くなる。


 ……これはもしかして複数人か複数回行う作業なのかもしれない。


 魔力を放出するという感じではなく、無理やり吸い上げられるような感覚。意識まで持っていかれそうだ。


 光は空間の端にピタリとくっつき、ジワリジワリと空間を塞いでいく。


 魔獣たちは私に突撃しようと走り、空間にぶつかるが、グリスコヒュールで作られた光に弾かれている。


 空間に光が半分掛かろうかという時に魔力が残り僅かになり、無理やり指輪を指から抜き取った。


 私は魔力と指輪を切り離した衝撃でドサリと地面に尻もちする。


 お尻の痛みよりも、確認しないと。


 そう思い、視線を異次元の空間に視線を合わせると、どうだろう……。


 先ほどの強い七色の光は消えたが、光が覆っていた空間の半分が元に戻っている。


 つまり、開かれた空間が半分になっていた。


 空間はしっかりと綴じられている。

 騎士たちもそれを見て一瞬動きが止まった。

 その後すぐに雄叫びが聞こえてきた。


「おぉぉぉ!!! 異次元の空間が、小さくなっているぞ!!!! 俺たちは希望がある!!!」


 誰かのその声を聞いた騎士たちは更に歓声が上がっている。


「魔獣はまだいる! 全軍対処を行いながら一旦街へ戻れ!」

「「「オォォォォ!!!」」」


 第五騎士団長の掛け声で徐々に魔獣を討伐しながら下がっていく。私は護衛騎士に抱えられるようにして後ろに一緒に下がった。


 ポケットの木の実を口に含ませながらまだまだ街に戻るまで不安が消えない。


 ……魔法を使いすぎた。


 今、大怪我をしたら取り返しがつかない。行きと違い、戻りは急いで来た道を戻る。魔獣に追いかけられながらも、無事に街に戻ることができた。


 ……街に戻ることができたの。


 安堵の気持ち、不安だった気持ち、焦りや葛藤、今までの気持ちが一気に溢れだし、気が付けば涙が止まらなくなっていた。


「ナーニョ様、大丈夫ですか!?」

「ごめんなさい。私の魔力ではあれが限界でした……。それに魔力の配分が上手くできず、申し訳ありません」


 カノート団長が心配して声をかけてくれる。その間にエサイアス様は騎士たちに整列を指示する。


 私たちは整列した騎士たちの前に立った。そしてカノート団長は話をする。


「今回の目的はあくまで異次元の空間の場所の把握、湧き出る魔獣の確認だ! だが、ナーニョ様の魔法を試したことで空間の半分は綴じられた!


 湧き出る魔獣は半分となった。これは奇跡としか言いようがない! 神は我々を見捨てずにこうして奇跡を目にした! 今回の目的としては十二分の成果を得られたんだ。皆もよく頑張ってくれた。


 この後、エサイアスほか、隊長たちは集まること! 次回の細かな作戦が決定次第通達する。次回に向けて今は休息に務めるように。後から怪我人は申し出よ。いいな! では解散する!」

「はい!」


 騎士たちは改めて駐屯所に戻る者と、訓練場の一角にテントを張り、休憩を取る者に分かれた。


 街を出るまでの緊張した雰囲気とはガラリと変わり、空間が半分綴じた余韻が彼らを明るくさせていた。


「ナーニョ様、邸に戻って急いで食事を」

「そうですね。お腹が減って倒れそうです。カノート団長、エサイアス団長、申し訳ありませんが先に失礼します。後ほど伺います」


「ナーニョ様、無理しなくていいよ。よく頑張った。お疲れ様。あとでこちらから邸の方に向かうから大丈夫だよ」


 私は団長や隊長たちに軽く礼をした後、急いで邸に戻った。


 部屋には既に軽食が用意されていて座ると同時にパクリと口に運んだ。


 とってもお腹が減っていたの!


「ナーニョ様、今別の物もお持ちします」


 侍女は食べつくす勢いの私をみてたくさん食べ物を出してくれる。パクパクと食べ進めていくうちにようやく落ち着きを取り戻した。


「もうお腹いっぱい。たくさん食事を用意していただいてありがとう。助かりました」


 私の言葉を聞き、侍女は微笑みながら頭を下げる。


 その後、湯浴みをしてのんびり過ごしていると、打合せが終わったようでカノート団長とエサイアス様が邸に来た。


 邸の家令に案内され、私たちはサロンに入った。


「ナーニョ様、本日はありがとうございます」

「いえ、こちらの方こそ。指輪の試弾をしてしまったために騎士たちに怪我の危険を高めてしまった事を申し訳なく思っています」


「とんでもない! ナーニョ様のおかげでこの世界の人間はどれだけ救われたか。我々が立ち去った後、別の班がそっと異次元の空間の様子を観察しているのですが、空間が半分になったことで向こう側の入り口で魔獣が詰まっていてこちらに数匹ずつしか出てきていないようなのです。


 空間の大きさからして大型の魔獣は通ることができない。慌てずともなんとかなる」


 カノート団長の話を聞いてホッと胸を撫でおろしたのは言うまでもない。


「先ほど、隊長たちと話し合いながら報告書を纏めておきました。王宮へ送っていただけますか」

「もちろんすぐに送ります」


 私は書類を受け取るとその場で父に報告書を飛ばした。


「私がここに転移魔法で飛んでくる前に陛下からローニャ様の魔法が回復次第、追加で騎士団を手配していただける事になっておりました。幸いな事に今回の魔獣はまだ対処しやすい。


 あと数十人が転移してくればこちらとしてもかなり楽になると思っています」

「ナーニョ様の体調は大丈夫かな? 無理していない?」


「エサイアス様、今は魔力が少ないですがそれ以外は大丈夫です。いつもエサイアス様やほかの方たちが配慮してくれているのが心苦しいくらいです」

「そうか。よかった」


「ナーニョ様、魔力が大まかで構いませんが、戻るのはどれくらいかかりそうですか?」

「……そうですね。大体一晩しっかりと寝ていれば戻っていますが、異次元の空間を綴じることを考えると丸一日はしっかりと確保したいところです」


「わかりました。再び綴じるのは二日後の朝にしましょう。明日はきっと別の団が送られてくると思います」

「今日のように魔法円が必要ですね。あと、今日の進軍で怪我をした人はいますか?」


「ナーニョ様の魔法のおかげでみな怪我をしておりません。むしろ元気が有り余っているくらいですよ。この後から明日一日は数班に分けて魔獣を少しずつ討伐することになっています」

「わかりました」


 そこから明日、明後日の詳細を聞いて動きを一つ一つ間違いのないように確認していった。


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