111 騎士団の移動
描き終えた魔法陣に魔力を通すとぼわんと光に包まれた。大丈夫。しっかりと発動ができた。
あとは明日を待つだけ。
多分だけど獣人の世界の軍隊でかなりの人数が移動していた。何度かに分けて人が送られてくるのだろう。
残念な事に土に描いた魔法陣は毎回足跡で消えてしまうのでその都度描いていくしかない。
私は護衛騎士に起こしてもらうようにお願いをしてベッドに入った。緊張と不安でなかなか眠れなかったが、いつの間にか眠っていたようで朝、護衛騎士が起こしてくれて慌てて起きた。
朝食を無理やりお腹に押し込み、急いで訓練場へ向かった。エサイアス様や隊長たちは既に揃っていた。
「遅くなりましたっ」
「ナーニョ様、おはよう。大丈夫ですよ? まだ騎士たちは送られてきていないよ」
しばらくするとローニャから伝言魔法が飛んできた。
『お姉ちゃん、そろそろ準備はいい?』
『こちらはいつでもいいわ』
『了解』
するとすぐに魔法陣は光り、一瞬にして三十人程の人たちが送られてきた。彼らは事前に聞かされているようですぐに場所を移動する。
私は魔法陣を再度書き直して魔法が発動するか確認した後、ローニャに伝言魔法を送る。
そうして第二、第三、第四、第五陣まで騎士たちが送られてきた。
『お姉ちゃん。今回はここまででごめんね』
『十分だわ。ありがとうローニャ』
ローニャの魔力が切れたのだろう。返事は返ってこなかった。送られてきた人たちは巡視に参加していなかった第十二騎士団の人たちや第五団が派遣されてきた。
第五団団長ヤーシュ・セイン・カノート団長。歳は三十を超えたところ。大柄で逞しい体つきの彼は額に大きな傷がある。
その傷は家族が魔獣に襲われた時に付けられた傷だ。以前治療しようとしてこの傷は自分への見せしめなので残してほしいと言われ、そのまま残っている。
彼の団もよく魔獣討伐に出ていて猛者ぞろいで有名なのだ。
第五団の団長や騎士たちにエサイアス様はすぐに状況報告をし、敵の様子を伝える。
今回主に空間から出てきた魔獣の大きさは猪程度。一体一体の強さ、硬さはなく、むしろすぐ倒せるようだが、なんせ数が多い。
相手は突進してくるので気を付けて避ければ怪我は抑えられるようだ。
それに魔獣の多さから何処に空間ができているのか分からない。
ただ、敵は一方向から向かってきているのでその方向に進めば空間に辿り着くだろうという話だった。
「ナーニョ様から何かありますか?」
「えっと、今回は異次元の空間の場所を把握する事だと聞きました。騎士のみなさんには苦労を強いますが、よろしくお願いします」
私はそれだけ言って頭を下げた。昨日の会議ではまず、空間の場所を把握すること。
穴の状況の確認。どれだけ魔獣が湧き出ているのかを確認したら下がるということだ。
二回目は異次元の空間を閉じる、魔獣の数を減らすということが目標になる。
まだ試したことのない魔法。
研究所からは失敗するかもしれないので無理はするなと第五団長に話がされていたようだ。
騎士たちの士気は高い。第五騎士団団長カノート様の掛け声に全ての騎士たちが声をあげた。
「全軍出立!!」
街の人に見守られながら結界の外へ出ていく騎士たち。もちろん私は安全を考えて最後尾に付いている。騎士団が魔獣を見つけた方向にしばらく進んでいると、やはりたくさんの魔獣がこちらに向かっているようだ。
「準備せよ!」
隊長たちの掛け声に騎士たちは一斉に鞘から剣を抜き戦闘態勢に入った。
「目的は異次元の空間を見つけることが最重要事項だ! 足を止めるな!」
私は範囲回復のヒエストロを付けて定期的に騎士たちに掛けていく。
一割にも満たないが定期的に掛けることで騎士たちの疲労も軽減し、怪我も軽く済むからだ。
これはこの巡視で私は学んだ。
魔獣と戦うことで一番辛いことは体力が削られていくことだ。
疲れは集中力を欠けさせ、怪我を招く事態につながる。怪我の予防やすぐに回復することで怪我が軽くて済む。
魔力の消費もわずかで済むのでこまめに掛けた方が私としても楽なのだ。騎士たちはどんどん敵を斬りつけて進軍していく。
街道から南へ二キロほど進んだだろうか。
普段ならすぐに辿り着く距離でも魔物が湧き出て時間が掛かった。
「異次元の空間を発見いたしました!!!」
一人の騎士から声が上がった。異次元の空間は木の根元にあるようだ。そこから魔獣が数十匹ずつ飛び出している。
……今の私の魔力はまだ九割は残っている。
その場で一気に塞ぐことができるのだろうか?
ただ、グリスコヒュールの指輪の効果を試したことがない。今回の最大の目的はまず空間を見つけることだった。次は空間を閉じることが目的。無理はしない。
だが、魔力は豊富に残っているし、一度指輪の効果を試してみてもよいと思う。
「エサイアス様! 私を異次元の空間約二メートル手前まで近づいても良いですか? 初めて渡された指輪なのです。一度、指輪が使えるか確認したい」
「……わかりました。全軍、ナーニョ様を守りながら異空間に近づけ!」
ゆっくりとだが、魔獣を倒しながら前進していく指輪を変えて魔力を指輪に乗せていく。
上手くいきますように、そう願いながら。
『グリスコヒュール!』
すると、指輪から七色の強い光が飛び出し、異次元の空間に向かっていく。




