107 高まる期待
工業が盛んな街と言っていたけれど、のんびりした田舎の風景というような感じにも見える。人々もどこか穏やかな顔つきで魔獣の被害は無縁のようにも見えた。
「ようこそおいでくださいました。私はこの街の管理を任されているオリヒスと申します。要望などがありましたら是非私にお伝え下さい」
「オリヒス殿、出迎えありがとう。早速だが、我々はノーヨゥルからここの話を聞いてきた。この街たちは魔法使いの子孫が暮らしていると聞いたのだ。是非調査の協力をお願いしたい」
「……魔法使いの子孫、ですか。街では言い伝えは残っていますが、誰も魔法を使っているのを見たことはないですね。まぁ、打ち合せ等の詳細は後ほど。まず、お疲れでしょう。駐屯所の方に案内しますので休んで下さい」
オリヒスさんに案内されて騎士団は駐屯所に到着した。私の今回の宿泊先は公爵が管理する邸の客間を使わせてもらった。
オリヒスさんの話ではノーヨゥルもそうだが、この街も街の人たちの結束は強いらしい。
昔はノーヨゥルの街と交流があったが、強い魔獣が出て以降最低限の行き来になったようだ。だが、公爵領では公爵様が領内の平和を守るべく街に騎士たちを派遣してくれるし、魔獣自体は数が少ないのでこの街は穏やかに過ごせているということだ。
「公爵様から聞いております。この国の王女でありながら聖女でもあるナーニョ様。どうぞ我らを安寧の導きを」
オリヒス様はマーダイン公爵からどう聞いたのだろうか?確かに王女ではあるし、治療を行ったりはしているけれど、聖女? とはいまだ違和感がある。
最近言われなくなっていた言葉。
あえて否定して説明するのも面倒なので笑顔で濁しておく。オリヒスさんの話では騎士たちが定期的に魔獣を狩っているので街の人たちの怪我人はかなり少ないらしい。
ただ、騎士は怪我をして長距離を移動できず、今もこの街に住み続けている人が何人もいるのでその人たちを優先して治療して欲しいということだった。
今回の私のやることは街の人の魔力量を調査することや街に空間が開きそうな箇所があればすぐに浄化すること。騎士の治療、畑と井戸に魔法を掛けることだ。
前回はローニャがいてくれたおかげで時間がかなり短縮されたわ。今回は一人でやらなければいけない。けれど、この街にもきっと魔法使いになる人がいると思うと手を抜いてはいられない。私は気持ちを引き締めた。
この日、エサイアス様はオリヒスさんと打合せを行ったようだ。翌朝に私はその話を聞いた。
この地方に近々異次元の空間が開くかもしれないことを伝えるとオリヒスさんはすぐに公爵に連絡すると言っていた。
騎士団は巡視を行い、私は最初から別行動になるようだ。護衛と数名の騎士とで公爵領の騎士を治療した後、住人の魔力量の調査を行うことになった。
街には人がたくさんいるので数ブロックに分けて少しずつ行っていく。治療や街の人たちが集まるのは神殿のようだ。
私たちは神官様に挨拶をした後、怪我している騎士たちに魔法を一人一人掛けていく。怪我自体は塞がってはいるけれど、騎士としては働けないような傷。
彼らもまた傷を負って様々な思いを抱いているようだ。一人一人丁寧に治療すると感極まって涙している人もいる。
「辛かったですね。もう大丈夫ですよ」
「……ありがとうございます。俺、俺はもう一生歩けないと思っていました。また、歩けることができるなんて。ありがとうございます。あぁ、神様。聖女様、ありがとうございます」
今回の怪我人の中に身体の欠損をしている人はいなかったけれど、歩けない人や半分寝たきりの状態で荒んでいる人もいた。
そんな人たちに希望が持てるような治療ができたならそれはとても嬉しいことだ。このまま自分が聖女でもいいのではないかと思ってしまう瞬間でもあるわ。
今日呼ばれた怪我人の治療は早く終わった。私はもぐもぐとドライフルーツを食べながら午後の魔力量の調査に入る。一番先は商業施設の人たちが来るみたい。
「皆様ご協力ありがとうございます。すぐに調査を終えるように頑張りますね。名前と年齢、職業を教えて下さい」
そう声を掛けて一人一人名前と年齢、職業を聞き取り、魔力を見ていく。
「イーゼン、二十五歳、メイヤー店の受付です」
「魔力量を測りますね。手を出してください」
「イーゼンさんの魔力量は六です」
正直に言うと、驚いた最初からこの魔力量。
もしかしたらこの街の人たちはノーヨゥルの街の人たちよりも魔力量があるのかもしれない。
記録している騎士たちも二人、三人と記入していくうちに興奮しているようだ。
数時間でようやく一つのブロックの魔力量の調査が終わった。ノーヨゥルの街の人たちの平均は四だったが、今日の人たちだけで言えば平均が五程度。
全く魔力を持っていない人もいるけれど、高い人は八という結果になっている。
これは素晴らしい。
もしかして神官長を超える人も出てくるのではないかと期待してしまいたくなる結果だった。




