24 出会い
やがて雄索が本社に転勤になり、萌百合一家はN市に引っ越した。
「俺も頑張って稼がなくちゃ。ココのためにも静香のためにもね。これからは教育費だってかかる。」
本社のフェアトレード部門に転勤を願い出たのは、他ならぬ雄索自身だ。
「海外出張が多くなるけど、いいだろ?」
心美はようやく『はいはい』ができるようになった静香を抱えて、夫を見上げて小さくうなずく。
この人は、わたしのためにずっと頑張ってくれているんだもの。わたしも頑張らなきゃ。
「うん。わたし、頑張るから。」
幸せな家庭を維持するために、雄索さんは雄索さんの場所で戦ってくれている。
わたしも負けちゃいられない。
この子は絶対に幸せにするんだから! わたしとは違って、幸せな家庭の子にするんだから——!
しかし雄索が長く家を空けるようになると、まともな「母親」というものを知らない心美は子育てに戸惑うことが多くなった。
この子はなんでぐずっているの?
眠いの?
おなか減ったの?
なに?
なに・・・?
相談しようにも、夫は出張中。母親は刑務所。(いたところで、あんな母親は役には立たないが)
施設の先生たちも、今は遠く離れてしまっている。
ネットで調べたことを試してみても、むしろ静香は火がついたように泣き出したりするし・・・。
そもそもネットに書いてあることだって、真逆のこともあったりするし・・・。
学校の勉強のような「正解」が見つからない。
たまに帰ってくる夫は、以前と違って疲れた表情をしていた。
それでも夫の雄索は心美に優しく言葉をかけてくれる。
「ココも頑張ってるね。」
家に帰った時くらい、夫が休める場所を提供しなければ・・・。妻として。
だって、わたしなんかをこんなに大事にしてくれるんだもの。
頑張らなきゃ。
頑張らなきゃ。
雄索が仕事に戻っていくと、心美はまた1人で静香をみなければならなくなる。
でも
頑張らなきゃ。
頑張らなきゃ。
雄索さんも頑張ってるんだもの。
幸せな家庭を作らなきゃ。
わたしはこの子を幸せにしなくちゃいけない。
幸せにしなくちゃいけないんだから!
だが、そんなふうに思えば思うほど、心美は追い詰められていった。
心美自身、そうと気づかないまま——。
いつしか心美は、静香が泣くだけで自分が責められているような気になることが多くなった。
「泣かないで! 泣くんじゃない!!」
あ・・・。だめだ。こんなんじゃ・・・。
そんな時だった。
宗教団体『宇宙の真理』に出会ったのは——。
「その子はミロク天使の使いです。特別な子供としてあなたのところに来たのです。あなたはただ神の教えに従ってさえいればいいのです。」




