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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第3章 オーク編
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タイダルウェーブ

 「思ったより速い!」

 骸骨食人鬼騎士スケルトンオーガーナイトと相対したロザリオは、振り下ろされた骨戦棍ボーンメイスを躱して距離をとった。

 「でかいだけの木偶の坊なら楽だったんだがな」

 その巨体に似合わず、素早い身のこなしと攻撃を繰り出してくる相手は、強敵であった。

 この戦いでロザリオに不利な点が2つあった。

 一つはダンジョンの領域から外れている為にコアの戦闘支援が受けられないこと。

 もう一つは黒ローブの存在である。

 死霊術師と思われるそれは、召喚を終えたあとも、断続的に呪文で攻撃を仕掛けてくるのだ。

 使ってくる呪文が闇属性であり、恐怖や毒を付与するタイプが多いために助かっている面もあるにはあるが、これがクロコ達に向けられたらと思うとゾッっとする。

 自分が術者の目標になるように立ち位置を考えながら相手取るには、この骸骨騎士は難敵だった。


 「せめて盾があればな」

 何度目かの殴打を避けながらロザリオはつぶやいた。本来、特殊技能の守護者の盾は、保持している盾に掛けるものだ。盾の無い現状では防御力微上昇と魔法抵抗(低)の効果しか発揮されない。

 それらもこの接戦のなかでは得がたい支援ではあるのだが、元々回避より盾受けを主流に戦ってきたロザリオにとって、得意な戦型が取れないのがもどかしくもあった。

 こちらの攻撃は骨盾で受けられると貫通しない。敵の殴打は回避しないと鎧では吸収しきれない。

 クロコ達の側面からの攻撃も、骸骨騎士の防御力が高い為に、牽制にしかならない。徐々にロザリオが劣勢になり始めた。

 「シャー」 「シャシャー」

 クロコとグレコが何やら言い合うと、クロコが後方に走っていった。それを見た術者がクロコに向かって呪文を唱える。そこにグレコがブレスを吐いた。

 「シャアアアアーー」

 コールドブレスが術者にダメージを与えて、詠唱中の呪文を中断させた。その隙にクロコは水面に飛び込んで視界から消えていった。

 「主殿に知らせに行ったのか。ならばそれまでは保たせてみせる」



  その頃のコアルーム

 「コア、先の様子は確認できそう?」

 「・・・んん」

 やっぱりダメか。領域化できていない場所では、敵の有無でさえ確認できないみたいだ。ロザリオ達が戻ってこないところをみると、何かが起きたと思うんだけど、水路をくぐって到達できそうな眷属が、もう居ないんだ。

 ロザリオ達が倒したスケルトンファイター6体を吸収して、ホワイトリザードのグレコを召喚するのがやっとで、残りのDPだとランク2しか召喚できない。

 悩んでいると、コアが味方の反応を感知した。

 「ほむ」

 クロコが報告に戻ってきたらしい。詳細を送ってもらう。

 「骨の巨人に黒魔道士か。ネクロマンサーがスケルトンジャイアントを召喚したのかも。ロザリオだけだと防ぐのに精一杯の敵なのか」

 「シャー」 「ん」

 骨の巨人は固くて噛めない。だとしたらカティの電撃だけど、水面から遠すぎる・・・

 「コア、十字路と寝室の落とし穴を制御できる?」

 「えば」

 「DP使っていいから制御して」 「ん」

 「制御したら床板を閉めて」  「ん」

 「水牢の気圧を3に上昇」  「・・ん」

 「カティ、ロザリオの援護に送り込むから、電撃で骨巨人と黒魔道士やっちゃって!」

 「ん!」 「ピュイ?ピュピュ??ピャーーーーー」


  

 「オークックックッ、エルフの女騎士も大言壮語を放った割には防戦一方ではないか、ブヒィ」

 骸骨食人鬼騎士スケルトンオーガーナイトに押されている女騎士を眺めて、元男爵はご満悦だった。

 「すでに満身創痍で、あと一撃入れば瀕死となろう、そうなればオークックッ」

 いかがわしい妄想をしながら、その時を待つ元男爵の目に、奇妙なものが映った。

 「津波じゃと!ブブヒィ」

 水牢に続く水路へ降りる開口部から、水が吹き上がって、1m以上の高さの津波として襲い掛かってきたのだ。

 「なんだと!」 「シャシャーー!?」

 ロザリオ達も混乱したが、もっと驚いたのは敵方だ。大量の水の圧力に耐えかねて転倒してしまった。

 そこに波に揉まれながらカティが流れつく。

 「ピュピュピュイイイイイ」

 半分目を回しながらもマスターの指示を覚えていたカティは、骨の巨人と黒魔道士の中間で電撃を放った。

 水中に倒れていた骸骨騎士と死霊術士は、この電撃の直撃を受けて、一瞬、身体が硬直する。

 「そこだあああ」

 飛びつくように切りかかるロザリオ。ミスリルソードの斬撃で、骸骨騎士の左腕が切り落とされた。

 盾を失った骸骨騎士は、水中から立ち上がると、全ての力を骨戦棍に込めて打ち下ろそうとする。

 咄嗟に避けようとしたロザリオだが、今度は足元の水が仇となって思うように回避できない。

 覚悟を決めたロザリオは、回避をあきらめて、相打ちを狙った。

 「左腕はくれてやる!」

 振り下ろされる骨戦棍を左腕でいなして、骸骨騎士の頭蓋骨に渾身の突きを放った。

 「馬鹿め、盾の無い腕で骸骨食人鬼騎士のスマッシュが受けきれるものか!そのまま吹き飛ばされろ、ブヒィ!」

 間合いの長い骨戦棍の方が、一瞬早く届いた。

 「もらったでブヒィ」

 ガキーーン!

 だが、硬質な音を響かせて骸骨戦士の一撃はロザリオに止められてしまった。

 「いけええええ」

 カウンター気味に放たれた一撃が、骸骨騎士の頭蓋を貫いて破壊した。

 「なんでじゃああブブヒィ」


 「今の私は1人ではないからな」

 そう言ったロザリオの左腕には、小さなお面がついていた。

 「仮面をバックラーの代わりにしただと、ブヒィ」

 「そうだ、仲間の肉球が私を守ってくれたのだ!」

 「ば、ば、馬鹿なああ」


 元男爵が絶望している頃、カティの最後の電撃が飛んで、死霊術士も倒されてしまった。


 このエリアの支配者であった、死霊術士が倒されたことで、コアが速やかに領域化していく。

 コアのリンクが届くようになって、ロザリオ達とも連絡ができた。

 「ロザリオ達も無事だったみたいだね」

 「主殿か、ご心配をおかけした。まさか豚男爵の亡霊がでるとは思わなかったので」

 「黒魔道士って奴?」

 「いや、それは奴に支配されていたアンデッドの死霊術士だ。そこで黒焦げになって死体に戻っている」

 「じゃあ、豚男爵はどこにいるの?」

 「む、そういえば声しか聞こえなかったような・・・」

 「ここ」

 「え?領域下に敵対反応があるの?ロザリオとカティの丁度中間あたりだね」

 いわれて地面を良く見てみると、何か光る宝石のような物が落ちている。近づいて・・・

 「あ、ちょっと待って。それ宝石に見える?」

 「ああ、紅いからルビーか何かだと思うが」

 「ああ、そのまんまだね。たぶん死霊術の魔法壷マジックジャーでも掛けてあるんだろうから、遠くから石でも投げて壊して」

 「ふむ、良くわからんが離れた場所から壊せばいいのだな」


 的が小さいから時間がかかったが、何度目かの岩の直撃により宝石は砕け散った。

 すると紅い宝石から、紫色の煙が湧き出して、元男爵の姿をボンヤリと形作った。 

 「おのれええ、近づいたら魂を捕らえて身体を乗っ取ってやろうと待ち構えていたのに、ブヒィ」

 そう怨嗟の声を放ちながら、苦しげに消えていく。

 「なぜ死霊魔法の高位呪文の秘密を知っておるのだああ、ブウヒィイ」

 「なぜと言われても・・・ダンジョンマスターのたしなみ?」

 「そんなわけあるかああああ」

 


 薄れていく豚男爵の怨霊が最後に言い残していった。

 「お前らも道連れだブヒィ。我輩の末裔が復讐・・くれ・・る・・」 


DPの推移

現在値:53 DP

吸収:スケルトンファイターx6 +120

召喚:ホワイトリザード -90

設置(復旧):触れると深い落とし穴x2 -20

残り 63 DP

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