封じられた呼び名
少し短いので、夜に加筆する予定です。
「ベニジャ、オババの眷属にコアルームの状況を聞いて」
突入部隊を再編成しながら、出来るだけ内部の情報を集めようとしてみた。
『でかいフロストワームに乗った、ミイラの親玉が攻め込んで来たらしいけど、それ以降は念話もないし、指示もこないって言ってるぜ、ジャー』
こちらに情報を流す余裕が無いとみるべきか・・
ミイラの親玉って、まさかマミー・キングじゃないよね・・・
『ご主人様、デス様のおっしゃるには、キング級のアンデッドが側にいる気配がすると・・』
転送を待つ幽霊メイドのエルマが、見習い死神のデスから、冥界通信で聞いた情報を伝えてくれた。
「マジですか・・」
本当にマミー・キングだとすると、ヴァンパイア・ロードに匹敵する上位種である。普通なら喧嘩を売るような相手ではない・・・
「向こうから攻めてくるなら、撃退するしかないんだけどね・・」
「こちらの領域でないのもマイナス要因ですね・・」
隣でメイド長のカジャが、冷静な分析をしていた。
「まあ、マミー・キングだとすると、殆どの罠が効かないだろうから、戦闘力的には同じかな・・」
直接、戦闘領域に召喚ができないとか、変換で補給が出来ないとかの違いはあるけれど・・
「データのスキャンが出来ないのも不利かと・・」
ああ、それはあるかも・・出来れば戦闘データも欲しいとこだよね・・
オババの眷属に、念話で尋ねてもらおうとしたとき、ヘラから連絡が来た。
『ましゅたー、ボーン・ガーディアンだった二人が、たましぃいだけになって来たでしゅ・・』
どうやら、本格的にオババのピンチのようだった・・・
その頃、青水晶の間では・・
『クリエイト・ガーディアン!』
ヘラによる、ボーン・ガーディアンだった二人の魂の再守護者化が試みられていた。
しかし、その結果は・・・
「1体しかできなかったでしゅ・・」
そう、キャスターとアーチャーの二人を再構築することは叶わなかったのである・・
「「だからって、一つにまとめるのはどうかと思うぜ(のですが)」」
クリスタル・ガーディアン用の水晶が不足していたのか、魔力が足りなかったのか、出来上がった守護者は、1体の躯体に二つの魂が同居していた。
「お前達も仲が良すぎるだろう・・」
「・・一心同体・・」
セイバーとバーサーカーが、呆れたように見守る中、アーチャー/キャスターは、自分たちの最後を語った。
「「たぶん、エイシャント・フロストワームは倒したと思うんだが、黄砂の王は微妙です(だな)」」
「ねえ、本物の黄砂の王だったの?」
ビビアンが横から口を挟んだ。
「「そう名乗っていたし、オババ様もそう認識していたぜ(ようです)」」
「だとしたら、マズいわね・・」
「ビビアン、黄砂の王を知っているのか?」
ハスキーの質問にビビアンが答えた。
「アタシも伝説とか伝承で聞いただけだから、詳しくは知らないわ・・魔王の四天王の一人だとか、南の砂漠を統べる者だとか言われているみたい・・」
「四天王ってあれだろ、最弱が一番強いって噂の・・」
「なんでも四天王なのに、5人いるとか聞いたさね・・」
色々、混ざって伝わっているらしい・・
「「蟲を自在に操るし、蟲術も使ってくる・・本体も蜂の群体に変化するぜ(します)」」
二人から可能な限りの情報を引き出して、とれる対策は全てとった・・
後は、突入してから判断することにする。
「で、そっちの二人で一つは、戦力になるの?」
ビビアンが、アーチャー/キャスターに尋ねた。
「「悔しいが、満足に歩く事も出来ない・・」」
全身で二人三脚をしている様なものなので、立っているのが精一杯らしい・・
「「あと、名前で呼んでくれ(下さい)」」
「だってアーチャー/キャスターとか長すぎるわよ・・だったらアスターで良い?」
ビビアンの発案に、セイバーが反応した。
「ならばキャッチャーの方が・・」
「「「 それはダメだ! 」」」
周囲から、突っ込みの嵐が吹き荒れた。
「迂闊に呼ばないで欲しいっすね」
「それは禁忌の名前でしゅ」
「素人さんの火遊びで、肝が冷えたぜ、ジャー」
メンバーにとって、その名前は、黄砂の王よりも畏怖すべき対象であった・・・
「そ、そうなのか・・すまん・・」
どこか納得のいかないセイバーであった・・・
そこにエルマが転送されてきた・・
『皆様、準備の程は宜しいでしょうか?作戦の指示がご主人様よりあります、静聴願います・・』
「あいよ、こっちはいけるぜ、ジャー」
「「ケロケロ」」
『先陣は大蛙4体、搭乗者はワタリ、ソニア、ビビアン、バーサーカーで』
「ういっす」
「アタシが乗って大丈夫さね?」
「当然よね、派手に燃やしてくるわ!」
「・・了解した・・」
「ケロケロ」x4
『本隊がベニジャとクロコ、グレコ、騎乗者はゴブリンチーム3人とハスキー、スタッチで』
「3人ずつでギリギリだぜ、ジャジャ」
「「シャーシャー」」
「ギャギャ(こちら3人だと重量バランスが悪そうですね)」
「ギャ(俺が向こうにいく)」
「ギャギャ(大蛙は楽だけど、揺れるからな・・)」
「相棒、搭乗者と騎乗者の違いってあるのかよ?」
「たぶんだが、騎乗者が背中で、搭乗者は口の中だな・・」
ハスキーの指摘に、ビビアンとソニアの動きが止まった。
ワタリ達は、気にせずに次々と大蛙に飲み込まれていく・・
「えっと・・これ本気?・・」
「アタシは体格的に無理さね・・」
ビビる二人をベニジャが後押しした。
「慣れれば快適だぜ、あのデカイのも入るんだから、大丈夫だって、ジャー」
ベニジャが指した方には、既に準備が整って、大蛙の口から腕だけ出してサムズアップしているワタリと、縮こまりながらも、飲み込まれていくバーサーカーの姿があった・・
「「とほほ・・」」
二人は、肩を落しながら、恐々、大蛙の口に入り込んで行った・・
『あ、ソニア様、お渡し忘れるところでした』
エルマが、すすっと近寄ると、半透明のスカートの下から、長柄の武器を取り出した。
『ドワーフのアイアン様からお預かりして参りました・・蛇矛でございます』
それは、ボーン・サーペントの牙から造り出した、魔法の武器であった。
「どこから取り出したのか気になるけど、この先に待つ敵の事を考えれば、心強いさね・・」
ソニアは、光の加減で白く見えたり、碧く見えたりする蛇矛の刃を、頼もしげに見つめていた。
「俺のは預かってないか?メイドの嬢ちゃん」
『スタッチ様にも、これを・・』
そう言って、エルマは灰褐色のラウンドシールドを取り出した。
丸盾の縁には、自分の尾を飲み込む水竜の文様が、円を描くように刻まれていた。
「こいつは・・上々の出来上がりだぜ・・」
スタッチは、さっそく左腕に装備すると、バランスを確認する・・
『ハスキー様には伝言を承っております・・「武具を優先したから、すまん」との事です』
「ああ、それで問題ない・・アイアン爺さんに礼を言っておいて欲しい・・」
『承りました・・』
ハスキーとしても、このメンバーの面前で、ペアの指輪を持ち出されても困るところだった。
ビビアンの安全度を上げる為なら、恥を忍んで、ここで手渡す気でいたが、物が無いなら、それは仕方がない・・
そこまで考慮してくれたとしたなら、アイアン爺さんには、美味い酒を手土産に、改めてお礼に行こうと心に刻んだハスキーであった・・
『後詰はグリコ、騎乗者はルカと、ヴォジャノーイ』
「シャー」
「え~、あの人と一緒ですか~」
「よっしゃ、久しぶりの夫婦水いらずだぜ!」
妻と夫との間に、すごいテンションの差があった・・
『他のメンバーは、拠点防御しながら、その場で待機で』
「了解でしゅ」
「ヒヒィン」
「マスターの護衛は任せておいてくれ」
「私もここで待っていますデス・・」
「俺らはオババ様の救援に参加したい、ウガッ」
「ウガウガッ」
残されたオーガーリーダーとオーガーが、突入部隊を希望する・・
『悪いけど、現状でオババの眷属を指揮下に入れる事が出来ないんだ・・はぐれになっていれば問題ないんだけど、そうもいかないでしょ・・』
項垂れる2体に、ソニアが声を掛けた。
「こっちは任せておくさね、その代わり、ここは頼んだよ・・」
「姐御・・お任せします、ウガッ」
そして準備が整った・・・
『オペレーション・スプラッシュ・マウンテン・・開始!!』
『ざっぱーーん』




