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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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凍結湖縦貫トンネル

 『勝手に死んでるんじゃないわよ!』


 どこかでビビアンの声がしたような気がした・・


 既に魔女の呪いは、クラークの全身を蝕み、憑依している私の精神まで影響を及ぼしかけていた。

 四肢を動かすことができない・・

 床にうつ伏せになったまま、荒い呼吸を繰り返す事しかできなかった・・


 『オババ様・・』


 ビビアンに続いて、エルマの声まで聞こえた気がした・・


 幻聴が聞こえるようでは、もう持たないのかも知れない・・


 『オババ様、今、楽にして差し上げます・・』


 ああ、死出の案内人としては、エルマに付き添ってもらえるなら本望というものだ・・


 『オババ様、それはデスさんのお役目です・・』


 ・・・幻聴に突っ込み、された・・流石、エルマと言えよう・・・


 『いえ、オババ様の薫陶によるものです・・』


 『死に際の老婆に酷い物言いじゃの』

 『殺しても死にそうにありませんので』


 そこで意識がはっきりした・・・


 『エルマ?・・』

 『はい、オババ様』


 『お前、なんでここに居る?』

 『マスターに帰省の許可を頂きました』


 『その透けた姿はなんじゃ?』

 『ホムンクルス改め、幽霊メイドのエルマでございます』


 『で、その幽霊が何しに来よった?』

 『元マスターのご機嫌伺いに』

 そう言いながら、半透明のエルマは両手でクラークの身体をマッサージしていた。

 エルマの両手が淡く光る度に、クラークの老化した身体が、少しずつではあったが、生気を取り戻していた。


 『お前・・その力、どこで手に入れた・・』

 『ゴーストとして再出発するときに、身につけました』

 『いやいや、ゴーストの特技はエイジング(老化)であって、逆は出来ぬであろうが・・』

 『アンチエイジングは、メイドの嗜みでございます』

 納得いかないスカーレットであったが、現実に呪いによる負担が軽くなっていた。


 『・・どこまで戻せる?』

 スカーレットの問いに、エルマは正直に答えた。


 『私の全ての魔力を注いでも、現状維持が精一杯のようです』

 『・・なら無理はしなくていいぞ・・ゴーストのお前が魔力を枯渇すれば、消滅するじゃろう・・帰省の許可には、戻った先で成仏する事は織り込まれていないはずじゃ』


 『ですが・・』

 『それで呪いが解けるなら、無理もよかろうが、現状維持ができるなら、お前が消えては逆に困る』

 『・・了解いたしました』

 既に、大半の魔力をつぎ込んでいたであろうエルマは、アンチエイジングの手を止めた。


 スカーレットが、重たい上半身をなんとか起こすと、そこはコアルームの隅であり、頭上には水面が見えた。

 『これは・・大きな泡の中なのか?・・』

 『はい、ルサールカのルカ様が、水をコントロールして作り出してくれています』

 『よく黄砂の王にばれなかったな・・』

 『水の屈折率を変えて、姿を映らなくしてあるそうです。上から見ても、オババ様の姿は見えないはずです』


 どうやら大掛かりな、仕込がしてあるようだ。それにしてもエルマの救援といい、水の精霊の援護といい、タイミングが良すぎる気がするのだが・・


 スカーレットの疑問に気が付いたエルマが、答えた。

 『コアルームの隣まで、マスターがダンジョンを伸ばしましたから・・』

 『なんじゃと!!』





  少し前のコアルーム(凍結湖ダンジョン救援隊本部)にて


 「ヘラとグドンが地底に吸い込まれたって?」

 『そうなんだ、アタイらがついていながら、面目ないぜ・・ブヒィ』

 「いや、その話だとどうしようもないよ・・それで、凍結湖の水位は?」

 『今は、水流も治まっているが、湖の半分ぐらいは地底に流れ込んだみたいだぜ、ブヒィ』

 「二人の後は追えそう?」

 『穴はなんとかハル達が潜れる大きさだが、先が長いんで、息が続かないらしい、ブヒィ』

 先行して侠猪とアキが潜ってみたらしいけど、途中で引き返すしか出来なかったようだ・・


 「ルカと連絡が取れれば、呪文でなんとかなりそうなんだけど・・」

 『ダンジョンの中だと、遠話も届かないからな、ブヒィ』

 全員に試してみたけど、遠話が届いたのは、凍結湖ダンジョンのエリアの外に居る眷族だけだった。


 「まだリンクは切れていないから、最悪の事態にはなっていないはずだけど・・」

 『しんぱい・・』

 コアの情報によれば、グドンの生命反応が、殆ど感じられないらしい。凍結湖ダンジョンの防諜機能で詳しい所までは確認できないけれど、他のメンバーよりも明らかに反応が薄いという・・


 『こっちのダンジョンは、もう持たないかも知れないぜ、ブヒィ』

 「そう感じた理由は?」

 『明らかにあちこちガタがきてるんだ・・空気の流れも止まったし、通路の天井から湖水が漏れ出してやがる・・ブブヒィ』

 第1、第2階層が崩落して、オババがコアルームの維持に集中した結果、凍結湖ダンジョンは末端から機能麻痺に陥っていた。


 「危険だと思ったら、湖上に退避していいからね」

 『ああ、アタイらはギリギリまでここで二人を待つ・・ダンジョンへの入り口が水没したら、泳いで湖上のエルフと合流するから気にしないでくれ・・ブヒィ』

 それで、猪飛との遠話が切れた。



 「オババのダンジョン、まずいのかな・・」

 『・・ますたー・・』

 予想以上に被害が大きいみたいだ。

 奇襲を防ぎきれば、問題ないだろうと考えていたけれど、侵入者はこちらの想定以上に、戦力をつぎ込んだらしい・・


 『救援の許可を頂けますでしょうか?』

 エルマが、第二陣の派遣を願い出てきた・・オババとビビアン・・関係者の安否が気にかかるのだろう・・

 「・・途中まで転移させても、そこから地下水路で半日かかるよ・・」

 ヘラとグドンも心配だし、増援を送りたいところだけど、距離は如何ともし難い・・


 「でしたら、支配領域で繋げてしまうのはいかがでしょうか?」

 メイド長のカジャが、大胆な意見を出してきた。


 「そうは言うけど、凍結湖までの地下水路は、途中にフロストリザードマンの支配領域があって、分断されてるから・・」

 「そこを譲り受ければよろしいのでは?」

 カジャが、さらっと恐ろしい事を言った。


 「出来るの?そんな事・・」

 「居住地を丸ごと寄越せといえば、紛争になるでしょうけれど、地下の通路の一部なら交渉次第かと」

 なるほど・・でも時間が・・


 「幸いなことに、三日月湖周辺はハクジャ様の支配と認められておりますし、そこから凍結湖までのシマは、『鮫』が居なくなって空白地域です。ですが扱いは『凍結湖の竜』に一任されたと聞いております」

 どこから仕入れたネタなのか知らないけれど、流石だね・・


 「だったらいけるのか・・コア、第一機動部隊のアップルに遠話、居場所を特定して!」

 『らじゃー』




 幸いな事に、アップルは凍結湖のリュウジャに報告に戻っていた。

 直接は話せないけれど、状況を伝えると、快く許可をもらえた。


 『凍結湖に異変が起きれば、こちらにも影響が出るだろう・・しかも地底はまだしも湖周辺は我々のシマだ・・土足で踏みにじった相手には、それ相応の礼はしないとな・・』

 アップルによれば、リュウジャの浮かべた笑みは、歴戦のリーダーでさえ背筋が凍ったという・・



 「小竜会」の代理としてリュウジャから許可をもらい、支配領域の拡張を図った。

 「コア、どんどん繋げて!」

 『のびーる』

 凍結湖までの地下水路を一気に領域化した。


 凍結湖に繋がると、湖自体も領域化できることが判明した。

 「でもなんで?」

 『まんもすけろっぴ・・』


 どうやら、フロッグマンの召喚したギガントホーンドトードが、暫定的に凍結湖の主と認定されたようだ。それを倒したのが、うちのメンバーだったので、支配権を得られたらしい・・


 「オババの支配が届いていないね・・」

 コアが投影した凍結湖周辺の支配領域マップには、凍結湖の他にも、放棄された地下通路や崩落して出来た地下空洞が映し出されていた。

 支配領域が広がるにつれて、メンバー達に念話が届くようになる・・


 『こちら、湖上の親衛隊です。湖水の流出は完全に止まった模様・・渦も消え去りました』

 『ダンジョン繋げるとは、無茶するぜ・・空気の入れ替えだけ頼むな、ブヒィ』

 『こちらベニジャ、ヘラとグドンはこっちで拾い上げたぜ・・グドンが重傷なんだが、ヘラが無茶して治した・・でいいのかな、あれ・・ジャジャー』

 なんだろう・・ベニジャの報告が不安なんだけれど・・


 「ヘラ?・・」

 『大丈夫でしゅ・・聞こえてましゅ』

 『・・???・・』

 ヘラとは念話が通じたようだけど、コアの様子がおかしい・・


 「コア?」

 『・・にせもの??』

 え?ドッペルゲンガーか何かがスリ替わっているとか・・


 『・・ちがった・・ばーじょんあっぷ・・』

 ええ?ハーフナーガてレベル制じゃないの?


 いつの間にか、ヘラにパッチが当たっていたらしい・・・


 『だうんろーど、なう』




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