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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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二人ならば

 コアルームの台座の前に姿を現したのは、黒のタキシードを着込んだ壮年の男性であった。

 ロマンスグレーの髪に、碧い瞳、肌は白く、白人種に見える。背は高く、広い肩幅や引き締まった体躯から、若い頃は運動選手の様な、身体を動かす職業についていた風に見える。

 ただし、その目には力が無く、だらりと下げた両手は、年老いて皺だらけであった・・


 「なんだ・・召喚したと思いきや、老いさばらえたダンジョンマスターのご登場とはな・・その様子では満足に身体も動かせまい・・態々、死にに来たか・・」

 黄砂の王の言う通り、棺の中から転送されたダンジョンマスターは、未だに呪いから解き放たれているようには見えなかった。

 薄く開いた瞳も、何も映していない・・・


 『クラーク・・やはり目覚めたわけではないのだね・・だけど、貴方の声は届いたから・・』


 スカーレットはそう囁くと、特殊機能を発動した。

 『憑依ポゼッション!!』


 その言葉とともに、クラークの瞳に意思が灯った。


 「馬鹿な!己のマスターに憑依するだと!!」


 黄砂の王も、魔女と呼ばれるダンジョンコアの特殊機能は把握していた。眷族に憑依して自由にダンジョンの外に出られる能力ゆえに、自らの配下に組み入れようと画策もしてきたのだ。

 だが、さすがにダンジョンマスターに乗り移るとは思ってもみなかった。


 「所詮、悪あがきにしかならん! 位階の高い眷属ならまだしも、ダンジョンマスターのスキルや特技では戦えまい!! やれ!」

 両脇のアンデッドワームは、黄砂の王の命令に従い、今は一人となったクラーク/スカーレットに襲い掛かった。


 左右から挟みこむように攻撃してくるアンデッドワームを、彼/彼女はすり抜ける様に掻い潜ると、右側のワームを拳で殴りつけた。その手にはいつの間に出したのか、革の手袋が嵌められていた・・

 さらに、反撃を受けて一瞬、動きの止まったアンデッドワームを盾にして回り込むと、左側の個体にも格闘戦を仕掛けた。


 『弱点は頭部だろうけど、ここからだと届かない・・ならば!』

 そう叫ぶと、ワームの懐に飛び込み、拳、肘打ちの連撃を叩き込んだ。

 その連撃は、剣をも弾くワームの表皮を抜いて、体内にダメージを与えた。


 「その動き・・貴様・・何かやっていたな・・」

 

 『・・クラークを普通のダンジョンマスターだと思うなよ!・・』

 壮年の男性の口から、女性の声が放たれた。スカーレットが、クラークの身体を通して叫んでいた・・



 「「ギャシャアア」」

 怒り狂ったアンデッドワームが、鎌首を持ち上げて、左右から腐敗のブレスを吐こうとする。向かい合った2体が吐けば、前後左右の死角がなくなる・・


 「逃げられまい・・崩れ落ちるがよい!」

 アンデッドワーム同士には、腐敗のブレスは影響しない。お互いを巻き込むように、黒い霧が押し寄せる・・・


 『させるか!』

 しかしそれを、クラーク/スカーレットは台座を足場にして、天井付近まで跳躍することで範囲外に逃れた。

 さらに上空で身体を捻ると、ブレスを吐き終わって動きの止まったアンデッドワームの頭部に蹴りを放った。


 『くらえ、ムーンサルト・キック(月面宙返り蹴り)!』

 全身の運動エネルギーを、足蹴りに変換した必殺技が、ワームの眉間に炸裂した。


 「ギャギャシャアーー」

 床に叩き付けられたワームに、さらに追い討ちが掛かる。


 『これで止めだよ、サマーソルト・キック(後方宙返り蹴り)!!』 

 その一撃で、左側のアンデッドワームが沈んだ。

 クラーク/スカーレットは、倒したワームの上に佇み、床に広がった腐敗のブレスが拡散するのを待った・・


 「ありえん! 高レベルのモンク(格闘家)でもなければ、格闘術でアンデッドワームが倒せるわけがない!」

 驚く黄砂の王の前で、今し方、倒されたばかりのワームの死体が消え失せた・・


 「なに?!」

 それと同時に、床に召喚魔法陣が現れる・・


 『放っておけば、また貴様に使われるからね・・逆にこっちで吸収させてもらったよ・・』


 「・・・オーブから離れている間は、吸収は出来ないはずだが・・」

 『確かにね・・だけど今なら別さ!』


 正確には、クラークの身体で触れたものに、スカーレットがダンジョンシステムの機能を及ぼせるのだが、それを敵に教える必要はない。

 全ての機能を使用出来ると思わせた方が、スカーレットにとって有利だからである。


 召喚魔法陣からは、再び、アイスゴーレムが姿を現した。

 アンデッド以外で、蟲術にかからないとなると、スカーレットの召喚リストの中ではこれが一番強い。


 『アイス・ゴーレム、そのアンデッドワームを押さえ込め!』

 「魔!」

 クラーク/スカーレットの指示を受けて、アイスゴーレムがワームに掴みかかる。


 「ギャシャアー」

 ワームも大顎でゴーレムを挟み込もうとするが、サイズが小さくなったぶん、その力は互角であった。

 その隙をついて、クラーク/スカーレットの格闘術が炸裂した。


 『ウラウラウラウラウラッアアーーー』


 無防備な下腹部を抉られて、体勢が崩れたところで、アイスゴーレムに力負けして、床に押さえ込まれた。

 『ハアッ・・ハアッ・・これで終わりだ・・ムーンサルト・キック!』


 最後は必殺技で、止めを刺した。

 すぐさまワームの死体を吸収すると、2体目のアイスゴーレムを召喚する・・・


 『ハアッ・・ハアッ・・これで、貴様の僕は居なくなった・・形勢逆転だな・・』


 両脇にアイスゴーレムを従えた、クラーク/スカーレットが、黄砂の王を睨みつける。



 「くっくっくっ・・・そう言いながら、随分、焦っているようだな・・」


 『ハアッ・・・何を言っている・・後がないのは貴様だろうが・・』

 「いや・・ワシはまったく困ってはおらんぞ・・むしろ苦しいのはお前だろう・・くっくっくっ」


 黄砂の王の言うとおり、クラーク/スカーレットの身体は小刻みに震えていた。

 呼吸も荒く、額から汗が滴り落ちていた・・・



 白檀の棺から出れば、クラークの身体に掛けられた呪いは進行していく・・それは憑依しているスカーレットの意識にも影響を及ぼし始めていたのだ・・


 過激な戦闘も、クラークの老化した身体には負担であったろう・・それでも短時間でアンデッドワームを倒すには、その能力をフルに活用するしか方法がなかった・・


 『ハアッ・・ハアッ・・クッ・・・』


 やがて限界が訪れて、クラーク/スカーレットはその場で膝をついた・・・



 「ふうっはっはっはっ・・結局、貴様達の負けのようだな・・もがいて、足掻いて、縋り付いて・・それでも、何も変わらん・・・最後に勝つのは、やはり強者だということだ!!」


 黄砂の王の勝ち誇った声が、コアルームに木霊していった・・・








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