最後の決断
凍結湖ダンジョンコアルームにて
炎の幕を蹴散らして、黒い巨大蟲が鎌首を持ち上げた。
『いかん!回避じゃ!』
オババの叫びにキャスターとアーチャーは飛び退いたが、アイスゴーレム達は、再びスクラムを組んだ。
「阿---」 「吽ーーー」
巨大蟲の足元に立つ黄砂の王が、ニヤリと笑った・・
「滅ぼせ・・コラプト・ブレス(腐敗の吐息)!」
「ギャシャアアアアアーー」
巨大蟲から異臭を放つ黒い霧が噴出された。
それを正面から受けたアイスゴーレムが、みるみるうちに溶けて崩れ落ちる・・
「ガアッ・・・」
「チイッ・・・」
避けたはずのキャスター達であったが、広範囲に広がるブレスの端に掛かっただけで、手足が溶け落ちてしまった。
「右手が・・根こそぎか・・」
「こっちは両足が踝まで持っていかれたぜ・・」
台座の上のコアオーブは影響を受けなかったが、床に置かれた棺は、下半分が、黒く変色していた。
「まずい・・次のブレスは棺がもちそうにもない・・」
「とはいえ、俺らじゃ盾にもならねえだろ・・」
アイスゴーレムの巨体があってこその壁である・・それも今は上半身が溶け落ちて、動かなくなっていた。コラプト・ブレスの威力は、一撃でアイスゴーレムを屠るほどであったのだ・・
「くっくっくっ・・・今更、命乞いは認めぬぞ・・その目で、自分のマスターの最後を見届けろ・・そして、あちらの世界で、一生悔いるがよい・・ワシの誘いを断ったことを悔やみながらな!!」
『待てっ!!』
「遅いわ! アンデッド・エイシャントワームよ、愚かな魔女に思い知らせろ!」
「ギャギャシャーー」
再び持ち上げられる鎌首・・そこから放たれる死の吐息・・
だが、オババの制止は、黄砂の王ではなく、二人のガーディアンに向けられたものであった。
『隙を作ります・・オババ様はマスター様と撤退を・・』
『こいつは返せないけど、怒らないでくれよ・・』
念話でそう伝えると、キャスターが左腕で、歩けないアーチャーを抱えると、黄砂の王に突進した。
「オオオオオオーー」
半分、引きずられながら、アーチャーは床に落ちていた豪華な杖を拾うと両手で水平に構えた。
「死に損ないが、悪足掻きを・・・」
そう呟いた黄砂の王が、アーチャーの持った杖の放つ、尋常でない魔力に気が付いた。
「まさか・・いかん・・奴らを止めろ!!」
黄砂の王の叫びを聞いた巨大蟲が、ブレスの矛先を二人に変えて解き放つ・・
「ギャシャアアアアーー」
正面から腐敗の吐息を受けたキャスターの身体が、ボロボロと崩れ落ちた・・
「カタカタ(ここまでのようだ・・)」
一瞬遅れて、アーチャーの身体も崩れていく・・
「カタカタ(俺もすぐに逝くぜ・・)」
意識が途切れる前に、アーチャーはスタッフ・オブ・パワーの最終コマンドを起動させた・・
「バ・ル・ス」
閃光が全てを覆い尽した・・・
『3番・・12番・・聞えるか・・聞えておったら返事せい・・・』
オババは、眷属マーカーの全て消えたコアルームで、一人ぼっちで呟いていた・・
床には、通路から突き出した上半身を吹き飛ばされて、半分に千切れたアンデッド・エイシャントワームの死体が転がっていた。
ワームよりも爆心地に近かった黄砂の王は、粉々になったのか、黄色いローブの切れ端が床に散乱しているだけである・・・
キャスターとアーチャーの痕跡も、骨の一欠けらも残っていなかった・・
腐敗の吐息で崩れたところに、ファイナルストライクの爆発を受けた以上、仕方の無い結果である・・
オババのコアオーブと白檀の棺は、計ったように影響範囲から外れており、巻き上げられた埃が、降りかかっただけで済んでいた・・・
『馬鹿もんどもが・・自爆させる為に眷属にしたのではないわ・・大馬鹿もんどもが・・』
その時・・巨大蟲の下半身が、もぞりと動き出した。
『まだ動くのか・・』
最後のDPを使って、新たな眷属を召喚するか、青水晶の間にいるオーガーリーダーを転送するか迷ったオババの目に、信じたくない光景が映った・・・
巨大蟲の下半身から、もぞもぞと大量の黒い蜂が這い出してきたのである・・
『まさか・・生きておるのか・・』
這い出した黒い蜂は、みるみる集まって人型になると、どこからか舞い降りた包帯が巻きつき、1体の木乃伊が完成した・・
「くっくっくっ・・ワシは不死身じゃよ・・・」
そう呟いた黄砂の王が、巨大蟲の死体に片手を上げた。
「目覚めよ・・」
すると、吹き飛んだはずの上半身と、通路に横たわる下半身から、2体のアンデッド・ワームが造り出された。
それらはウネウネと身体を揺らしながら、黄砂の王の両脇に並んだ・・
「少し小さくなってしまったが、眷属のいなくなった魔女を折檻するには十分だろう・・くっくっくっ」
『ここまでじゃな・・』
残りのDPでは、現状を覆す術が無かった・・
時間稼ぎをしたとしても、黄砂の王を倒す方法が無い・・もうこれ以上、眷属を犠牲にして逃げ惑うのは止めよう・・・
ここまで執念深く追い詰めてきたのだから、今更、気が変わって立ち去ることもないだろう・・・
最後のDPはマスターの転送に使う・・
ビビアンの元へ送れば、悪いようにはしないはずだ・・
目論見を外された黄砂の王は、怒りにまかせてコアオーブを破壊するに違いない・・・
私が消滅すれば、それで済む・・・
だから・・サヨウナラ・・・
オババが、棺の中のマスターを転送しようとした、その時・・・
懐かしい声が聞こえた・・・
『・・俺を呼べ・・スカーレット・・』
それは、待ち望んでいた、あの人の声・・
それは、悔み続けた、あの時の記憶・・
『ワシは・・ワタシは・・また同じ過ちを犯すところだった・・・』
オババ、いやスカーレットは、張り裂けんばかりの声で叫んだ。
『クラーク!!』
安全地帯へ転送するはずだった、その人が、コアルームに出現した・・・




