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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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どこかで見たような・・

  凍結湖水面にて


 浮き袋とロープを使った潜水作戦の順番を待っていた、エルフ親衛隊の二人も、異常な振動に気が付いていた。


 「小隊長!湖面の中央に渦が!」

 「まずいな・・潜ったメンバーから反応は無いか?」

 「ありません!ロープは依然、下に強く張ったままです!」


 湖底で何か異変が起きているのは間違いなかった・・だが、それを回避する術はない・・

 

 「小隊長!このままでは渦に巻きこまれます!」

 徐々に大きくなっていく渦が、二人の乗った浮き袋へと近づいてきた・・


 「このまま待機だ」

 「しかし・・」

 「このロープは、先に潜った者達にとっての、文字通りの命綱だ・・水上で浮きに乗っている我々が、放棄して良いものではない・・」

 「・・・了解しました!」


 湖上のエルフ達は、刻々と広がっていく大渦を睨みながら、ロープに何かしらの反応があるのを待っていた・・・



 その頃湖底では、物凄い勢いで湖水を飲み込んでいく穴に、吸い込まれかけた猪飛が、必死に岩にしがみ付いていた。

 「ガボガボッ(畜生め・・水流がきつ過ぎて二人を助けるどこじゃねえぜ、ブヒィ)」


 突然空いた穴に、グドンとヘラが飲み込まれてしまっていた・・

 咄嗟に、湖底付近にあるダンジョンの侵入口から飛び出して助けようとしたが、手が届く前に二人とも水流に巻き込まれて、地下へと流されてしまった。


 「ガボガボッ(あの勢いじゃあ、後を追っても死にに行くようなもんだな・・グドンの野郎の根性に賭けるしかねえな・・ブヒィ・・)」


 少し離れた場所に、ぽっかりと開いた穴を見ながら、猪飛は二人の追跡を断念した・・

 だが、延々と湖水を飲み込む穴に、近づき過ぎた猪飛にも危機が迫っていたのである。


 グラッ  掴まっていた岩が、僅かに穴の方向へ傾いた・・


 「ガボッ!(やべえ!引き寄せられてる、ブヒィ)」

 激しい水流と不安定な地盤により、掴まっている岩が、徐々に沈みながら穴の方向へと動きだした。


 「ガガボッ!!(おいおい、嘘だろう!!)」

 とっさに岩から離れるが、それは水流に巻き込まれる結果になった。


 「ガボッ!(まずっ!)」

 手足をバタつかせて掴まる場所を探すが、付近にはもう、何も無かった・・


 

 そのまま水流に運ばれて、地下洞穴に叩きつけられるか、狭い穴を錐揉み状態で引きずり回されてボロ雑巾のようになる・・・あきらめかけた猪飛の足を、誰かが掴んだ。

 驚いて振り向くと、そこには、精一杯身体を伸ばして猪飛を掴む侠猪と、それを支えるハルとアキの姿があった。


 「ガボッ(お前ら・・)」

 未だに吸い込む勢いが収まらない、水流に逆らいながら、ジリジリと2頭の熊が下がっていく・・

 やがて水流の影響範囲外にたどり着くと、後はすんなりとダンジョンへ退避する事が出来た。


 「助かったぜ・・ブヒィ・・」

 多少は水を飲み込んだが、猪飛は大丈夫なようだ。


 「義姉さんだけでも救えて良かったぜ・・とんでもねえ勢いだ・・ブヒィ」

 下手をすれば助けに行った侠猪さえも引きずり込まれそうな湖水の勢いであった・・

 水面を見上げれば、凍結湖の中央に大きな渦が出来ている・・ガイドロープは、既に渦に巻き込まれて、どこかに行ってしまっていた・・


 「この渦が収まるまでは、身動きがとれないぜ・・ブヒィ」

 「そうは言っても、収まるのか?これ・・ブヒィ・・」

 「「 ガウガウ・・ 」」


 猪飛は、地下に吸い込まれた二人を心配し、侠猪は、湖面に浮いているはずの二人を心配した・・

 だが、彼女らに出来るのは、ただ無事を祈る事だけであった・・・




  地下水路、空気溜りにて


 「ルカ、魔力は平気か?ジャー」

 「ん~、まだいけますね~」

 地下水路調査班は、押し寄せる水流を、ルカのウォーターコントロールの呪文により逆流させながら、通路を遡っていた。


 逃げ場のない空気溜まりでは、湖水の激流に巻き込まれれば、一気にダンジョンの外まで押し流されてしまうに違いなかった。

 床はまだしも、壁や天井は凹凸の激しい箇所も存在しており、水流に翻弄されながら激突すれば、大怪我をする可能性が高かった。

 そこでルサールカの本領を発揮したルカが、呪文で湖水を逆流させたのである。


 そのまま耐えるだけでは、水流が緩やかになる前に、ルカの魔力が切れる恐れがあるので、精神集中を続けるルカを、グレコが背中に乗せて運ぶことになった。

 ルカの呪文の効果範囲に入った水流は、流れを変えて上へ上へと逆流していく・・


 「とはいえ、どこも水没していて、安全そうな場所が見つからないぜ、ジャー」

 「「ケロケロ」」

 わき道が見つかると、大蛙達が偵察に行くが、ここまでは水没した部屋しか見つかっていなかった・・

 

 しかし、しばらく進むと、通路が二股に分かれており、右側の分岐からは水が流れてこない場所に辿りつけた。

 「ちょっと狭いし、急な上り坂だけど、うちのメンバーなら問題ないぜ、ジャジャ」

 「「ケロケロ」」

 「「シャー」」

 ダンジョンの通路は少し毛色の違うトンネルを、ペタペタと登っていった・・・


 「でも~、なんかこのトンネル、変じゃないですかあ?」

 やっと呪文維持から開放されたルカが、周囲を見回しながら言った。


 「まあ、さっきより狭いし、階段もないのに急な登りだし、変といえば変かな・・ジャー」

 「それに、妙に丸いですし~」

 ルカが指摘したのは、トンネルが円形に掘りぬかれている事実であった。


 「ああー、でも穴熊ファミリーの塒もこんなもんだったろ、ジャー」

 「そうでしたっけ?こんなに大きく丸くは掘ってなかったようなあ~」

 確かに、後から拡張したとは言え、穴熊ファミリーの通路は、この半分ぐらいしかなかったはずである・・


 「だとすると、かなり大きな眷属用なんだろ・・ジャー」

 「ですかねえ~ このサイズだとフロストワームぐらいなら通れそう・・・あれ?・・」

 ルカの何気ない一言が、メンバーの足を止めた・・


 「なんか嫌な事を思い出したぜ、ジャー」

 「偶然ですねえ~わたしもです~」

 ルカの亭主を飲み込んでいた、フロストワームは、いったいどこからやってきたのか・・

 その答えが、目の前にあるような気がする二人であった・・・


 

 「どうします?~」

 「進むしかねえだろ・・ジャジャ・・」

 「ですかね~~」 

 調査班の足取りは、先程とは打って変わって慎重になった・・・



 


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