どうやらお困りのご様子で
凍結湖、青水晶の間、決着のとき・・
「ビビアン!」
スタッチが、後ろを振り返りながら、叫んだ。
「お待たせ、アタシが来たからには、もう大丈夫なんだから」
「逆だ!こっちを巻き込むのは止めろって、言っただろうが!」
スタッチの鎧は、ビビアンの範囲火炎呪文で、あちこちが焼け焦げていた・・
「何よ、せっかく援護したのに、感謝ぐらいしなさいよね」
そこへ、湖から浮かび上がったソニアが、水を滴らせながら歩み寄ってきた。
「あーー、死ぬかと思ったさね・・」
「ソニアお帰り、危うく骸骨ワームに食われるとこだったものね・・」
「いやいや、死にそうだったのは、ビビアンの呪文さね・・目の前に炎の槍が刺さったときは、流石のアタシも、もう駄目かと・・」
ソニアの言葉に、スタッチも大きく頷いていた。
「ちょっと、助けてくれてありがとう、ぐらい言いなさいよね!」
叫ぶビビアンに、ソニアとスタッチは肩を竦めながら答えた。
「「それより、あいつらに謝る方が先なんじゃ・・」」
二人が顔を向けた方には、爆風で吹き飛んだ、オーガーリーダーとオーガーが目を回しているのが見えた・・
「ごめんなさい、ごめんなさい・・」
ユニコーンのニコが、片っ端から治癒して回るのに合わせて、ビビアンは頭を下げ続けていた。
ゲスト同士ならまだしも、眷属を巻き込んだとなると、下手をするとダンジョンへの敵対行為と認定されてしまう。
新しく召喚されたオーガー達は、ビビアンの素性など知らないわけで、敵意を持たれると大変に拙い・・
ハスキーが事情を説明し、ソニアが仲介することで、事なきを得た。
「・・ねえ、なんであのオーガー達は、ソニアの言う事なら、ハイハイ聞くの?・・」
ハスキーの説明には納得しかねていたオーガー達も、ソニアの仲介はあっさり聞き入れてのを見て、ビビアンがこっそり尋ねてきた。
「・・あれだ・・筋肉は筋肉を知る、って奴だよ・・」
「・・良くわかんない・・」
やがてオーガー達の傷も癒えて、戦力が整ったが、やはりこちらから攻め込む方法が無かった。
「もう潜って叩くしかねえんじゃないのか?」
「だけど水中だと、斧も剣も威力が落ちるさね・・」
「棍棒だともっと駄目だな、ウガッ」
やはり水中戦では、水の抵抗の少ない槍などの武器でないと、思うように戦えないようだ。
「ビビアンの呪文はどうだ?・・」
「無理ね・・あの水深だと、さすがに届かない・・と思う・・」
いつになく慎重な物言いのビビアンに、スタッチが軽口を叩いた。
「なんだ、真紅のビビアン様にしては弱気じゃねえか、ここは『任せときなさい』って言うとこだろう」
「水蒸気爆発で、洞窟ごと吹き飛んで良いなら撃つけど?その時は、スタッチだけ居残りで見張り番ね」
「すいませんでした、無しでお願いします・・」
不気味に静まり返った湖底を監視しながら、ハスキーが呟いた。
「このままだと、また巨大なガーディアンを作り出される可能性が高いな・・なんとか奴を引きずり出さないと・・」
そこへ、後ろの通路から声が掛かった。
「どうやら俺の出番らしいな・・」
「「「 誰だ! 」」」
全員が後ろを振り返ると、そこには・・
鎖で簀巻きにされたまま、死神に引きずられている半魚人の姿があった・・・
「「「 誰だ? 」」」
その頃、湖底ではボーン・ガーディアンの15番が、破壊された巨大ワーム型ガーディアンの修復を試みていた。
『・・ワーム型スペア・ガーディアンの損壊率99%・・修復不能により破棄・・』
やはり形状を真似ただけのワーム型では、本来のフロストワームの強さを発揮することは出来なかった。ブレスや死亡時の爆散なども再現できず、ただ巨体で押し潰して、大顎で挟むだけのスケルトンである。
敵に術者が合流した以上、力任せに排除するのが難しくなった・・
『・・適合率・・47%・・』
その敵対する術者のデータは、過去のバンクに保存されており、それなりの適合率を有している個体であると認識された。
システムマスターに選ぶには、中途半端な数字ではあるが、最悪の場合は・・・
そこまで思考して、15番はシステムからの警報に気付いた。
『・・水位の急激な減少?!・・』
見上げると、地底湖の水面に巨大な渦潮が出現していた・・・
「どうだい!俺のコントロール・ウォーター(水流操作)の威力は!」
湖に向かって両手を掲げ、巨大な渦を維持しているのは、ヴォジャノーイのノヴォであった。
あの後、必死の説得で名誉挽回の機会を与えられたノヴォは、得意の水系呪文で渦を作り出す事により、湖の底を露出させるのに成功した。
未だに下半身は鎖で簀巻きにされていたけれども・・
半信半疑で待機していた前衛陣も、湖底が目視できるようになると、果敢に突撃して行った。
「よっしゃ、いけるぜ!」
「渦の中心までジャンプするさね!」
「姐さんに遅れるな、ウガッ!」
「ウガッ!(へいっ!)」
『・・迎撃せよ・・』
15番は、自分の周囲に護衛として配置していた3体のスペア・ガーディアンを向かわせると、さらに増援を呼び出そうとした。
『・・立て・・』
しかし、湖底に散乱していた予備のパーツは、ノヴォの作り出した渦に巻きこまれて、その殆どが使用不能にされていた。
『・・立て!!・・』
苛立つ15番だったが、その命令に、従う僕は現れなかった・・
そして・・
「「「 パワーアタック!! 」」」
頭上から舞い降りるように飛び込んできた、スタッチとオーガー2体が、全体重を掛けた一撃で、護衛のスペア・ガーディアンを打ち砕いた。
「うおおお」 「ウガッ」 「ウガガッ」
勢い余って転がってくる3人を避けながら、15番は呪文を詠唱しようとする・・
『・・剣には剣を、魔法には・・』
この渦を消せば、再びこの場は水中に戻り、呼吸の必要のない自分が優位に立てる・・
だが、その判断は間違いであった・・
「これで決めるさね!ボーンクラッシュ!!」
『・・リアクティブ・シールド!』
時間差で降ってきたソニアの一撃に、咄嗟に詠唱を取りやめて割り込み呪文を唱えた15番であったが、それは効果を表すことは無かった。
『・・何故だ!』
驚愕する15番が、最後に目にした物は、頭上に振り下ろされる戦斧の刃と、それを振るう女戦士の頭上に止まる黄色い何かであった・・・




