合図とともに作戦開始
更新が二日ほど遅れました。風邪の影響で下がった体力が回復しきれていないようです。
お待たせして申し訳ございませんでした。
凍結湖、ダンジョン通路、疾走中
ニコの首筋にしっかりと掴まりながら、ビビアンは曲がりくねった洞窟を仲間の元へとひた走っていた。
自分の我がままに、文句も言わずに付いて来てくれた皆の側に、一刻も早く戻る。その事だけを考えてニコに全速をだしてもらっていたのだ。
確かにここは自分が生まれ育った場所であった。
嬉しい事も、悲しい事も、沢山の思い出が甦ってくる・・
一部は忘れたい黒歴史ではあるのだけれど・・・
でも、今、彼女が戻ると考えるのは、ここではない・・
帰るべき場所は、仲間がいる場所なのだ。
ビビアンは、ニコを誘導しながら、一目散に青水晶の間を目指していた・・・
しかし、好事魔多し・・
ビビアンの行く手を阻む存在が姿を現した・・・
「何か居るデス・・」
ビビアンの背中に張り付いたデスが、死神特有の感覚で、何かの存在をキャッチした。
「ニコ、停まって・・」
ビビアンに指示を受けて、ニコは急停止した。
「ヒヒィン?」
ダンジョン通路である洞窟の途中で、何かが床に這い蹲っていた。
「ねえ、あれアンデッド?」
「いえ、まだ生きてますデス・・勧誘にも一寸だけ早そうデスね・・」
「つまり死に掛けなんだ・・」
警戒しながら、ニコに歩を進めさせた。
そこにうつ伏せで倒れていたのは、三つ又矛を握った半魚人であった・・
「ああ、これあれだ、逸れゲストマーカー」
「デスけど、ずたぼろデスよ・・」
一応、身体のあちこちがピクピク動いているので、死んではいないのだろうが、放っておけば、死神の顧客になりそうな雰囲気である・・
「ニコ、ユニキュアだけ掛けてあげて」
「・・ヒヒィン」
乙女の敵であるヴォジャノーイに、ちょっと不満そうにしたニコだったが、しぶしぶ癒しの力を発揮した。
みるみる半魚人の傷が塞がっていき、後頭部にも血の気が戻ってきたように見えた。
「これでいいわ、さあ、先を急ぎましょう」
立ち去ろうとしたビビアンの足首を、ぬるっとした水掻きのある手が掴んだ。
「きゃああーー」
ドカッ バキッ ザクッ 一瞬にして袋叩きにあった半魚人が、途切れ途切れに呟いた・・・
「お、お嬢さんに・・礼を・・言いたかった・・だけ・・ガクッ」
再び気絶して動かなくなった半魚人を見下ろしながら、ビビアンが呟いた。
「あー、びっくりした・・思わず踏みつけちゃったじゃない・・」
「ヒヒィン」
ニコもビビアンを助けるために、蹄の一撃を加えていた。
「それで、どうしますデス?」
大鎌の先で半魚人を突きながら、デスが尋ねる。
「このまま放っておくと死んじゃいそうだから、デスが面倒みてやって」
「運ぶの面倒なんデスが・・・」
「途中で顧客になるかもよ?」
「やらせてもらうデス!」
急にやる気のでた、死神見習いは、どこからか鉄の鎖を召喚するとヴォジャノーイの足に括り付けて、引っ張り始めた。
「多少は背中や腹が擦れるでしょうけど、我慢してもらうデス・・」
「じゃあ、お願いね」
「ヒヒィン」
「・・#$・・」
ビビアン達は、一声掛けると、青水晶の間へと走り去った・・・
青水晶の間にて
「スタッチ、くるぞ!」
「おう!」
既に何度目かも定かでない、巨大ワーム型スペア・ガーディアンの叩きつけ攻撃を、スタッチが盾で受け止めた。それと同時に走りこんで来たソニアとオーガーリーダーが、左右から全力で攻撃した。
「ボーンクラッシュ!」
「パワーアタック!ウガッ!」
二人の渾身の一撃は、ワーム型ガーディアンの頭部を粉砕することに成功した・・
だが、しかし・・・
「これでも直るのか・・」
後方から指揮を取っていたハスキーが、疲れた声で呟いた・・・
オーガー1体が戦線から離脱した後、最も防御力の高いスタッチをメインタンクとして、フォーメーションを組み直した。
中央のスタッチは、攻撃を受けたら全力で防御し、その間に左右から残りの二人が攻撃を仕掛ける。もし左右のどちらかが狙われたら、攻撃を回避することに専念する。
その戦術で、何度かワーム型ガーディアンに重傷を負わせる事に成功していたが、その度にリペア機能で回復されてしまっていた・・
そこで攻撃目標を、ワームの頭部絞ってみたが、そこを破壊してもガーディアンの動きが止まる事はなかったのだ。
今も、地底湖の中央で、青い光に包まれながら、頭部の再生を行なっていた。
「直りきる前に追撃するさね!」
走り出そうとするソニアを、ハスキーが止めた。
「止せ、奴は見た目より水深の深いところにいる。そのまま突っ込んでも届かないぞ!」
「なら、どうするさね?!」
「あの、湖底に居る指揮官を倒すしかないんだが・・」
それを分かっているのか、15番は、湖底から離れようとはしなかった。
『・・ワーム型スペア・ガーディアンの修復率・・92%・・10秒後に再出撃・・』
「どうすんだよ、相棒」
敵の動きに注意を払いながら、スタッチが対応策を尋ねてくる。
防御に専念しているので、スタッチ自身のダメージは、思いの外少ない。ただし、攻撃態勢で待機している左右の二人は、敵の気紛れで狙われたときに、避けきれないダメージが蓄積していた。
それを有り余る体力でカバーしているのだが、そろそろオーガーリーダーの方がヤバそうになっていた。体力は同等でも、ディフェンスの技能という点では、ソニアの方が優れていたからである。
逆を言えば、中央に位置するスタッチを無視して、オーガーリーダーを徹底して狙われれば、もっと早い時点で戦力バランスは崩れていたはずであった。
そうならなかったのは、指揮官が湖底に沈んだままで細かい指示を出さなかった為に、ワーム型ガーディアンの狙いが散漫になったという経緯がある・・
「こちらとしては、短期決戦の方が有難かったがな・・」
相打ちになるリスクはあるが、現状の様に決め手がないまま、こちらだけ消耗するよりはましだと、ハスキーは考えていた。
持久戦になって有利になる状況と言えば、増援が到着する可能性だが・・
そこまで考えたとき、この洞窟に通じる通路の奥から、蹄の音が響いて来た。
それと同時に、修理の終わったワーム型ガーディアンが動き始めた。
「オーガー、行ったぞ!」
「ウガッ?!」
接近する何かに気を取られていたオーガーリーダーの反応が、僅かに遅れた。
やや斜めに振り下ろされたワームの大顎が、オーガーリーダーの胴体を直撃する・・
「しまった!ウガアアア」
そのまま吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた・・
「やってくれたね!」
ソニアが怒りも露に斬りかかるが、ワーム型ガーディアンは、振り子のように身体を戻すと、逆側のソニアへと襲い掛かった。
「ソニア!避けろ!!」
ハスキーが叫ぶが、斜め上方からなぎ払うように降りてくるワームの身体を回避するのは至難の技である。
ソニアは咄嗟に、迫るワームの大顎に戦斧を叩きつけた。
「うらあああ!」
ガツン という重々しい響きとともに両者の動きが一瞬止まった・・・
・・かに見えたが、押し負けたのはソニアの方であった。いかにバーバリアンと言えども、巨大ワームの重量を正面から支えきる事は出来なかったのである。
それでも吹き飛ばされないのは流石であったが、その所為で逆にピンチに陥っていた。
ワームの大顎に捕らわれてしまったのである。
「おら!放しやがれ!」
無視されたスタッチが、脇から斬りかかるが、ソニアを咥えたまま、首を振ったワームに弾き飛ばされてしまう・・
「くそっ、抜かったさね・・・」
ソニアは、ギリギリと音を立てながら閉じようとする大顎を、両腕を隙間に挟み込んで懸命に押し広げようとする・・
ワーム型ガーディアンは、しぶとい敵を地面に叩きつけるために、その鎌首を天井付近へと持ち上げた・・
「ソニア!!」
ハスキーの叫びが洞窟に木霊した。
だが、それは絶望の響きではなく、確固とした意思が込められていた・・
そしてハスキーの叫びを合図に、通路の陰から炎の槍がワーム目掛けて飛んでいった。
それは見事にワームの大顎に命中すると、その片側を砕き飛ばす。
咄嗟に息を止めて顔背けたソニアは、大顎から脱出すると、湖面に向けてダイブした。
取り逃がした敵を追うか、呪文の術者を探し出すか迷っていたワーム型ガーディアンに、止めの一撃が放たれた・・
「これで終わりよ!ブラスト・オブ・フレイム!!」
ビビアンの放った業火の咆哮は、巨大なワームをも包み込んで、燃やし尽くしていった・・・




