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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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合図とともに作戦開始

更新が二日ほど遅れました。風邪の影響で下がった体力が回復しきれていないようです。

お待たせして申し訳ございませんでした。

  凍結湖、ダンジョン通路、疾走中


 ニコの首筋にしっかりと掴まりながら、ビビアンは曲がりくねった洞窟を仲間の元へとひた走っていた。

 自分の我がままに、文句も言わずに付いて来てくれた皆の側に、一刻も早く戻る。その事だけを考えてニコに全速をだしてもらっていたのだ。


 確かにここは自分が生まれ育った場所であった。

 嬉しい事も、悲しい事も、沢山の思い出が甦ってくる・・

 一部は忘れたい黒歴史ではあるのだけれど・・・


 でも、今、彼女がると考えるのは、ここではない・・

 帰るべき場所は、仲間がいる場所なのだ。


 ビビアンは、ニコを誘導しながら、一目散に青水晶の間を目指していた・・・



 しかし、好事魔多し・・

 ビビアンの行く手を阻む存在が姿を現した・・・


 「何か居るデス・・」

 ビビアンの背中に張り付いたデスが、死神特有の感覚で、何かの存在をキャッチした。


 「ニコ、停まって・・」

 ビビアンに指示を受けて、ニコは急停止した。

 「ヒヒィン?」


 ダンジョン通路である洞窟の途中で、何かが床に這い蹲っていた。


 「ねえ、あれアンデッド?」

 「いえ、まだ生きてますデス・・勧誘にも一寸だけ早そうデスね・・」

 「つまり死に掛けなんだ・・」

 警戒しながら、ニコに歩を進めさせた。


 そこにうつ伏せで倒れていたのは、三つ又矛を握った半魚人であった・・


 「ああ、これあれだ、逸れゲストマーカー」

 「デスけど、ずたぼろデスよ・・」

 一応、身体のあちこちがピクピク動いているので、死んではいないのだろうが、放っておけば、死神の顧客になりそうな雰囲気である・・


 「ニコ、ユニキュアだけ掛けてあげて」

 「・・ヒヒィン」

 乙女の敵であるヴォジャノーイに、ちょっと不満そうにしたニコだったが、しぶしぶ癒しの力を発揮した。


 みるみる半魚人の傷が塞がっていき、後頭部にも血の気が戻ってきたように見えた。

 「これでいいわ、さあ、先を急ぎましょう」


 立ち去ろうとしたビビアンの足首を、ぬるっとした水掻きのある手が掴んだ。


 「きゃああーー」


 ドカッ バキッ ザクッ 一瞬にして袋叩きにあった半魚人が、途切れ途切れに呟いた・・・

 「お、お嬢さんに・・礼を・・言いたかった・・だけ・・ガクッ」


 再び気絶して動かなくなった半魚人を見下ろしながら、ビビアンが呟いた。

 「あー、びっくりした・・思わず踏みつけちゃったじゃない・・」

 「ヒヒィン」

 ニコもビビアンを助けるために、蹄の一撃を加えていた。


 「それで、どうしますデス?」

 大鎌の先で半魚人を突きながら、デスが尋ねる。


 「このまま放っておくと死んじゃいそうだから、デスが面倒みてやって」

 「運ぶの面倒なんデスが・・・」

 「途中で顧客になるかもよ?」

 「やらせてもらうデス!」

 急にやる気のでた、死神見習いは、どこからか鉄の鎖を召喚するとヴォジャノーイの足に括り付けて、引っ張り始めた。


 「多少は背中や腹が擦れるでしょうけど、我慢してもらうデス・・」

 「じゃあ、お願いね」

 「ヒヒィン」

 「・・#$・・」


 ビビアン達は、一声掛けると、青水晶の間へと走り去った・・・



  

  青水晶の間にて


 「スタッチ、くるぞ!」

 「おう!」


 既に何度目かも定かでない、巨大ワーム型スペア・ガーディアンの叩きつけ攻撃を、スタッチが盾で受け止めた。それと同時に走りこんで来たソニアとオーガーリーダーが、左右から全力で攻撃した。

 「ボーンクラッシュ!」

 「パワーアタック!ウガッ!」


 二人の渾身の一撃は、ワーム型ガーディアンの頭部を粉砕することに成功した・・

 だが、しかし・・・


 「これでも直るのか・・」

 後方から指揮を取っていたハスキーが、疲れた声で呟いた・・・



 オーガー1体が戦線から離脱した後、最も防御力の高いスタッチをメインタンクとして、フォーメーションを組み直した。

 中央のスタッチは、攻撃を受けたら全力で防御し、その間に左右から残りの二人が攻撃を仕掛ける。もし左右のどちらかが狙われたら、攻撃を回避することに専念する。

 その戦術で、何度かワーム型ガーディアンに重傷を負わせる事に成功していたが、その度にリペア機能で回復されてしまっていた・・


 そこで攻撃目標を、ワームの頭部絞ってみたが、そこを破壊してもガーディアンの動きが止まる事はなかったのだ。

 今も、地底湖の中央で、青い光に包まれながら、頭部の再生を行なっていた。


 「直りきる前に追撃するさね!」

 走り出そうとするソニアを、ハスキーが止めた。


 「止せ、奴は見た目より水深の深いところにいる。そのまま突っ込んでも届かないぞ!」

 「なら、どうするさね?!」

 「あの、湖底に居る指揮官を倒すしかないんだが・・」


 それを分かっているのか、15番は、湖底から離れようとはしなかった。

 『・・ワーム型スペア・ガーディアンの修復率・・92%・・10秒後に再出撃・・』



 「どうすんだよ、相棒」

 敵の動きに注意を払いながら、スタッチが対応策を尋ねてくる。

 防御に専念しているので、スタッチ自身のダメージは、思いの外少ない。ただし、攻撃態勢で待機している左右の二人は、敵の気紛れで狙われたときに、避けきれないダメージが蓄積していた。

 それを有り余る体力でカバーしているのだが、そろそろオーガーリーダーの方がヤバそうになっていた。体力は同等でも、ディフェンスの技能という点では、ソニアの方が優れていたからである。


 逆を言えば、中央に位置するスタッチを無視して、オーガーリーダーを徹底して狙われれば、もっと早い時点で戦力バランスは崩れていたはずであった。

 そうならなかったのは、指揮官が湖底に沈んだままで細かい指示を出さなかった為に、ワーム型ガーディアンの狙いが散漫になったという経緯がある・・


 「こちらとしては、短期決戦の方が有難かったがな・・」

 相打ちになるリスクはあるが、現状の様に決め手がないまま、こちらだけ消耗するよりはましだと、ハスキーは考えていた。

 持久戦になって有利になる状況と言えば、増援が到着する可能性だが・・


 そこまで考えたとき、この洞窟に通じる通路の奥から、蹄の音が響いて来た。

 それと同時に、修理の終わったワーム型ガーディアンが動き始めた。


 「オーガー、行ったぞ!」

 「ウガッ?!」

 接近する何かに気を取られていたオーガーリーダーの反応が、僅かに遅れた。

 やや斜めに振り下ろされたワームの大顎が、オーガーリーダーの胴体を直撃する・・


 「しまった!ウガアアア」

 そのまま吹き飛ばされて、壁に叩きつけられた・・


 「やってくれたね!」

 ソニアが怒りも露に斬りかかるが、ワーム型ガーディアンは、振り子のように身体を戻すと、逆側のソニアへと襲い掛かった。 


 「ソニア!避けろ!!」

 ハスキーが叫ぶが、斜め上方からなぎ払うように降りてくるワームの身体を回避するのは至難の技である。

 ソニアは咄嗟に、迫るワームの大顎に戦斧を叩きつけた。

 「うらあああ!」


 ガツン という重々しい響きとともに両者の動きが一瞬止まった・・・

 ・・かに見えたが、押し負けたのはソニアの方であった。いかにバーバリアンと言えども、巨大ワームの重量を正面から支えきる事は出来なかったのである。

 それでも吹き飛ばされないのは流石であったが、その所為で逆にピンチに陥っていた。

 ワームの大顎に捕らわれてしまったのである。


 「おら!放しやがれ!」

 無視されたスタッチが、脇から斬りかかるが、ソニアを咥えたまま、首を振ったワームに弾き飛ばされてしまう・・


 「くそっ、抜かったさね・・・」

 ソニアは、ギリギリと音を立てながら閉じようとする大顎を、両腕を隙間に挟み込んで懸命に押し広げようとする・・


 ワーム型ガーディアンは、しぶとい敵を地面に叩きつけるために、その鎌首を天井付近へと持ち上げた・・


 

 「ソニア!!」


 ハスキーの叫びが洞窟に木霊した。


 だが、それは絶望の響きではなく、確固とした意思が込められていた・・

 そしてハスキーの叫びを合図に、通路の陰から炎の槍がワーム目掛けて飛んでいった。


 それは見事にワームの大顎に命中すると、その片側を砕き飛ばす。

 咄嗟に息を止めて顔背けたソニアは、大顎から脱出すると、湖面に向けてダイブした。

 

 取り逃がした敵を追うか、呪文の術者を探し出すか迷っていたワーム型ガーディアンに、止めの一撃が放たれた・・


 「これで終わりよ!ブラスト・オブ・フレイム!!」


 ビビアンの放った業火の咆哮は、巨大なワームをも包み込んで、燃やし尽くしていった・・・




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