ただいま
あの娘がダンジョンを去ってから1年後に、エルマが旅に出た・・・
『ビビアンの様子を見てきます』
その書き出しで始まった置手紙は、食事は毎日食べろだの、冬はちゃんと暖かくして寝ろだの、幾つもの注意事項が書き連ねてあった。
『ふん・・職場放棄したメイドが、見放した主人の心配じゃと・・』
私の強がりに答えるものは誰も居なかった・・・
一人になった私は、さらに意固地になり、外界との接触を避けるようになった。
たまに近所に新人のダンジョンマスターが出現したと聞きつけると、顔を見に出かけて行くぐらいだ・・
それは途中で投げ出した、弟子達の安否を確認したかったから、かも知れない・・
あの性格が直っていなければ、選ばれる事はないだろうけれども・・
夜中にうなされる事が多くなった・・
起こしてくれる者は居ない・・
『スカーレット!コアルームに私を転送しろ!』
『我が主の望みは、お前の消滅だ・・悪く思うなよ・・』
『原因は不明です・・このままでは老化による衰弱が進行して、もって1ヶ月かと・・』
『ばば・・ばば・・』
『なんでアタシが、ここに居たらいけないのよ!ねえ!答えてよ!』
『お暇をいただきます・・』
『オババ・・ねえ・・オババ・・』
今日は、妙にあの娘の夢を見る・・
『起きなさいよ・・老人は目覚めが良いのが唯一の利点でしょ・・』
誰に似たのか、口が悪くて、嫁に行くのも苦労するじゃろう・・
『誰のせいよ!・・それに貰ってくれそうな人なら・・ゴニョゴニョ』
「なんじゃと!!」
あまりの驚きに目が覚めた。
「どこの、どいつじゃ!その物好きな男は!!」
気がつくと、そこは懐かしいダンジョンコアの内部であった。
全周モニターには、死体の散乱するコアルームと、奇妙な一団が映し出されていた・・
記憶の混乱を整理して、現状を把握する。私がまだ地上に居るということは、マスターは無事なはず・・
「憑依していたボグハッグは死亡・・ダンジョンコアへ強制帰還・・ダンジョン内に侵入者が多数・・青水晶の間では戦闘が継続中・・なんじゃ、このカオスは!」
「あ、やっと気がついたのね、ダンジョンコアが光っていたから、戻ってきてると思ったんだけど、返事が無いから死んじゃったのかと思った・・」
目の前に、4年前に出て行った娘が立っていた・・
「ビビアン・・お前・・ぜんぜん成長しておらんぞ・・」
「ちょっと!追い出された娘が、親孝行に戻って来たっていうのに、最初に掛ける言葉がそれ?!」
変わらぬ姿と毒舌を聞いて、言葉が詰まって出てこなかった。
「・・それはともかく、横に居るのはなんじゃ?」
ユニコーンとフェアリードラゴンはまだしも・・いや、十分におかしいが、まあ手懐けることが出来なくもないが・・レッサーデスとか有り得んじゃろう・・
「ああ、大丈夫、皆、エトランジェ・デュ・ルージュ(真紅の外人部隊)のメンバーだから!」
「お前、まだその病癖を患っておるようじゃの・・」
「いいでしょ!別に・・それより仲間も一緒に来てるの・・ゲスト認定してあげて・・あとオークの丘のダンジョンマスターの眷属も来てるから、呼び込めば戦力になるわ!」
確かに、各所の出入り口付近に、警告マークが点滅していた。クーリングタイムで侵入出来ないでいたらしい・・
「じゃが、なんであ奴らが応援に来るのじゃ?・・」
私を助ける理由が無かった・・
「そんなの知らないわよ!お隣さんの誼とかそんなのでしょ・・だいたい選り好みしてる場合じゃないんじゃないの?!」
あのお人好しのダンジョンマスターなら、有り得るが、それにしても・・
「もう・・理由は終わってから直接聞いてよね!それより、オババがここに戻ったっていうことはピンチなんでしょ?!」
ビビアンの叫びで、思い出した。
「そうじゃ!青水晶の間は・・」
ダンジョンコアに帰還したことにより、全ての機能が開放されている。ダンジョン内の凍結していた防御機構を回復すると共に、青水晶の間を精査する・・・
「棺は無事・・護ってくれたのは、3番と12番か・・」
コントロールが完全に切れて、もう私の命令を聞く必要も無くなったはずなのに・・最後まで忠義立てしてくれている・・・
「味方は、どれとどれじゃ・・」
「えっと、ここにいるメンバーと・・冒険者3人組・・湖の畔の一団と・・あと水中から1部隊来てるって・・」
ビビアンも、直接会った者以外の構成は分からなかった。
「・・その死神も、エトランジェなんちゃらのメンバーなんじゃろうな・・」
「どうも・・死神見習いのデスといいますデス・・『13番』さんからのご依頼がありましたので、誠心誠意働かせていただきますデス・・」
死神と契約を結ぶという事は、そういう事だ・・
「そうかい・・13番も逝ったのかい・・」
魂さえあれば、守護者として復活する事も出来たかも知れないのに、その可能性を捨てて、死神を戦力として取り込む事を選んでくれたようだ・・
「コアルームはアタシ達が護るから、他の重要拠点を取り戻さないと!」
ビビアンが叫ぶ。
「じゃが、間に合わん・・」
封鎖していた鉄格子や、擬装していた岩を排除して、ゲストを招きいれたとしても、青水晶の間に到達するには時間が掛かる・・
一番近い冒険者3人組でも辿り着くまでに数分はかかるだろう・・それまで3番と12番が耐え切れるとは思えなかった・・
「何よ、味方がいなかったら呼べば良いでしょ!」
「じゃが、DPが無いのじゃ・・」
13番につけたグールと7番につけたシャドウの召喚が、最後のDPだった・・
だが、ビビアンは、ドヤ顔で叫んだ。
「DPなら、そこら中に転がってるわよ!」
そこには、黒コゲになったドラゴニアン・トゥーム・ガーディアンの死体が並んでいた・・・




