骸骨語は吹き替えでお送りしています
凍結湖、青水晶の間、激闘中
青く光る地底湖の畔の狭い洞窟で、ボーン・ガーディアン(骸骨の守護者)同士による激しい戦いが繰り広げられていた。
数の上では3対4だが、オババを守らなければ負けである以上、ダンジョン防衛側には弱点があった。
オババも普段通りに動ければ、十分な戦力になるのだが、今はフロスト・ワームを抑えるので精一杯なのだ。
ホールド・モンスターの呪文は相手の魔法耐性を突破すれば決め技と成りうる。ただし、硬直の状態異常を維持するには、術者の精神集中が欠かせない。それが途切れたとき、再びフロスト・ワームが暴れだし、この洞窟ごと破壊する未来が待ち受けていた・・
硬直している間に、瞬殺できれば問題ないが、あれはそんな生易しい敵ではなかった。目の前に、シングルナンバーを3体も置いて、片手間で倒せる様な装甲及び体力ではない・・
「ワシは大丈夫じゃ、ダンジョンコアの機能補助で、通常よりも精神集中は途切れん。目の前の連中に集中するのじゃ!」
フロストワームを睨みながら、オババが指示を出す。
とは言え、最古参の1番を含めた、シングルナンバー3体も、簡単な相手では無かった。
「キャスター、お前が一番先輩だ。あいつらの情報をくれ」
弓に持ち替えたアーチャーが、4番を牽制しながら叫んだ。
「よく聞け、9番はレンジャー/ローグのデュアルクラスだ、遠近両方でクリティカルを狙ってくるぞ」
そう説明された9番は、右手にレイピア、左手にマンゴーシュの2刀流で前衛に出ていた。キャスターが盾役をしているが、普段使いの盾をセイバーに貸しているので、予備の小盾しかなく、心元無かった。
「4番はウォーメイジだ、純粋な術者だが、鎧も着れる。しかも攻撃呪文に特化していて、普通の呪文がえらく痛い」
「鎧を着込めるだけで、普通じゃねえよ!」
そう言われた4番は、不敵な笑みを浮かべた。
「良くわかってるじゃないか、アタシをそこらの汎用ソーサラーと一緒にしないで欲しいね」
「・・女か・・」
4番とランサーがにらみ合いながら、お互いの出方を探っている。
「そして最も危険なのが1番だ、あいつはソードマスター、『剣鬼』の異名を持つ刀使いだ」
「あれは私が抑える・・他を頼んだぞ・・」
セイバーが盾を構えながら前に出た。出来れば9番も牽制してキャスターの負担を減らしたかったが、自分よりも格上の剣士に、そんな隙を見せるわけには行かなかった・・
「俺を抑えるなどと、戯言を言う・・」
1番は、刀の柄に手を添えながら、摺足で前に踏み出てくる・・
「疾!」
呼気と共に1番の刀が引き抜かれ、セイバーに斬りかかった。
「応!」
目にも止まらぬ斬撃を、セイバーは勘だけで受け止めた。
だが、1番の太刀筋はセイバーの盾を通り抜けて、その左手を断ち切っていた・・
「馬鹿な、確かに受け止めたはず・・」
足元に転がる自らの左手と盾を見下ろしながら、セイバーは驚愕した。
「奥義、壁抜け・・貴様ごときには過ぎたる技であったか・・」
相手の盾、武器の防御を無視してダメージを与えるソードマスターの奥義「壁抜け」は、受けを全て無効化する。
「セイバー!」
下がれと言おうとしたキャスターに9番が斬りかかった。
「余所見とは余裕じゃねえか・・たかが神官がオレの二刀流を防げるつもりかよ」
右手のレイピアを小盾で受け、左手のマンゴーシュを辛くもメイスで弾いた・・
だが、9番の右手が再び煌き、無防備なキャスターの胸当てを切り裂いた。
「くっ、3回攻撃だと・・」
「甘いな、4回だよ!」
左のマンゴーシュが、キャスターの脇腹に差し込まれた。
「ぐあっ!」
予想だにしなかった攻撃はクリティカルとなってキャスターの体力を容赦なく削っていった。
その頃、術者同士の魔法戦も開始された。
「魔力よ矢となりて・・」
「・・我が身に流るる・・」
「ちいっ、速いぞ!」
高ランク呪文を想定していたアーチャーを嘲笑うかのように、4番が選択したのは最もランクの低いマジックミサイルの呪文であった。
あっという間に詠唱が終わり、4番の頭上に5本もの魔法の矢が出現する・・
それは、詠唱中のランサー目掛けて、放たれた。
「させるかよ!」
構えていた短弓をアーチャーが放つが、その前にターゲットを指定されてしまった。
「アタシのSMMは、これだけで術者なら倒せる威力があるのさ!」
禍々しく光り輝く魔力の矢は、ホーミング性能を持ってランサーに着弾するはずだった・・
「・・リアクション・シールド!・・」
ランサーが詠唱を中断して割り込みを掛ける。
フォースで形作られた透明の盾が、前面に展開して、マジックミサイルを全てシャットアウトする・・
「へえ、汎用ソーサラーかと思ってたら、そんな呪文も使えるんだ・・」
アーチャーの矢を、肩に受けながら平然としている4番は、ランサーを見て再び笑った。
「・・基本は押さえてある・・」
汎用と馬鹿にされていても意に介さず、飄々と受け答えしているランサーであったが、内心は、受け切ったマジックミサイルの威力に冷や汗をかいていた。
そのエネルギー量が、尋常ではないことが、同じ術者であるランサーには感じ取れたからである。
リアクション・シールドで受けなければ、冗談ではなく一撃で吹き飛んでいたかも知れなかった。通常は3本しか出ないマジックミサイルを、5本も繰り出し、さらにダメージブーストを掛け、その上に何かを付与しなければ、あの威力は出ない・・
詠唱をキャンセルさせようにも、マジックミサイルより速い攻撃呪文を、ランサーは知らなかった・・
「・・アーチャー・・」
次はどうにかできるかと、顔を見れば、素早く横に振られた。
「防御力もとんでもねえぞ・・ノーマルの短弓じゃあ、射抜けねえ・・」
接近して背後が取れればダメージも入るかも知れないが、それを許す相手でもなさそうだ。
「何を相談してるのか知らないけれど、ボサッとしてるとお仲間が全滅しちまうよ」
言われて見れば、セイバーの左手は切り落とされ、キャスターは9番のマルチ・アタックに翻弄されていた。どちらもこのままではマズそうだ・・
「俺はキャスターのフォローに回る。あいつは済まねえが一人でなんとかしてくれ」
「・・分かった・・」
「あははは、汎用ソーサラーが、アタシとタイマン張るって言うんだ・・こりゃ傑作だね」
「・・炎よ矢と成りて敵を穿て、フレイム・アロー!」
ランサーは、油断している4番に得意の火炎矢を放った。これなら大抵の呪文より早いし、マジックミサイルなら今はリアクション・シールドで弾けるはずであった。
「甘いねえ・・術者同士の戦いは、始まる前に決着が着いているもんさ・・」
そう言った4番の目前で、火炎矢は何かに阻まれて消滅した。まるで見えない障壁が、彼女の周りに張り巡らされているように・・
「・・まさか、グローブ・オブ・インヴァルナービイリティ・・」
相手の呪文は通過するのに、こちらの呪文は遮断される・・魔術師殺しの呪文であった。
「はい、正解、そしてアンタはこの魔法障壁を突破するランクの呪文は撃てない・・詰んだよね、あははは」
4番の言う通り、ランサーには、この魔法障壁を打ち破るほどの高ランクの呪文はもっていなかった。
「レベルも違う、クラスも違う、戦闘経験も違う・・最初からアンタに勝ち目はなかったのさ・・そんな老婆に義理立てして、アタシらに歯向かった自分を恨むんだね・・」
そして4番の詠唱が響く・・
「さあ、お得意の呪文で止めを刺してあげるよ・・我が身に流るる紅き魔力よ、今、炎の槍と成りて敵を貫け、ファイアー・ランス!」
ランサーの唱えるものより、一回りは大きい炎の槍が中空に出現すると、一直線に襲ってきた。
それを避ける術は、ランサーには無かった・・
「・・おおおおお・・」
炎に巻かれて、ランサーの身体が崩れ落ちた・・・
「「ランサー!!」」
「さて、残るは3体かしら・・」
「いや、2体だな・・」
1番の足元には、全身をバラバラにされたセイバーが転がっていた・・
「無念・・・・」
セイバーの瞳から、光が消え失せていった・・




