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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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サンタが街(ダンジョン)にやって来た(前編)

本来は24日の夜に投稿する予定の話でしたが、手直しをしていたら25日になっていました・・

  ダンジョンコアルーム(災害対策本部改め凍結湖救援隊司令部)


 凍結湖の地下にあるオババのダンジョンが、何者かによって侵略されようとしていた。

 幾つかの情報源から、それを察知した調査班とかもねぎチームは、合同で救援隊を組織し、謎の勢力の目論見を潰そうと奔走していた。

 それを影からカバーするのが、ここ、オークの丘の地下深くにある「凍結湖救援隊司令部」なのである・・

 本来ならば・・・


 「使い過ぎです」

 メイド長のカジャの、冷たい声が響き渡った。


 「いや、でもね・・最北湖の護りも重要だし・・」

 『だし・・』

 僕とコアは、二人してカジャにお説教されていた。


 「眷属の派遣は、遠話などで経費が掛かる割には、こちらへのDPの供給は殆ど有りません。それを見越しての予備DPまで使い込んだのは何故ですか?」

 確かに、最低限残してあった予備DPまで使い込んだのは、まずかったかもしれない。その所為で遠話も満足に飛ばせなくなっていた・・

 『てへっ♪』


 つまりはノリで、湖ダンジョンを造り込み過ぎたという訳であった・・



 特殊地形ダンジョンというものがある。

 地下洞窟や遺跡のように狭い通路と部屋で構成されたものではなく、地底湖や地下森林、溶岩地帯、地下砂漠のような天然に存在する地形を地下に創ってダンジョンにするタイプだ。

 これらはDPを物凄く使うのだが、資源を産出するので、ベテランダンジョンマスターだと幾つか保有していることがあるそうだ。

 一から創らなくても、既に存在する地形を取り込む事で、同じ事が出来る。

 地底湖や坑道などは、外部とは隔絶し易いし、ダンジョンに繋げるのも容易である。僕も小さい地底湖なら、三日月湖の地下に保有していた。特にトラップやギミックは追加しなかったけれども・・


 「あそこまで冒険者は来ないからね・・」

 「『三日月湖の槍』が特攻ぶっこみかけてきたと聞きましたが?・・」

 そう言えば、あそこで防衛戦もしたね・・でもあの時はまだ領域化してなかったから・・

 『けろっぴ?』

 ヴォジャノーイもあそこで戦ったね・・だとするともっと防御体制を整えておいた方がいいのかな?・・


 今回、最北湖を領域化して分かった事は、既存の地形を使うと、想像よりグッとお安く特殊地形ダンジョンが作れるが、それを維持・管理しようとすると、ググッと経費が掛かるという事実である。

 地下空間を拡張して、地底湖を創ろうと思うと、最低で5千DP掛かる。ボートで渡るような広さにするには1万に届くかも知れなかった。

 それが、ダンジョンと接続させて、支配者又はぬしを撃破すれば、最北湖のサイズでも丸々支配領域化できた。これにより、コアの管理能力で、ある程度の水温の上下、湖水の酸素濃度とPhなどがコントロール出来るようになった。

 ただし、ダンジョン内の空気圧のように、即座に変化するわけではない。大体12時間かけて、湖全体に効果が及ぶぐらいである。


 これが維持・管理になると天然地形は厄介だ。

 まず地形の殆どは領域外と接触しているので、どこからでも侵入出来る。坑道のように入口が限定できる地形は良いが、湖はそうもいかない。

 見張りも相当数、配置が必要だし、警備兵もそれなりに必要である。

 そうなると眷属の維持費が嵩んで、何時かは赤字に転落してしまう。結局は地下に人工地形を造設した方が安かったという逆転現象が起きるのである。

 これを防ぐ為には、維持費の掛からない眷属を配置するか、特殊地形で産出する分で、維持が賄えるようにする方法がある。


 最北湖は、現在ロザリオのスケルトン部隊がメインになっている。食事も必要ないし、水中で窒息もしない。まさに打って付けの警備部隊だが、指揮官の要請だけが煩いのが難点だ。


 『主殿、モフモフ成分が枯渇しているのだが・・』

 『暇だ・・ヘラジカを狩るのは飽きたのだが・・』

 『主殿、一人ぼっち飯とは寂しいものだな・・』

 かなり落ち込んでいるみたいだ・・今度親方でも転送しよう・・・


 ぬしであったボーンサーペントが滅んだので、最北湖も徐々に水質が変化してきている。

 元々、地下水路で他の水脈と繋がっていたのだから、魚や水棲昆虫などが住み着いていておかしくなかったのであるが、ボーンサーペントの存在が、その全てを寄せ付けなかったようだ。

 偶に吐き出すアシッドブレスの所為で、湖水の酸性度が高く、植物も繁茂する事が出来なかったのが、透明度の維持に繋がっていたのは皮肉である・・


 「しかし、ボーンサーペントのブレスで汚染されていたなら、飲用にも適さないはずなんですが・・」

 カジャが首を捻っていた。

 最北湖にはまだ謎が残っている・・


 とは言え、徐々に水草も成長しだして、それを住処に水棲昆虫や淡水貝などが移住してきていた。もうすぐ魚も回遊してくるだろう。定着して繁殖してくれたなら、ミコトチームやクロコチームは維持が出来る。ベニジャの大蛙チームも候補にできるだろう・・

 今だと透明度が高すぎて、陸から丸見えなのが難点だけれども・・



 そこで、地底湖専門の設置リストから何か代用できないかとリストアップしたのが、事の発端であった・・


 設置リスト:地底湖(屋外湖)用

石碑:湖の謂れが刻んである 50DP

慰霊碑:水没者への鎮魂歌が刻まれている アンデッド召喚に修正(中) 100DP

ボート小屋:小さな桟橋と舫い杭、1-3艘の手漕ぎボートと修繕小屋  500DP

ボート小屋の番人(罠):マスクを被って手斧で襲ってくる       300DP

霧発生魔道具(小):湖全体を薄らとした霧で覆う 屋外だと天候により無効化される可能性あり 250DP

霧発生魔道具(中):霧の中に方向感覚を狂わせる成分が含まれている  500DP

霧発生魔道具(大):霧の中に幻覚を見せる成分が含まれている     750DP

精霊の湖:泉よりも強大な精霊を呼び寄せる ただし定住には交渉が必要  4000DP

予言の湖:1年に3回だけ、湖面を使った神託が受けられる 信仰その他は関係しない 3000DP


 石碑と慰霊碑は、サイズや形状はある程度選択できるようだ。慰霊碑なのにアンデッド召喚に修正がつくのは、ダンジョンのギミックだからかも知れない。

 ボート小屋は、大きめの湖を渡る手段のない冒険者を、より奥に誘い込む為のものである。付属のボートは、オプションで、途中まで漕ぎ出すと浸水して沈む仕様にも出来る。

 もちろん沈んだボートは、24時間後には復帰するが、乗っていた冒険者に救済処置は無い・・


 ボート小屋の番人(罠)は、スケア・クロウと同様の、設置場所に制限があるタイプの侵入者自動撃退トラップである。番人は自動人形ではなく、ゾンビから作られているらしいが、何故かターンアンデッドは効かない。壊れても壊れても、1時間後には復活するらしい。被っている白いマスクが弱点の様に見えるが、壊すと逆に凶暴化するという罠である。


 霧発生魔道具は、怪しい湖には付き物の、いつ来ても霧がかかっている現象を作り出す為のものらしい。気象コントロールなどという高度な事はしておらず、単に霧を大量に噴霧するだけのようだ。所謂、加湿器である。

 なので、屋外では強風や晴天に弱い。朝夕の涼しい時間か、夜中が活躍の場面となる。

 形状は幅広く選択出来るようで、単なる岩から、枯れ木、舫い杭、浮島、流木など、冒険者の目を欺く仕様が多い。逆に彫像や、注連縄など、いかにも何かありそうな外見で、そこに引き寄せるタイプもあった。

 ランクが上がると霧の成分に、状態異常を付与できる効果が付くが、霧全体が魔力探知に反応してしまうので、警戒もされやすい。


 精霊の湖は、精霊の泉の強化版である。運が良いと、金と銀の斧の精霊も現れるらしい。月に一度、普通の斧が純金か純銀に替わるので、交易をしているダンジョンマスターには人気だそうだ。

 予言の湖は、湖面を水鏡にして、悩みや問題の解決を図れる。神託に付き物の、神との相性や、気まぐれな返答がない為に、噂が広がれば藁にもすがりたい冒険者や貴族が集まってくるだろう。大抵、夏至と冬至だけとか、新年に代った三日間だけとかの制限をつけるらしい。勿論ダンジョンマスターが使うなら自由だが、3回使うと1年間のクーリングタイムが発生する。


 これら以外にも、湖専用の罠や完全防水の海賊の宝箱などがあり、ついDPを使い過ぎてしまった・・・


 「ボーンサーペントの噂で、冒険者を釣るだけ釣ったら、最北湖は放棄する予定でしたよね?・・それなのにこの大量のギミックと罠はどうするおつもりなんですか?・・」

 湖専用なので他の地形には再配置出来ない・・三日月湖の地底湖に再配置しても御蔵入りも同然であった。


 「ええっと・・思ったより大物が釣れるかも知れないし・・」

 「そうですね、夢を見る分には自由です・・ですが世の中それほど甘くはありません・・」

 勝負の世界で生き抜いてきた、カジャの言葉は重みが違った・・


 「逃げ馬が1枠1番を引いたからと言って、必ず1着になるとは限らないのです・・」

 ・・それは何か違うような・・


 「ジャンボ・ジャンボと言いながら、当選数を増やすために、ミニとか新設しても誤魔化されませんよ!」

 ・・ああ、年末恒例のあれね・・


 「プレゼントを期待して、枕元に靴下をぶら下げても、入っているのは木炭ばっかりです!!」

 ・・誰だよ、質の悪い風習を流行らせてるのは・・


 

 カジャの「人は夢だけでは生き延びられない」は、延々と続きそうであった・・

 そこに、ロザリオから念話が入った。


 『主殿、正体不明の騎馬隊が18騎、こちらに接近している!』


 「なんだって?!、ロザリオ、最北湖に侵入して来そう?」

 『まだ確定ではない・・が、迷わず近づいていることから、可能性は高いと思う・・』

 「ロザリオ様、騎馬の種類は判別できますか?」

 カジャが念話に割り込んできた。どうやら騎士団を警戒しているようだ。


 『ちょっと待って・・物見の報告によれば、騎馬ではなくトナカイに乗っているらしい・・赤い鎖帷子を着込んでいるそうだが、知っているか?・・』

 「トナカイに赤い鎧・・まさか・・サン・テ・クラウス・・」


 「え?サンタ?」

 「サン・テ・クラウスです・・太陽のクラウスと称される、北方蛮族の英雄です。ロザリオ様、強敵です・・」

 カジャの顔つきが変わった。それほどの相手なのだろう・・


 『サンタだかクロウスだか知らないが、待ちに待った獲物だ・・見逃せなどとは言わぬよな、主殿』

 「ボーンサーペント狙いで、湖に足を踏み入れてくるなら、迎撃して良いよ・・ただし無茶は駄目だからね・・」

 『大丈夫だ、地の利はこちらにある、吉報を待っていてくれ!』

 

 ロザリオからの念話は一旦途切れた。

 こちらからも状況はモニター出来るので、問題はない・・・


 「サンタがトナカイに乗ってやって来た・・」

 「サン・テです・・」


 『めりくり~♪』





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