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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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襲来

 地底で起きた振動は、凍結湖の湖面にも届いていた。不規則な波紋が広がり、それと同時に僅かな揺れが感じられた。


 「地震かい?ブヒィ」

 「それにしちゃあ、小さくないか、ブヒィ」

 猪飛と侠猪が顔を見合わせながら、足元の震えを警戒していた。


 グドンは、何があっても逃げられるように、肩にヘラを担ぎ上げた。

 「まだ無理したら駄目でしゅ」

 「オデ平気、オデ動ける」

 怪我を気にするヘラを強引に担ぐと、彼女の荷物を逆の腕で抱えて、災害に備える。


 揺れはすぐに気にならない程度に落ち着いたが、新たな変化が凍結湖に起きていた。

 「水位が下がっていく・・」

 エルフの小隊長が、呆然と湖面を見つめていた。


 まだ、湖の外縁には薄い氷が残っているが、溶けきって見えていた中央部の水面が、徐々に下がっていくのがわかる。

 それに伴い、低水温で活動の鈍っていたはずの魚達が、狂ったように湖面に飛び跳ねていた。


 「地下水路が崩落したのか?・・」

 先程の振動と水位の低下を重ね合わせて、出てきた答えがそれであった。


 「一旦、安全圏まで下がるぞ、この状態の湖に潜るのは自殺行為だ!」

 小隊長の号令に、異議を唱えるものはいなかった・・



 崖っぷちのヴォジャノーイ以外は・・


 「小隊長、何かが湖に這い寄っています!」

 「フロッグマンに生き残りがいたのか?!」

 「いえ、半魚人です!手に三つ又矛を持ったまま、匍匐前進しています!」

 見つかった事がわかると、ヴォジャノーイは立ち上がってダッシュし始めた。


 「思ったよりピンピンしてやがる、足を止めさせろ、狙え、撃て!」

 バラバラと矢や投げ斧が飛んで行ったが、それらを掻い潜って、半魚人は湖へダイブした・・


 「あ、氷で頭を打ったぜ、ブヒィ・・」

 「しょのまま、しゅべっていくでしゅ・・」

 奇妙な角度に首を捻ったまま、ヴォジャノーイは湖面の中ほどで、水中へと沈んで行った・・


 「「なんだったんだ・・」」


 経緯のわからない調査班は、ただ、首を捻るばかりであった・・・




  青水晶の間で、何が起きたのか


 地震が観測される直前まで、オババは各所の対応に追われていた。

 コアルームで操作できれば、一瞬にしてダンジョン全域を把握できるのだが、敵の狙いはどうやらこの部屋らしい。

 「ずいぶんこちらの内情に詳しいようじゃな・・ダンジョンマスターだとしても2・30年は年季が入っていそうな敵じゃ・・」


 初期にバトル委員会からの警報も鳴っていたようだし、傭兵以外にも眷属が混じっていたのであろう。直接仕掛けてこないのは、こちらがクーリングタイムで、バトルは拒否権が発動できる事まで織り込み済みでの、嫌がらせとオババは判断していた。

 警報は、調査班が接触したことで、偶然発生したのであるが、その事はオババにはわからない。故に、味方になりうる勢力が、側で暇つぶししていることも、想定外であった・・


 その時、一つの青水晶の輝きが消えた・・

 「・・13番が逝ったようじゃな・・」

 既に半数が輝きを失った水晶の列に、また一つ暗い場所が出来上がった。


 「ワシが受け継いだ時に、半分亡くなったが、さらに寂しくなったのう・・」

 オババには、ボーン・ガーディアンの修復は出来ても、新生は出来ない。完全に破壊されてロストナンバーになった者も、何体か居た。

 ここ数年は隠遁生活をしていたので、ロストするような戦いも無かったのだが・・


 「カタカタ(別な者を呼び出しますか?)」

 27番がオババに尋ねた。


 しばらく悩んだが、オババは首を振った。

 「いや、今でもワシの容量では一杯一杯じゃからな・・1枠はいざという時の為に取って置こう・・」

 「カタカタ(しかし、祠から侵入してきた人狼を止める手立てが・・)」

 「なに、まだ12番もおるし、なんとかなるじゃろうて・・」

 

 オババは、そううそぶいたが、本当の理由は他にあった。

 もう、信頼できるボーン・ガーディアンが居なかったのである・・


 先代の「冥底湖の魔女」から、このシステムを奪い、青水晶の間まで領域を拡張してダンジョンに取り込んだ際に、全てのシステムを稼動することは叶わなかった。

 一つは、新しいガーディアンを生み出すことが出来なくなっていたこと。

 もう一つは、ガーディアンの制御が不完全であったことである・・


 オババと魔女の戦いで傷ついたガーディアンの修復は可能であったが、完全に破壊された者を再構成することも、死んだ冒険者の魂を骸骨骨格に移すことも出来なくなっていた。

 さらに、ガーディアンの中には、オババの命令に従わない者も居た。

 怠けたり、報酬を要求するのはまだしも、明確に拒否したり、他の眷属に攻撃を仕掛ける者まで存在したのだ。さすがにコントローラーであるオババに直接に害を与えることはしなかったが・・


 「可能ならば、やりたかったのかもしれぬな・・」

 当時のオババは、システム上の不備だろうと放置していたが、今、考えると、あれは彼らなりの意趣返しだったのかも知れない。

 「冥底湖の魔女」が、無理矢理ガーディアンを創ったのではなく、彼等の承諾を得て魂を保存しようとしたのであれば、その仇であるオババに恨みを持つのも道理である。

 素直に従ってくれた、3番や7番は、前任者にそこまで思い入れが無かったのか、それともそういう性格だったからかも知れない・・


 兎に角、使い易いナンバーばかり呼び出してしたので、さらに対応に差がついてしまった。早いうちに融和を図っていれば良かったのだが、オババ自身も自分のコミュニケーション能力に懐疑的である。

 ぶっちゃけ、配下のご機嫌取りなどできようもなかった。親和ランクCは伊達ではないのである。


 「話しても理解できない奴もおるしの・・」

 オババは、そっと23番を覗った。


 その電波系オラクル(占い師)は、今も宙を見つめたまま、何かを呟いている・・

 「カタカタカタ(・・大いなる災い来たれり・・方角は北東・・水難に注意・・ラッキーカラーは真紅・・)」


 「いったい誰と交信しておるのじゃか・・」

 オババの呟きが聞えたのかどうか、急に23番が振り向いた。


 「カタカタ(オババ様、あと2歩こちらへ・・)」

 「ん?なんじゃ?」

 23番の指示に従ったわけではなく、声が小さかったので、反射的に近寄っていった・・・


 その時・・・


 ゴゴゴゴゴ という轟音とともに、青水晶の間が揺れた。

 「カタカタ!(オババ様、地震です!)」

 27番の声が響く。


 しかしその揺れが地震ではなかった事がすぐに証明された。

 たった今、オババが立っていた場所に突如として大きな穴が開き、そこから巨大な昆虫の顎が突き出してきたのである。


 「なんじゃ!どうやってダンジョンの隔壁を突破しよった!」

 驚愕するオババの前で、獲物を掴み損ねた何かが、怒りながらその姿を現した。


 「フロスト・ワーム!有り得ん、こんな南まで移動してくるわけが・・まさか、これも刺客のうちか!!」

 あまりにも巨大なために、青水晶の間に1/3も入りきれずに暴れまくる、巨大な青白いワームが現実に存在した・・


 「青水晶の間に敵勢力が侵入した!敵は本気でここを潰しにかかっておる!!」


 オババは、緊急の念話を送るのが精一杯であった・・・




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