その時、激震が走った
遅くなりました、申し訳ございません。
局地的な地震と、オババの緊急念話は、ダンジョンの各地に喧騒をもたらしていた。
「え?揺れてる?」
「地震みたいデスね」
「・・&・・」
ボーン・ガーディアン達に、事情を説明した後で、今後の方針を検討していたビビアン達を、小さめの揺れが襲った。
それと同時にキャスターとランサーにはオババからの叫びの様な念話が届いた。
「・・こんな奴まで呼び出して来おった!敵は本気でここを潰すつもりじゃ!」
「カタカタ!(オババ様!大丈夫ですか?!)」
「カタ(反応がない・・)」
二人は顔を見合わせて、オババの元に駆けつけようとしたが、ビビアンに止められた。
「ちょっと、ここの守りはどうするのよ!」
はたと足を止めて振り返ると、
「「カタ!(頼んだ!)」」
「馬鹿じゃない?!眷属以外にコアルームの防備任せるとか、ありえないし!」
いくらダンジョンコアが不在とはいえ、この部屋を破壊されたらその間は、殆ど全ての機能が使用出来なくなる。ゲスト認定もされていない不審者に、丸投げして良いはずがなかった・・
「カタカタ(泣き虫ビビアンなら信用出来ます)」
「カタ(霊獣が居るなら悪さはしないはず・・)」
そう言い残して、ボーン・ガーディアン二人は、青水晶の間へと走って行った。
「ちょっと待ちなさいよ!今、悪口言ったでしょ!!」
ビビアンの声は、虚しくコアルームに木霊した・・
「何よアイツら、人の好意に付け込んで・・」
そう言いつつも律儀にコアルームを守ろうとするビビアンであった。
「無事だといいデスけどね・・」
「あら、死神なのに優しいのね?・・」
「私の見えない場所で、魂が彷徨うかと思うと、心配デス・・」
かきいれ時を逃したくない、デスであった・・・
凍結湖調査班、地下水路部隊もまた、地震を感じていた。
バトル委員会の警告により足止めを余儀なくされたメンバーは、周囲の迂回路の探索を終えると、空気だまりのある地下洞窟で休息をとっていた。
「こっちはハズレだったすね・・3にヒットっす」
暇を持て余したワタリが、ボヤきながら、棒手裏剣を岩の的に目掛けて投げていた。
「ギャギャ(まだわかりませんよ、大物が残っているかも・・7にヒットです、ビンゴ)」
メンバーの士気を維持しようと、自分でも信じていない予想をのべるアズサである。ちなみに3x3の的あてビンゴもアズサの方が上手かった・・
「どっちでもいいけど、待たされるのが一番苦痛だぜ、ジャー・・あ、5に命中した、ダブルリーチ」
ベニジャは、退屈が天敵らしく、何でも良いから暇潰しをしようとゴネた。そこで始まったのが的当てである。ちなみにベニジャは、大蛙の舌で参戦している・・
「みなさん~、少しダラけ過ぎでは、ないでしょうかあ~」
水中呼吸の呪文付与の為に、ゲスト参加しているルサールカのルカが、のんびりした雰囲気に釘を刺した。そう言う本人も、大蛙の腹をソファにして、一番寛いでいた。
「とは言え、オババがゲスト認定でもしてくれないと、手助けも出来ないっす・・・外したっす・・」
「ギャギャ(こちらに構えないほど、危機的状況なんでしょうか?・・・9にヒット、2ビンゴ目です)」
「ルカだけなら鉄格子の隙間から入れねえかな?ジャジャ・・・また、5かよジャー」
全員の視線がだらけ切ったルカに集まった。
「おや?私ですか~、そうですねえ~・・出来るかも知れませんねえ~」
しかしルカは、ポニョポニョしたお腹から降りようとはしなかった。
「私一人で潜入しても、何も出来ないですし~」
そう言って、暗に単独潜入を拒否した。
地震が起きたのはそんなタイミングであった。
「あ、今のハズレは無しっす。誰かに押されたっす」
「ギャギャ(そんな事、誰もしませんよ、手元がすべったからって・・)」
「いやいや、揺らされたっすよ、ほら今も・・」
「おいおい、これって地震じゃないか・・ジャジャー」
地鳴りの様な音と共に、地下水路が揺れていた。
「水の流れが変わった?・・ここも直ぐに水没するかも~」
水の精霊であるルカの言葉に、メンバーは慌てて集まってきた。
「ウォーター・ブレス!」
ルカに水中呼吸の呪文を付与してもらうと、ワタリ達は、次々に大蛙の口の中に潜り込んだ。
「激流に流されるなよ、逸れたら鉄格子に集合だぜ、ジャー」
「「シャーシャー」」
「「ケロケロ」」
「ピュイピュイ」
水棲・半水棲のメンバーが、次々に地下水路の流れに飛び込んで行った。
それを見届けて、ベニジャはクロコに指示を出した。
「よし、アタイ達も行くよ、ジャー」
「シャー!」
走り出したクロコの後ろから、悲しげな女の声が聞こえてきた・・・
「置いてかないでぇ~」
すっかり忘れ去られていた、おっとり主婦のルカであった・・




