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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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この矢に込める思い

今、お昼の休憩に入りました。まさかこんなに忙しいとは・・

お待たせして申し訳ございませんでした。

 外人部隊がコアルームに辿り着き、戦闘を開始していた頃、ハスキー達もまた先行する人狼傭兵団に追いつこうとしていた。


 当初は、ダンジョン内の自然洞窟風の通路が複雑に分岐していて、追跡に時間がかかるかと思われていた。しかし長らく放置というか掃除されていなかった為に、通路に埃が積もり、あちこち苔むしていて、追跡が容易だった。

 人狼の傭兵団が、侵攻速度を優先して、自分達の痕跡を消すことをおざなりにしていたのも有利に働いた。

 それでも人狼の耳と鼻は要注意である。

 ハスキーは、全員の身体に苔を擦り付けて体臭を隠し、自分が先行して足音を聞かれないように慎重に追跡を続けた・・


 やがて先頭のハスキーが、何かを聞きとがめて、後方の二人に「静かに待て」のハンドサインを送る。

 耳を澄ますと、全員に剣戟の音と、カタカタというスケルトン特有の顎を打ち鳴らす音が聞こえた。

 どうやらこの先の通路で、何かが人狼と戦っているようだ。


 ハスキー達は、飛び込むタイミングを見計らいながら、徐々に距離を詰めていった・・



 「カタカタ(アーチャー、こちらに敵を引き連れて来たのは、嫌がらせか・・だとしたら私にも報復の用意があるぞ・・)」

 ワーウルフ・ロードの大剣を受け止めながら、セイバーが、後ろで支援しているアーチャーに呟いた。


 「カタカタ(悪かったって、まさか手下を監視に回して、一人で居るとは思わなかったんだよ。こっちもアサシンが倒されて、手詰まりになったから仕方なくだな・・)」

 本人も、敵を押し付けたという思いはあるのか、申し訳なさそうにアーチャーが弁解する。


 「カタカタ(そうか・・アサシンが逝ったのか・・奴ほどの凄腕を倒したとなると、このワーウルフ・ロードもかなりの使い手だな・・)」

 「カタカタ(ああ、しかも巫女がいて、呪文で援護してきやがるぜ・・)」

 「カタカタ(ならば私は全力でこいつを倒す。残りは任せたぞ!)」


 そう言い放つと、セイバーは防御主体から攻撃へと戦術を変えていった。

 「カタ(おい、そいつは俺の・・って聞きやしねえ・・しかも銀の武器も無しにどうやって倒すつもりだよ・・)」

 愚痴を言いながらも、隙あらば足元を潜り抜けて後方へ回り込もうとする狼形態の人狼を、牽制するアーチャーであった・・



 人狼側も膠着した戦況に苛立ちを覚えていた。

 逃げ去った骸骨の守護者を追って、地下洞窟を走りぬけたが、どうやら囮であったらしい。目的の重要拠点ではなく、何もない通路に誘い込まれていた。

 そこで新たな骸骨守護者が現れて、逃げてきたそれと言い争いをしながらも、傭兵団の攻勢を受け止めたのだ。


 「兄さん、こいつらに構ってないで他に回ろうよ」

 狭い通路ではこちらの数の優位が上手く働かない。しかも正面に立ち塞がっているのは騎士タイプの守護者らしく、団長の攻撃さえも防ぎきっていた。ここで時間を浪費すると、ダンジョンの防備が堅くなる可能性があった。敵が混乱しているうちに目的を果たして、速やかに撤退するのがベストであった。


 「そうは言うが、こいつらを無視すれば後ろからバッサリやられるぞ」

 確かにそうだが、団長の顔つきを見れば、騎士との戦いを楽しんでいるのが丸分かりである・・


 「ああ、もうアタイだって暴れたいのにさ・・」

 いつもは妹の暴走を止める側の兄が、戦闘を楽しんでいる現状では、歯止めが利かなかった。

 団員も勝手に狼に変身して、通路の隙間から後方の盗賊風な守護者を狙っていたが、思うような戦果はあがっていない。

 団長と騎士の戦いは、下手に手を出すと巻き込まれそうであったし、タイマンを邪魔された団長に、後で怒られるのも嫌なので、誰もが距離を置いていた。


 「こうなったら、後ろの守護者だけでもアタイが倒す・・」

 月の女神の神官でもあるウェラが、神聖呪文を唱え始めた。


 「我が手にあるは月光の槍、女神の怨敵を・・イタッ!」

 しかし詠唱の途中で投げつけられた銀の短剣によって、呪文は妨害されてしまった。


 「カタカタ(呪文の詠唱が終わるまで、待っている馬鹿はいないんだよ!)」


 「あの野郎、副団長になんてことを!」

 挑発するアーチャーに、周囲の人狼がいきり立った。


 「ウェラ、大丈夫か?!」

 団長の意識も一瞬だけ、後方に削がれた。


 そこに、セイバーによって呼び戻されていたシャドウ達が、襲い掛かった。

 「「カゲカゲ(遅くなりました)」」

 両者の影に紛れながら、移動してきたシャドウ6体が、手当たり次第に人狼達にストレングス・ドレインを仕掛ける。


 「うわ、壁から黒い影が!」

 「力が、力が抜けていく・・」

 「やべえ、アンデッドだぜ、こいつら!」


 銀以外の物理攻撃に強い人狼達も、シャドウの特殊能力であるストレングス・ドレインは防げない。しかも魔法の武器など、団長の大剣ぐらいしか配備されていなかった。


 「ウェラ、例の奴だ!」

 「了解!詠唱の邪魔をさせないで!」

 ヴォルフの指示でウェラが呪文を詠唱し始める。

 それを妨害しようとするアーチャーの射線上に、団員達が立ち塞がって壁となった。


 「カタカタ(余所見とは余裕だな!)」

 セイバーがヴォルフに斬りかかり、会心の一撃を加えた。

 本来なら致命傷になるはずの一撃も、しかしやはり銀の武器でなければ、効果は薄かった。


 「剣技だけならそちらが上だが、相手が悪かったな!」

 ヴォルフの反撃で、セイバーの盾が砕け散った。

 飛び退ったセイバーは、右手の長剣を両手で握り直して、間合いを測る・・


 その隙にウェラのムーンビームが完成するはずであった・・彼らの介入が存在しなければ・・


 

 「イタタタ、今度は何だよ?もう」

 ウェラは、首筋に突き立った矢を引き抜くと、無警戒だった背後を振り返った。その銀の鏃の矢羽根に見覚えがあった為に、そこに居る男にも予想がついていた。


 「なんだい、熱烈な求愛行動だね・・」

 「勘違いするな、それは宣戦布告の合図だ・・」


 銀の矢を構えたハスキーと、ウェラがにらみ合う・・その間にもスタッチとソニアは人狼とシャドウの乱戦に参加していた。


 「おらおら、悪く思うなよ、夜討ち朝駆けは戦場の常だからな!」

 「傭兵団なら分かっているさね・・負けたら御終い、報酬もらって酒が飲めたら勝ちってね!」

 

 シャドウのドレインで弱体化していた人狼では、銀の短剣を振りかざす中級冒険者を止める事が出来なかった。次々と戦闘不能に追い込まれていく・・



 「カタカタ(おいおい、なんで冒険者が助っ人に来るんだ?)」

 「カタカタ(知らん、だが、好機だ!シャドウは人狼だけを狙え、人族は放っておけ!)」

 「カゲカゲ(了解です・・)」

 

 とは言え、シャドウに人狼と人族の区別はつかなかった。

 一通り狼形態の人狼を攻撃すると、後は迷ってからスタッチに矛先を変えた。


 「馬鹿野郎、多少毛深くても俺はれっきとした人間だ!」

 手にした銀の短剣を闇雲に振り回すと、納得したシャドウ達が、今度はヴォルフへと群がる。


 「ホイールウィンド・アタック!(旋風撃)」

 ヴォルフは大剣を全周に振り回し、周囲のシャドウを一撃で屠った。


 それを見たスタッチとソニアが同じようにボヤく。

 「おいおい、あんな得物を持った人狼と戦うのかよ・・」

 「せめてこっちも慣れた武器で戦いたいものさね・・」

 右手の銀の短剣と、相手の大剣を見比べて、ため息をつく・・


 

 だが、ヴォルフの方も追い込まれていた。

 戦力になるのは、ウェラと二人だけで、残りの団員は、半死半生で通路で呻いている。放っておけばシャドウ化する者もでることだろう。

 対して敵は5人。それぞれがヴォルフと渡り合える力量を備えていた。

 人狼の防御力と、大剣の威力だけでは、勝ち目は薄かった・・

 特に銀の矢を放つ、あの男が危険だった。他の4人は得意な武器が使えず、本来の力を発揮できない様子である。しかし、あの男の場合は、鏃によって、やや威力は落ちるものの、本来の弓を使える分、脅威度が高い・・

 前衛に守りを固められて、後方から射たれ続ければ、自分も危ういだろう・・

 ましてやウェラは・・・


 ヴォルフは、あの男に声を掛けた。


 「なぜ俺たちに敵対する?・・」

 あの男は、狙いを寸分も狂わせないまま答えた。


 「ここは、アイツの家だった場所だ・・壊されるわけには行かない・・」


 その言葉から、懐柔は無理だと悟った・・

 殺し合いにするか、それとも・・





 



 


 


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