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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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混沌と秩序の狭間で

 オババのダンジョンの心臓部、コアルームを守るために、キャスターとランサーは最終防衛戦を引いていた。鉄格子をバリケードにして、ランサーが火炎攻撃を繰り広げたが、ドラゴニアンのクリプト・ガーディアンは、酸のブレスでそれを溶かして突破してきた。

 その時、キャスターがプラナー・アレイ(異界の同盟者)の呪文により、事前に召喚してあった同盟者を戦線に投入したのである・・・


 「なぜ、虚空に向かって解説をしておるのじゃ?」

 「カタカタ(そうしろと、ナニかが私に囁いたのです)」

 

 突然、独り言を長々と呟き始めた23番に、オババは気味悪げに尋ねた。


 「お主は時たま、何かを受信しておるが、一体誰が送ってくるのじゃ?」

 「カタカタ(それは私にもワカリマセン・・)」

 「訳のわからない者からの囁きは、無視した方が良いぞ・・」

 「カタカタ(それが出来れば、クロウはしないのです)」

 「そ、そうか・・難儀じゃのう・・」


 今も虚空を見続ける23番から、オババは2歩遠ざかった・・


 ガーディアン・ナンバー23、オラクル(占い師)の能力を持つ術者である。だが、仲間内では「星を見てしまった人」とか「禁書閲覧」とか呼ばれていた。

 SAN値が少し削れているらしい・・・

 オラクルとしての能力は高いのだが、その分、余計なモノまで受信してしまうと、噂されている・・



 その頃、コアルームでは、キャスターの呼んだ同盟者が姿を現していた。


 それは、オーガーよりも巨体で、

 ファイアー・ドレイクの様な、赤い表皮を持ち、

 混沌に染まった瞳を睨めまわしながら、

 イボイボの背中を丸めて、

 ぬるっとした腹を突き出しながら、直立歩行をしている・・


 ・・・蛙だった。



 「呼んだゲロ?」


 

 「まさかの蛙繋がりじゃと?!」

 「カタカタ(フロッグマンはテキですけどね・・)」



 キャスターの呼び出した異界の生物は、スロッグと呼ばれる蛙型異界生物であり、リンボ(辺獄)に多数生息している。

 その生態は謎に包まれているが、卵から孵るという事と、表皮の色で、厳格に階級が分かれているという事だけである。ちなみに赤は労働者階級で、最も個体数が多いと言われている。


 「カタ(レッド・スロッグ1体では止めきれない・・)」

 戦力を冷静に判断したランサーが、呟いた。


 「カタカタ(元より承知しているさ。さあ、同盟者よ、そのおぞましき力を我に示せ!)」

 キャスターの叫びに、レッド・スロッグが答えた。


 「ムリムリ、あの報酬じゃあ、この数相手にやってられないゲロ」

 「「・・・・」」


 異界の同盟者の呪文は、呼び出した異界生物と契約を結ぶことで成立する。

 簡単な願いなら、呪文の強制力で無償で働いてくれることもあるが、大抵は相手の喜ぶ代価を提案して交渉する事になるのが普通だった。

 そして、キャスターの代価は認められなかったらしい・・


 「カタカタ(だが、私の蓄えはあれで全部・・)」

 「案外、慎ましい暮らしぶりだゲロ」

 「カタカタ!(ほっといてくれ!)」


 その間にもドラゴニアンの墓守は続々と鉄格子の残骸を踏み越えてコアルームに乱入してきている・・

 

 「カタ(俺が同じだけ払おう・・)」

 黙ってやり取りを聞いていたランサーが、ボソっと呟いた。

 「カタカタ(いいのか?ランサー?)」

 「カタ(放っておけば、ここを守り切れない・・)」

 「カタカタ(すまん、お前にまで5000GP相当の宝石を払わせてしまうが・・)」


 「カタ(ちょっと待て!5千だと!)」

 「カタカタ(ああ、セイバーやアーチャーから借りておいた分も合わせて、奮発したんだが、まさか足りなくなるとはな・・でも流石にメイジだな、ポンっと3人分を払えるとは・・)」

 「カタ(い、いや、それがだな・・)」

 

 しかし非情にも契約は更新され、レッドスロッグにやる気が漲った。

 「漲るゲロロ~~」


 するとその叫び声に導かれるように、コアルームの空間が歪み、次元の歪から新たなレッドスロッグが出現したのである。


 「誰かと思えば兄さんゲロ」

 「どんどん家族を呼び出すゲロ」

 「承知ゲロロ~~」


 最初のレッドスロッグは、召喚を2体目に任せると、自分は、ドラゴニアンの群れに突っ込んでいった。

 「オラオラ、報酬の分は働くゲロ!」


 その間にも、芋蔓式にレッドスロッグが呼び出され、召喚を終えた個体は、戦いの中に混ざって行く・・


 「我が軍は圧倒的だゲロ!」

 最初の個体と思われるレッドスロッグが雄叫びを上げていた。


 しかし、それを冷めた目で見守る男が居た。

 ランサーである・・


 「カタ(一応、確認しておくが・・)」

 「カタカタ(ん?払いの件か?大丈夫だ、奴には成功報酬と言ってある)」

 「カタ(そうではなく、連鎖召喚する異界生物は、個体毎に報酬を払わないと、帰還を受け入れない事は知っているよな?)」


 それを聞いたキャスターの顔が、さらに蒼白になった。

 「カタカタ(本当か?)」

 「カタ(本当だ・・)」


 すでに破産寸前のキャスターには、払える訳もなかった・・


 「カタカタ(で、帰還しない個体はどうなるんだ?・・)」

 「カタ(勝手にこの世界で繁殖していく・・)」


 キャスターは、スロッグでパンパンになったダンジョンを想像して、思わず身震いした。


 「カタカタ(なんとか出来ないかな?・・)」

 「カタ(無理だな・・)」

 無理に送還しようとすれば、今度はこちらに敵対してくるらしい・・



 「カタカタ(・・頑張れ、クリプト・ガーディアン・・)」

 「カタ(・・出来れば相打ちで・・)」

 

 

 コアルームは、なんとか崩壊を免れていた・・


 すでに秩序は失われていたけれども・・・




 

 


 



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