思わぬ伏兵
『オババ様、凍結湖西岸に巨大な召喚反応が出現しています!』
「なんじゃと、蛙共が何か呼び出しよったのか?」
『索敵のシャドウでは、何が出現したかまでは理解できません。とにかく大きいとしか・・』
「四つ足か、羽が生えとるかぐらいは判別つくじゃろう、よく観察させるのじゃ」
『はっ!』
『オババ様、せめてコアルームと、青水晶の間に防衛戦力を増やして下さい!』
「ああ、わかったよ、18番をそっちへ、ここには22番と27番を置くから心配するでない・・」
『18番・・ああランサーですか、彼なら連携が取り易いですが・・』
「だから、そのコードネームは誰がつけた・・」
『オババ様、増援はまだかよ!斬っても斬ってもキリがねえぞ、こいつら!』
「やかましい!一辺に喋るんじゃないわ!」
オババのダンジョンコアとしての能力は、総じて高い。
ダンジョン知識A、戦闘力B、コア容量Bである。ただし演算速度と親和度がCであった。
判断すべき状況が1つであるなら、知識と経験に即した対応ができた。
しかし、多方面に問題が起きると、演算処理が追いつかなくなる。そして判断ミスが出るようになる・・
通常ならこのような場合は、ダンジョンマスターが報告を受け取り、判断を下して命令をする。それをダンジョンコアが伝達、処理し、不都合があればマスターに変更を進言する。
ただし、オババにはそれを行なってくれるマスターが居なかった・・・
本来、全てを自分で判断する様には、ダンジョンコアの機能は調整されていない。
あくまでも主従の従である事を求められているからである。
何か理由によって、マスターが不在になったときに、ダンジョンの管理を任されることはあっても、それは一時的なもので、期間が区切られているのが普通である。
いつ戻るかわからないマスターを、何十年も待ち続けることは、ダンジョンコアには出来ない・・・
普通ならば・・・
ベテランのオババが忙しさに紛れて犯したミスは3つ。
一つ目は、本来は盾であるべき7番を、凍結湖の見張りに置いて遊兵にしてしまったこと。
二つ目は、守護者の中でも信頼できる術者を二人とも、コアルーム及び宝物庫の護りに回してしまったこと。
三つ目は、外部からの援軍を想定していなかった為に、侵入者は全て敵であると判断してしまったことであった・・・
コアルーム(災害対策本部)にて
『あんのうん』
「ご主人様、地下水道調査班が不明領域に侵入します」
コアルームの壁に投影された周辺地図は、今回は2重映しになっていた。
地上と地下水路を重ねて投影してあるのだ。これによって、地上部隊と地下水路部隊の連携がとり易くなるはずである。
今は、速度の関係で地下水路部隊の方が先に進んでいた。
途中に、大鯰や骨水竜の様な、独立した領域主も存在していなかったので、侵攻が楽だった事もある。
時々、通過する地下水路が、フロストリザードマンの領域である箇所があったが、侵入者への見張りも、警報もなかったので、黙って通過させてもらった。
ただし、こちらの支配下には置けないので、ダンジョン領域としての接続は途切れている。なので、その先は遠話で情報をやりとりしていた。
「コア、地下水路部隊に遠話を繋げて」
『トゥットゥルー』
『・・あいよ、ベニジャだぜ、ジャー』
「そろそろ未確認領域に入るけど、何か障害がありそうかな?」
『いまんとこ順調だぜ・・あ、ちょっと待った、斥侯のミコトが何か発見したって、ジャジャ・・』
「オババの守護者なら、敵対せずに声を掛けてね。揉め事は勘弁だよ・・」
『・・いや、あの婆さんと揉めないのは無理だと思うぜ、ジャジャ・・』
確かに、素直に通してくれそうにないね・・
『守護者とかじゃなく、地下水路が鉄の格子で塞がってるらしい・・通行止めってやつだな、ジャー』
鉄格子か・・その先が凍結湖に通じているんだろうね・・
「通り抜けは無理かな?」
『ミコトでギリギリ、後は無理っぽいぜ、ジャジャ』
ミコトだけ送り込んでも危険かな・・
「側に誰か居ない?」
『誰もいないぜ・・使われてないんじゃないかな、ジャジャ』
排水路から大型の生物があがってこないようにしてあるだけかな・・
「なら、いいか・・鉄格子はずれそう?」
『壊していいなら、ジャジャ』
「・・やっちゃって・・」
ベニジャが騎乗していたクロコから降りると、鉄格子へ突進させた。
『頼んだぜ、クロコ!』
『シャーーーー』
ズシンと音がして、鉄格子が拉げた。
その途端、コアルームと現地にアラームが鳴り響いた。
「え?何の警報?」
『あうち』
「ご主人様、館内ではなく、外部からの干渉の様です」
『だめだってぇ』
「ああ、委員会からの警報か」
その推測はすぐに裏付けられた・・
『てすてす、てすてす、皆さん~聞えますかあ~』
あ、これ「ドジっ子」さんだ・・
『あれ?返事がない・・どうしましょう・・こういうときは、慌てずに、一度、コンセントを抜いて~』
「ストップ!それは危険だから!」
『あ、なんだ、ちゃんと通じてるじゃないですかあ~』
「ええ、聞えてますから、用件をどうぞ・・」
『え?用件ですか?・・あ、そうでした、マイクのテストじゃなかったでした・・・』
なにか凄い嫌な予感がしてきたよ・・
『用件は、ダンジョンバトル委員会からの通達ですう・・えっと・・・あれ?メモどこ・・確かこっちのポッケに・・・』
「あの・・急いでるんですけど・・」
『あ、ゴメンなさい・・そうですよね、皆さん忙しいですよね・・あ、そうだ、お買い物リストの裏に書いたから、きっと休憩室に・・ちょっとお待ち下さいね・・ガチャ』
「ガチャ??」
ツー・ツー・ツー
『きれたぁ』
マジですか・・アラームだけ鳴らして放置とか、どんな嫌がらせ?
『大頭、どうする?ジャー』
「しばらく待機だね。どちらにしろ鉄格子を破るのは規則違反みたいだから、オババの許可がないと通過も侵入もできそうにないよ」
『了解、こっちは他にわき道がないか調べておくぜ、ジャジャ』
「うん、そうして、十分後にもう一度連絡するから」
『がってんだぜ、ジャー』
しかし、コールセンターからの返信は、なかなか降りてこなかった。
「開けて下さい、中に忘れ物があるんです~」
『駄目だ、あとちょっとで原稿があがるんだ。今、この部屋に危険人物を入れるわけにはいかない!』
「でもでも、メモが~」
『さっき無理に入ってきたときには、部屋を散らかして、インク瓶を倒しただけだ。何も持っていなかったぞ!』
「でも、こっちの部屋には見当たらないんです・・きっと休憩室です、そうに違いないんです~」
『もっと良く探したまえ!こちらは私がやっとのことで整頓したが、それらしきメモは無かったんだ。信じてくれ!』
「え~、人は誰でも見落とす事がありますから~」
『君に言われたくない!!』
扉越しに「ドジっ子」と「貴腐人」が攻防を繰り広げていた。
ドジっ子のエプロンドレスのお尻には、トーンの切り屑と一緒に、件のメモらしき紙片が張り付いていたが、唯一それに気がついている「管理人」には、それを指摘するつもりはなかった。
「あらあら、あの様子だと、しばらくは時間がかかりそうね、うふふ」




