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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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魔法の力だ

 ヴォジャノーイが占領する凍結湖畔の居住区には、配下のフロッグマンから次々と報告が上がって来ていた。

 「地下洞窟の入口を発見したケロ」

 「岩で塞がれていたケロ」

 「オイラ達の力だと退かせないケロロ」

 

 俊敏性は高いが、筋力は低めのフロッグマンでは、積み上げられた岩は力尽くで押しのけるのは無理があった。水魔法を打っても、水中にある岩では効果がほとんどない。そしてやる気もあまりなかった・・・


 「入れないなら仕方ないケロね」

 「良い仕事したケロよ」

 「晩飯なんだケロロ」


 「お前ら、良い汗かいた風に終わりにするんじゃねえ!」

 ヴォジャノーイの怒声が響いた。


 「そんな事言っても、オイラ達に見返りが無さ過ぎケロ」

 「祭りだと思って来てみたら、とんだ重労働だったケロ」

 「オイラ、婚活に来ただけケロロ」


 ヴォジャノーイの呼び声に釣られて集まって来てみたは良いが、仕事を押し付けられるのは不服らしい。

探索も戦闘も嫌いではないが、楽しくないとやる気も起きない。わかり易い飴が必要らしい・・・


 「なら川虫食べ放題でどうだ?」

 「ザザ虫ケロ?」

 「本当に食べ放題ケロ?」


 トビケラに代表される水生昆虫は、水温の低いこの地域にも生息していた。凍結湖自体には居ないが、その周辺の河川には、十分な数が生息している。そして水生である以上、ヴォジャノーイが呼び集めることができるのだ。


 「ザザ虫だけだとお腹に貯まらないケロ」

 「珍味ではあるけどケロね」

 「もう一声ケロロ」


 「ええい、なら沢蟹も付けよう!」

 「乗ったケロ」

 「オイラ達に任せるケロ」

 「取って置きを呼び出すケロロ」


 最初から本気を出せと言いたかったが、そこはぐっと我慢した。

 フロッグマン達は、湖畔で輪になると、奇妙な踊りをしながら、ゆっくりと廻り始めた・・・


 「ケロロ♪ ケロロ♪ ツンドラケロロ~♬」

 「ケロロ♪ ケロロ♪ ケロケロ、ペッタンコー♬」

 「ケロロのケの字は、ケロリンパのケの字♪・・・」


 それを見ていたヴォジャノーイが、思わず声を上げた。

 「おいおい、アイツら、何を召喚する気だよ・・」


 その間にも輪の中心に強大な魔力が集まり始め、地面に水掻きの形をした魔法陣が浮き上がってきた・・


 「おいおい、デカ過ぎだろうが・・」

 魔法陣のサイズからすると、巨大な何かが呼び出されるはずであった。

 「アイツらに制御しきれるのかよ・・」

 ヴォジャノーイは、フロッグマンに任せたことを後悔し始めていた・・・



 やがて、召喚の儀式は完成し、魔法陣の上に巨大な角を持つ大蛙が出現した。

 「ギガントホーンドトードの登場ケロ」

 「よくぞ呼びかけに応えたケロ」

 「これでバリケードもイチコロだケロロ」


 騒ぐフロッグマン達を巨大な目でギロリと睨むと、ギガントホーンドトードは、その長大な舌を伸ばして、手近な者をパクリと飲み込んだ。


 「ギャーー」

 「早くも巨大生物が反乱を起こしたケロ」

 「こうなることは予言されていたケロロ」


 「わかってたんなら、呼び出したりするんじゃねええーー」


 ヴォジャノーイの魂の篭った突っ込みが凍結湖畔に響き渡った・・・



 そして新たなフロッグマンが呼び出される・・


 「あ、でも今は行かない方が良さそうケロ」


 事は無かった・・・

  



 その頃、人狼の傭兵部隊は、凍結湖の南西に隠された、地下通路の入口を探し当てていた。

 「こんな祠に偽装するとは、余程、外部から侵入をして欲しくないようだな・・」


 人狼の鋭敏な探索能力が無ければ、この古びた祠に人の出入りがあることなど見つからなかったであろう。しかし目的地が稼働中のダンジョンと聞いていたので、多少の違和感があった。


 「でも兄ちゃん、ダンジョンならもっとこう、獲物を呼び込み易くなってないか?・・」

 妹のウェラが、違和感の元を指摘してくれた。

 「そうだな・・予想された凍結湖の湖底も、メインの入口としては不便過ぎる・・まるで、誰も入ってくるなと拒絶しているようだな・・」


 主の居なくなったダンジョンなら、時が経つにつれて入口が塞がっていくこともあるだろう。

 しかし、稼働中ならば、餌として他の存在を取り込まなければ、維持出来ないはずであった。

 それとも、このダンジョンには何か特殊な理由があるのであろうか・・


 ヴォルフは、拭い切れない戸惑いを振り払いながら、隊員に侵入を指示した。


 「罠とガードには気をつけろ。常に二人一組で行動せよ・・」

 「「おう!」」


 狼形態と半獣半人形態の二人が組みになって、地下洞窟を探索していく・・


 「罠もガードも見当たらないな」

 「枝道は幾つかあったが、どれも行き止まりだった」

 「2ヶ月ぐらい前に5・6人が移動したきりで、あとは使った形跡がないぜ」


 隊員の報告にヴォルフは頷いた。

 「どうやら、脱出路で確定だな・・上手く行けば中心区画まで直行できそうだが・・」

 会話の途中で、突然、腰の鞘から短剣を引き抜くと、通路の奥に投げつけた。


 その殺気に反応して、隊員達も戦闘体勢に移行した。


 「カタカタ(おいおい、危ねえな、いきなり短剣を投げてくるのはどうよ・・)」

 通路の曲がり角から、ヴォルフの投げた短剣を、素手で掴んだまま現れたのは、黒い革鎧を着込んだ、骸骨の戦士であった。


 「スケルトン・ウォーリアーか?・・いや、違うな、それよりランクが高そうだ・・」

 「カタカタ(へへっ、分かる奴には、隠しきれねえな、この俺様の実力は・・)」

 「どちらにしろ、ガードの一種だろう・・排除する・・」

 「カタカタ(おお、やる気満々だねえ・・しかし、ちと数が多すぎるな、こりゃ・・)」


 「殺れ!」


 ヴォルフの指示に反応して、2頭の狼形態が飛びかかった。

 しかしそれを、骸骨戦士は綺麗に回避すると、手にした短剣を牽制として投擲した。

 

 「カタカタ(やはり効きが悪いか・・)」

 胴体に命中した短剣であったが、刺さることもなく床に落ちてしまう・・

 「カタカタ(狼ぐらいはダイアウルフであって欲しかったが、こりゃあ、全部人狼だな・・)」


 12番と呼ばれるのを嫌い、自らアーチャーと名乗る守護者は、後方に待機する侵入者を数えた。

 「カタカタ(ひの、ふの、16か・・2体は上級種のようだし、俺だけだとキツいな・・)」

 アーチャーは、冷静な判断を下して、念話でオババに救援を求めた。


 「カタカタ(それまでは、ここを死守だぜ)」

 アーチャーは背中の隠し鞘から2本の小剣を抜き出した。それらは、銀色に輝いていた。

 

 天敵の銀の刃を見て、前衛の人狼達が、一歩後ずさった。


 「随分準備が良いんだな・・」

 ヴォルフも警戒しながら、相手の出方を伺う。


 「カタカタ(冒険者時代の名残でな・・生前は一度も出会わなかったが、こうやって役に立つ時が来たってわけよ・・備えあれば憂い無しってな)」


 アーチャーは、二刀流に構えると、通路の中央に陣取った。


 「カタカタ(アサシンの野郎、早く来ねえと、俺が全部倒しちまうぜ・・)」


 じりじりと間合いを詰める、人狼達を睨みつけながら、威勢の良い言葉とは裏腹に、稼がなければならない時間を考えるアーチャーであった・・・







 

 


 



 




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