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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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北欧の聖人とは無関係です

 ビスコ村の冒険者ギルドでは、降って沸いた大物討伐の話でもちきりであった。

 冒険者の集う酒場でも、噂が噂を呼び、討伐部隊を募集する集団まで出没し始めていた。


 ギルドの受付では、仏頂面をした受付嬢が、今日、何回目になるかわからない説明を繰り返していた。

 「他の冒険者の討伐記録を、理由なく開示する事は禁止されています。また、現在はボーンサーペントの素材回収の常設依頼は取り下げております」


 「でもよお、倒したとこを見た奴がいるんだぜ。しかも物がでかすぎて、簡単には運び出せないなら、その回収を依頼しても良いだろうよ?」

 髭面の男は、自分たちでは到底手が出せない大物の死体漁りをする為に、なんとかギルドから情報を引き出そうと粘っていた。

 酒場で聞き込んだ噂話では、話に尾鰭がついていて、いまいち信用性に欠けている。同じことを考えている同業者を出し抜くためにも、正確な情報が必要だった。


 「何度お尋ねになられてもお答え出来ません」

 「おいおい、こっちが下でに出ている間に、話した方が良いんじゃねえのか?ネタは上がってるんだからよ!」

 凄んで見せる髭面の男の背後から、底冷えするような声が聞こえてきた。


 「その話、私にも詳しく教えてもらえますか?」


 「馬鹿野郎、飯の種をペラペラ喋る奴がいる・・・」

 振り向くと、長い列を作っていたはずの冒険者達は、跡形もなく消え去っており、一人の受付嬢が腕を組んで立ちはだかっていた。


 「・・んですよ、酒場で聞き込んだんですけどね・・」

 急に卑屈になる髭男の額を、アイアンクローで掴むと、奥の会議室へと拉致していった。

 「話します、話しますから、イタタタタ・・・」


 冒険者ギルドに束の間の静寂が訪れた・・・



 「それで、噂の発信源は誰ですか?」

 会議室で、受付嬢と差し向かいで座らされた髭男は、顔面蒼白になりながら、ペラペラと喋った。


 「あっしが聞いたのは、ハーヴィーって言うチンケなハーフリングのシーフからです。どっかのパーティーが偶然に瀕死のボーンサーペントを仕留めたけれど、相打ちになったって・・」

 それを聞いた受付嬢は、ただ一言、

 「あの馬鹿ですか・・」


 「それで、今なら回収されていない素材が放置されてるから、採り放題だと・・」

 「それを鵜呑みにしたのですか?」

 「最初はいつもの与太話だと思っていたんですが、信じる連中が現れて、ハーヴィーが取り分を競りにかけて釣り上げ始めたんで・・」


 「なるほど、そこまでやって噂でしたでは、済まないでしょうからね」

 「へい、なんで、依頼を受けたパーティーの調査先が判明すれば、先回りもできるかなと・・へへ・・」


 「いいでしょう、その情報の代わりにギルドの業務を妨害した件は相殺してあげます」

 「へへーー、ありがとうごぜいやす」


 「次はありませんからね・・」

 下げた頭の後ろに、絶対零度の視線が突き刺さった。

 恐怖で机に突っ伏したままの髭男に、受付嬢が尋ねた。


 「それで、あの馬鹿シーフはどこに居ますか?」

 「そ、それが、もうパトロンを見つけて出発したみたいですぜ・・」


 部屋の温度が確実に下がった・・・


 「どうやらお仕置きが必要なようですね・・」


 恐怖で失神した髭男からの、答えは無かった・・・




  湖沼地帯南部にて


 ナビス湖を北上して、人里から離れると、そこはフロストリザードマンの勢力圏である、大小の湖沼群が広がっていた。その中を、20頭近いトナカイが列を作って進んでいた。

 その鞍上には、赤い鎖帷子に身を包んだ、バイキングのような風貌をした戦士達がいた。

 彼らは周囲に油断のない目を配りながら、先頭の一際大きなトナカイの後を隊列を組みながら行軍していた。


 先頭を率いるのは、鎖帷子と同じ色をした、真っ赤なホーンヘルムを被った、大男である。

 彼の名はクラウス、太陽の名を冠された、北方山賊の雄であった。

 人は彼を、畏敬の念を持って、こう呼んだ。


 「サン・テ・クラウス(太陽のクラウス)」


 そのクラウスが、自らの愛騎「レッドノーズ」のサドルバッグに収まっている、ハーフリングに声を掛けた。

 「おい、道はこっちで間違いないんだろうな・・」

 「大丈夫、大丈夫、湖伝いに移動してれば、迷うことはないからね」

 ハーヴィーは、強面の賊長に怯えもせずに答えた。


 「なぜ、真っ直ぐに目的地を目指さない?・・」

 「やだなあ、そんなバレバレな事をしたら、他の連中に先回りされちゃうでしょ。あちこち寄り道すれば、本命は分からないからね」

 そう答えたハーヴィーであったが、実は身の安全を図る意味もあった。行先を告げてしまったら、この山賊紛いの集団に、口封じされる危険もあるからである。


 「だが、この周辺はリザードマンの領域だ。無駄な戦闘は避けたい・・」

 あくまで時間短縮が理由であり、蜥蜴人に負ける事など、端から考えていないクラウスであった。


 「それも大丈夫、最近はここいらの連中も大人しくなってね。こっちが人数が多ければ襲ってきたりしなくなってるから。なんでも真紅が見かけるを幸いに焼き尽くしたって、もっぱらの噂だよ」

 「ほう、その真紅とやらは腕が立つようだな・・一度会ってみたいものだ・・」

 強者には関心を示すクラウスであった。


 「ダメダメ、真紅はここらじゃ有名な火炎使いだけど、扱い辛いので有名なんだ。仲間にしたら敵ごと巻き込まれるだけだって」

 「なに、味方を傷つける事を怖がっていては、大成は出来ぬ。そやつは見所があるということよ・・」

 「そうかなあ・・」

 真紅のあれは違うような気がするけど、とハーヴィーは思った。


 その時、クラウスのトナカイが、何かに気付いて横を向いた。

 「どうした、レッドノーズ、敵か?」

 クラウスの問いかけに、静かに鼻を鳴らす。


 「敵には成りえないということか・・」

 その鼻先には、こそこそと隠れて離れていく、フロストリザードマンの小隊がいた。


 「お頭、どうしやす?」

 「放っておけ、小物を追いかけても実入りは少ない・・」

 「ですな」

 配下の戦士達も、あの程度の獲物ではやる気が起きないらしい。


 「所で、そのトナカイはなんでレッドノーズ(赤鼻)なの?躰は大きいけど、鼻は赤くないよね?」

 ハーヴィーが気になっていた事を尋ねた。


 「こいつは、初陣で羆をタイマンで仕留めた。その時の返り血で真っ赤に染まった鼻先を、皆が称えてそう呼んだのだ・・」

 「トナカイが羆を?」

 「そうだ・・」


 ハーヴィーが目を凝らしてレッドノーズを見ると、その角には鈍色の金属が、嵌め込まれていた。

 「あのう・・角のあれは?・」

 「ホーンブレード・・カリブー達の剣だ・・」


 後ろを見れば、どのトナカイも角に金属を嵌め込んでいた。


 「・・もしかして、ヤバイのに捕まったかな・・」


 ハーヴィーは、早めに逃げる算段を、頭の中で考え始めていた・・・






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