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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第11章 湖底の棺編
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仲買人の苦労

 スタッチからの報告を聞いて、ギルドの受付嬢は額に手を当てながら、ため息をついた。

 「それで話は終わりでしょうか?」


 「ああ、あとはオークの丘に移住してきたドワーフの鍛冶師にボーンサーペントの素材の加工を頼んで、逆に山羊か羊の買出しを頼まれたぐらいだぜ」

 スタッチは素直に全部を打ち明けた。ただし、本人が忘れていることや、面倒で端折った箇所はあったけれども・・


 「まず、一つ言っておかなければならない事は・・」

 「事は?」

 「何やらかしてるんですか、貴方達は!」

 

 スタッチはご褒美をもらった・・



 怜悧な美人に叱られて、ニヤついているスタッチの代わりに、ハスキーが話を継いだ。

 「何かまずかったか?いや、まあ遣り過ぎた感じがあるのは否めないんだが・・」


 「自覚はあるんですね・・では今回の件で、行き過ぎたと思う行動を各自、述べてみなさい」

 受付嬢の気迫に、4人はおずおずと思い当たる事由を挙げていった・・・


 「やっぱりビビアンに料理当番を任せたのが?」

 「ちょっと、それ関係ないでしょ!」

 

 「それよりソニアが一人でボーンサーペントに突っ込んだのが問題よね?」

 「あれは、それしか方法が無かったさね・・」

 

 「ビビアンが倒れるほど、蜘蛛の大群を倒しまくったのが、まずかったさね?」

 「あれも魔力切れと急激なレベルアップが重なっただけで・・」


 「だったら黒蜘蛛との戦闘で、スタッチだけ見せ場が無かったとか?」

 「おい、今度は俺かよ!他のときに頑張ってたから良いだろうが!」


 「あれだろう、ビビアンが倒れてから、相棒が心配しすぎて、使い物にならなくなった件?」

 「それは・・すまん・・」

 「え?それ聞いてないけど?」


 「どれも違います・・」

 こめかみを指で揉みながら、受付嬢は嘆息した。


 「まず、依頼は偵察だったのに、蜘蛛のコロニーを迎撃した事です・・」

 「だって、ほっといたら、この村だってヤバそうだったのよ!」

 「勝てたから良かったですが、全滅していたら情報もなく大氾濫を迎えることになったのですよ?」

 「それは・・そうかもだけど・・」


 「次に、防ぎ切ったら直ぐに報告に戻らなかった事・・」

 「しかし、ビビアンの意識が戻っていない以上、無理は出来なかった・・」

 「それでも、スタッチさんぐらいは連絡によこせたはずです」

 「それは確かに思いつかなかったさね・・」

 「おいおい、俺だけ一人でお使いかよ」


 「最後に、ボーンサーペントの装備です・・」

 「何かまずいか?まさかギルドで没収しようとか画策してるんじゃねえよな?」

 「魅力的な提案ですが、正当な権利で所有しているものを没収したりは、しません」

 「いやいや、アンタならやりそうだぜ」

 スタッチの意見に他の3人も頷いた。


 「・・そうしても良いんですよ・・」

 「いえ、遠慮します」x4


 

 「問題は、貴方方の装備を見て、どうやって手に入れたか煩く尋ねてくる同業者が居るであろう事です・・」

 「正直に話したら・・まずいんだろうなあ」

 「まだ、大分残ってたみたいだしね」

 その会話を聞いて、受付嬢の指がピクっと動いたが、それに気づいたのはハスキーだけだった。


 「・・止めといた方がいいぞ、いつまでも身包み剥いで追い出すだけで、済むとは限らないんだからな・・」

 「・・そうですね、貴方方から言われると、言葉の重さが違います」

 彼女は、素材の回収依頼を頭の中から追い払うと、話を続けた。


 「一人が持っている分には、上手く入手したで済むでしょうけれども、パーティー全員が装備しているとなると、確実に疑われます」

 「だろうな・・」

 「最初は出処を聞かれ、次に安値で譲れと脅され、最後に実力行使ですか・・」

 「おいおい、物騒な話しをしないでくれよな」


 「実力と名声があれば、そんな輩も手出しをしてこないでしょうが、貴方方は中途半端なのです・・」

 「実力はあると思うさね」

 「ですが名声がドン底です」

 4人はグウの音も出なかった・・


 「『酒場の亡霊』が一攫千金に成功したという噂が流れれば、お零れに与ろうとする亡者が集うこと間違いなしですね」

 「蜘蛛の糸じゃあるまいし、そんな連中は蹴落としてやるわ」

 「後から後から湧いてきますよ・・」

 「じゃあ、どうすれば良いのよ?!言っとくけど、ギルドに定価で売れとか無しなんだからね!」


 「そうですね・・やはりギルドの依頼の報酬ということにするのが一番でしょうか・・」

 「つまり、有象無象をギルドが捌いてくれるわけだ」

 「貴方方には、とにかくこれはギルドから報酬としてもらったの一点張りで通してもらいます。正当な方法で入手したい冒険者は、ギルドに申請するでしょうし、強硬手段に訴えようとする者も、ギルドの報酬では迂闊に売買も出来ないから二の足を踏むかと思われます」


 「悪くないけど、本気で報酬目当てで依頼を受けたい冒険者がでたら、どうする気なの?」

 「無論、受けてもらいますよ、ボーンサーペントの討伐依頼を・・」

 「鬼だ・・」x4


 確かにボーンサーペントを倒せればその素材は手に入る。しかし普通なら、水中に潜む強大なアンデッドである、それを倒すのに、素材を使った武具や魔道具が必要になるのだ。

 地上に逃げ出したのを、仕留められた今回が幸運だっただけである・・・


 「ダンジョンマスターと交流がある事は、可能な限り隠しておく方が賢明でしょう。ヘタをすると暗黒邪神教団から目をつけられる危険もありますので・・」

 「あいつらか・・」x4


 彼らの執着心の恐ろしさは、身にしみている4人であった・・・




 「それで、俺らがウロウロして山羊を買い集めるのは目立つから、親父さんに相談しろと言われたんだが・・」

 4人組は、やっとギルドから開放されて、馴染みの酒場の主人に家畜の購入の相談をしていた。


 「また、面倒事に巻き込まれてるのかよ」

 「俺らはそんなつもりは、全くないんだけどな・・」

 「そうでなくて、アイツが、お前らを寄越す理由がないんだよ」


 酒場の主人は、皿を洗いながら文句を言った。

 隣で、洗い上がった皿を渡されたハスキーが、布巾で水を拭き取っている。

 「すまない、親父さんしか頼れる相手が居ないんだ・・」

 「ちぇ、しょうがねえなあ・・」


 ハスキーから渡された皿を、ソニアとビビアンが棚に並べていく。

 ビビアン一人では、高い棚に手が届かないからである。


 「でも酒場のマスターとギルドの受付嬢が知り合いだとは思わなかったわよ」

 「それはアタシも不思議に思ったさね」

 「この村の古参連中は、大抵昔馴染みさ・・」


 床を箒で掃いていたスタッチが、尋ねた。

 「それで、親父さんの伝手で山羊と羊は買えるんだろうな?」

 「ああ、筍の里にも昔馴染みがいるからな、今の時期でも何とかなるだろうよ」

 「流石、親父さんだぜ」

 「褒めても、何も出ねえぞ」

 「ちぇ」


 「それで、俺からも頼みたい事があるんだけどよ・・」

 「へえ、珍しいね、マスターからの依頼かい?」

 「依頼ってほどじゃねえが、枝豆の買い付けを頼みたいんだ・・」

 4人の動きがピタリと止まった。


 それに気がつかない振りをしながら、酒場のマスターは話を続けた。

 「なんでも、この近くに、枝豆を栽培している村があるらしくてな。珍しいから酒の肴に喜ばれるんだよ」

 「へえーー」x4

 「冬になる前に大量に仕入れときたいんで、心当たりがあったら、買い込んでくれよ」


 「値段はいくらでも良いのかい?」

 「まあ、大麦の倍ぐらいまでは出してもいいな」

 「量は・・まあアタシらが運べるぐらいは買い取れるか・・」

 「そういうこった。荷馬車を使うほどは売ってくれないだろうからな」

 「手付金はもらえるのかい?」

 「山羊を売った金で立て替えておいてくれよ」


 「バレバレかよ・・」x4


 ダンジョンマスターと取引できることは、出来るだけ黙っておこうと誓った4人であった・・・




 


 

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