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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第10章 ドワーフキャラバン編
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ドリフトも出来ます

 ドワーフ達が、「荷車」と呼んでいる移動車両は、外部兵装が付いていないだけで、車体は頑丈な装甲で覆われた鉄の箱である。

 それに板バネを利用したサスペンションのついた、左右8輪、合計16輪の車輪が備わっている。車輪にはゴム製のタイヤの代わりに、接地する部分には、なめした大蛙の舌が巻きつけてあった。空気圧のクッションがない分、振動がダイレクトに荷台に伝わるが、パンクの心配はない。

 

 移動車両を牽引しているのは、大型のアルマジロで、1頭で1台をなんなく牽いている。細い鎖を束ねた丈夫なチェーンが6本、首や脇腹に締められたハーネスと荷台を繋げていた。

 御者台はなく、荷台の内部から、前面と側面に開いた四つの横長のスリットから、外部を視認しながら御する構造になっていた。


 先頭の車両には、開拓団の団長である、モリブデンとその家族が乗っていて、屋根に腰掛けたワタリと頻繁に情報交換しながら、道無き道を突き進んでいた。


 「道が無いと言っても、通り易い場所は、来るときにチェックしてきたっすよ」

 「助かるぜ、いくら荷車が荒地踏破能力が高いといっても、極端な段差や、深い川は通過できないからな」

 「速度はこれが限界っすか?」

 「まだ上げられるが、道の状態とアルマジロのスタミナを考えると、これぐらいが巡航速度としてはギリギリってとこだな」

 荒野を馬車もどきで強引に走破していると考えれば、十分な速度を保って、キャラバンは移動しているが、第二補給拠点を救援に行きたいワタリ達には、もどかしい速さでもあった・・・


 「この速度だと、やはり1日はかかるっすね・・出発で、もたついたことを含めると、間に合わないかも知れないっす・・」

 焦るワタリの元へ、待望の遠話が届いた。


 『とぅっとぅるー』

 「ういっす、こちらワタリっす。9台のキャラバンを組んで南下中っすよ」

 『・・こちら司令部・・移動始めたんだね。当初は12台って話じゃなかった?』

 「申し訳ないっす。説得に失敗して3台は開拓村跡地に残ったっすよ・・」

 『・・なら仕方ないか、移住は強制じゃないからね・・状況をもう少し詳しく聞きたいかな・・』

 ワタリは素早く、今までに起きたことを遠話で伝えた。


 「・・というわけで、水晶蜘蛛は全部向こうの警備に残してきたっす」

 『その判断で問題ないよ。第二補給拠点は、最初の襲撃を撃退して、今は睨み合いの状態らしい。蜘蛛を指揮するダークライダーの個体がいるって話だよ』

 「なんすか?その闇堕ちした正義の味方みたいな奴は?」

 確かに、そう言われると、色違いのマフラーをしてそうだよね・・


 『上半身がダークエルフの蜘蛛の魔族だと思って。呪文使うタイプならかなり手強いよ』

 「また、やっかいっすね・・・なら、そいつを倒せば蜘蛛は無力化するっすか?」

 『どうだろう・・系統だった戦術は取れなくなるだろうけど、本能で襲っては来るかも・・』

 「了解っす、優先的に狙えればって感じすかね」

 『そんな感じでよろしく』

 「ういーっす」


 司令部と連絡が取れて、気が楽になったワタリは、運転席のモリブデンに叫んだ。

 「このまま一気に合流するっすよ!」

 「まかせとけ、シンザン、全速だ!」

 手綱(鎖だが)で叩かれたアルマジロが、猛然とスピードを上げ始める。


 そうなると移動車両の揺れも激しいものになり、屋根のワタリは必死にしがみ付きながら叫んだ。

 「速過ぎ!速過ぎっす、もう少しゆっくりで!」

 

 キャラバンの激走は続いていった・・・




  その頃、ナーガ族の隠し里では


 レッドバック・ウィドウの襲撃をなんとか防ぎきって、休息をとっていた。

 この里に押し寄せた蜘蛛の集団には、指揮官がおらず、闇雲に押し寄せるだけだったのが幸いしたが、途中で諦めることを知らない蜘蛛の大群に、防衛隊は疲労困憊であった。


 「なんとか、凌げたようだな」

 「もう無理、もう弓ひけない」

 「こちらも魔力が空に近い、連戦は無理だな・・」

 「偵察に梟を飛ばしたけど、周囲に蜘蛛の気配はないよ」

 「終わらないかと思ったぜ、まったく次から次へと・・」

 「・・もう蜘蛛はいい・・鱗で癒されたい・・」


 広場で休憩する六つ子の周囲では、ナーガ族の村人が、蜘蛛の死骸の撤去や、バリケードの補強を始めている。

 「蜘蛛の死骸に近づくときは、完全に死亡しているのを確かめてからにするように!戦士が止めを刺したのから、運びだしてくれ、シュー」

 「ここは資材が足りないですね、持って来ましょう、シュルシュル」

 「怪我をした人は残ってませんか?いたら診療所にすぐ来てくださいね」

 ナーガ族の戦士達は、まだ精力的に働いていた。防衛戦では、さほど役に立てなかったので、事後処理ぐらいは、と張り切っているらしい。


 兎に角、レッドバック・ウィドウが蜘蛛にしては外殻が硬く、ナーガ族の戦士ではほとんど効果的な攻撃は出来なかったのである。なので防御に徹してもらって、六つ子の攻撃魔法で倒すという方法で、50体近くを屠ったのことになる。魔力が欠乏するのも仕方の無いことだろう・・

 戦闘の後半では、複数の箇所で同時にバリケードが突破されそうになり、六つ子が慌てて走り回る事態に陥った。かなりギリギリの戦いであったのだ。


 へたり込む六つ子の元に、負傷者の手当てを終えた村長のベラが慰労にやってきた。

 「おかげさまで、里を護ることができました。心から感謝いたします」

 頭を下げるベラとお付の二人に、六つ子達は慌てて答えた。


 「いえ、我々だけの力ではありません。村人の皆が頑張った結果ですよ」

 「そうそう、前衛を努めていただいて助かりました」

 「負傷した方は大丈夫そうですか?」

 「それに、まだ終わっていないかも知れない・・」

 「おい、不吉なことを言うなよ」

 「いや、これが大氾濫の前触れなら、次があることも覚悟しておく必要がある・・」


 その言葉を聞いて、ベラの表情が曇った。

 「やはり、まだ来ますでしょうか・・」

 難しい顔をしたリーダーが頷いた。


 「ここは、かなり黒衣の沼から離れています。なのでもう来ないかも知れませんが、途中に獲物がいなければ、やがてはここまで足を運ぶ気もしますね・・」


 六つ子のリーダーは、大氾濫は異常繁殖したレッドバック・ウィドウの、集団暴走だと思っていた。何らかの理由で、増えすぎた種が餌を捜して溢れ出すのは、たまに起こり得る現象である。

 良く知られているのは、鼠や蟻、蝗やムカデなどで、下手をすると大きめ街ぐらいを平気で飲み込んでしまうことも過去にはあった。

 これで終わったと、油断するには早すぎる・・・


 「しかし皆様の魔力も枯渇した様子ですし、同じ規模の襲撃があったら・・」

 「再襲撃があるとしても、しばらくは時間が空くはずです。その間に魔力も回復するでしょうし、外部からの援軍も来てくれるかも知れません」

 「その、できれば魔力を回復する薬草とかポーションとかありませんか?」

 だめもとで聞いて見たのだが、予想に反して肯定的な返事がかえってきた。


 「有るにはあるのですが・・・」

 「何か問題が?」

 「人族には副作用があるとか・・」

 しばらく悩んでいたベラが、そっと教えてくれた。


 「実は、主な薬効は、精力増強なのです・・魔力はそのついでに少し回復するものでして・・」

 六つ子は、お互いに顔を見合わせた。

 「なるほど・・それは色々難しいですね・・」

 「微妙かな・・できれば遠慮したいかも」

 「ドルイドとしては薬草学的に少し興味はあるのですけど・・」

 「何言ってるんだ、里の危機なんだぞ、ここは飲むべきだ!」

 「だよね、俺も試してみてもいいかなーと」

 「・・ください・・」


 後半の3人は、若干、目的が違ってきているようであった・・・




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