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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
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良い仕事してますねー

 「ちょっと店長、新しいが入店したってハガキに書いてあったんだけど、まだなの?」

 親方と、まーぼーを両脇に抱えながら、エールを飲むマリアが、注文をしてきた・・


 「あー、少々お待ちを・・チーフマネージャーのコア、準備できてる?」

 『こくこく』

 「お待たせしました、最初はシャドウ・ウルフのチョビ嬢です」

 すると仮想空間の扉を抜けて、チョビが姿を現した・・


 「おーー、すごいつや消しの黒ね、光を反射して位置を探られないようになってるんだ・・手触りは・・ビロードのようね・・狼というより黒豹に近いかも・・・」

 首筋から背中のラインが気に入ったようで、なんども撫で下ろしている。


 「次はアイスストームタスカーのアグー嬢です」

 「へーー、ゴブリン・タスクライダーは蒐集したけど、実際には運用しなかったから、その騎乗用のタスカーも見たことなかったわ・・ボン、これうちも導入しましょう」

 『ああ、機動力という点ではかなり良さそうだな・・でもウルフライダーはいいのか?』

 「もちろん両方作るに決まっているでしょ、もうゴブリン縛りは無くなったんだからね!」


 そうなんだよね、図鑑のコンプリート・ボーナスで得られる称号は、一切の前提条件を無視できるらしいから、次の所有者がコンプするまで、マリアは何を眷属にしても「ゴブリン使い」の称号を失うことはないらしい。ちょっとだけ羨ましい・・

 「モンスター図鑑って、ガチャ以外では手に入らないんですかね?」


 「ダンジョンマスター交流会のオークションで、見たことあるけど・・はっきり言って、馬鹿高かったわよ」

 『あれは確か、マーマン(人魚族)図鑑だったかな・・手に入れたダンジョンマスターが山岳地帯の支配者で、さすがに使わないからといって出品したはずだ・・値段は、まあ聞かない方がいいよ・・』


 出品者には使い勝手が悪くても、海洋ダンジョンのマスターなら垂涎の品だろうしね・・オークションなら相当値段がせり上がっただろうね・・


 「さすがに剛毛ね・・しかも後方に衝撃を受け流す方向に毛が流れているわ・・正面から槍や角で突かれたときに、効果を発揮しそうね・・」

 そう言いながら、脇腹を後方へすべらせるように梳いている。


 「それだけではないぞ、タスカーは元々茶色い体毛をしているが、アグーはすでに灰褐色に抜け替わっているのだ。より氷原に適応した進化を遂げているのだ・・」

 隣で穴熊のやんまーを仰向けにして腹を撫で回していたロザリオが、マリアのモフモフ解説に口を挟んできた。


 「ふーーん、スケルトン・ウォーリアーにしては、勉強してるじゃない」

 「私はエターナル・ガーディアンだ。間違えないでいただきたい」

 「どこが違うのかアタシには区別が付かないんだけど」

 「ハリネズミとヤマアラシほどに違うのだ」

 「へー、アナグマとアライグマかと思った」

 「そんなには違わない!」


 ・・モフラーの話はよくわからないんだけど・・

 『もふもふ』

 『・・すまないが、次に行ってくれないか・・』

 あ、了解です。


 「さあ、最後は大物ゲストの登場です!東の大森林から遥々やってきた、グレイシャル・ベアのポチ君です」

 仮想ルームの扉が小さかったので、拡大してもらってなんとか通過できた。


 「これは・・グレイシャル・ベアの中でも巨大な個体ね・・流石の迫力だわ・・」

 『確かにこれはデカいな・・』

 呆気にとられているマリアとボンを、ロザリオが優越感に浸りながら解説をし始めた。


 「ポチは私の父の乗騎で、この地域の氷河熊の中でも最大を誇っているのだ」

 ついこの間、父親から教わった事を、さも周知だったように語るロザリオであった。


 「へーー、それにしては、ふてぶてしくアンタの肩に前足を乗せてるんだけど?」

 ポチは餌の催促をしているようだ。

 「こ、これは親愛の証なのだ、私とポチは戦友なんだからな、な?」

 振り向くロザリオに、ポチは「それはそれ」というように首を振った。


 「主殿、ポチが腹を減らしているようだ・・いつもの鹿肉をお願いできるだろうか?」

 その言葉を聞いて、マリアがニヤリと笑みを浮かべた。

 「あら、ならアタシが奢ってあげるわよ、ボン、例の肉を出してあげて」

 『ああ、あれか、了解した』


 そして目の前に出現したのは、アザラシの肉が丸ごと10体分であった。

 それを見たポチは、大喜びで頭から齧り始めた。

 「やっぱり氷河熊の好物と言ったら、アザラシよね・・グレイシャル・ゴブリンが郷土料理を作るのに使うからリストにあったんだけど、喜んでもらえてよかったわ、ニヤリ」


 「ポ、ポチ、知らない人から餌をもらってはダメなんだぞ・・」

 ロザリオが諌めるが、アザラシに夢中のポチは聞いていなかった。

 10体をペロリと平らげたポチは、お礼のつもりなのか、マリアの顔を舌で舐め回した。

 

 「あはは、くすぐったいってば、こら、止めなさいって、あはは」

 楽しげに触れ合うマリアとポチを見て、ロザリオが敗北感に打ちひしがれていた・・・

 「我家のポチが寝取られた・・」


 『すまないが、人聞きの悪い言い方はやめてくれないか・・』



 ポチの背中に乗せてもらって、ご機嫌のマリアは置いておいて、ボンさんと今後の事について打ち合わせをしておこう・・

 「本当に、報酬はいらないんですか?」

 『ああ、マスターも気晴らしが出来たし、何よりゴブリン図鑑が完成したのが大きい・・十分、見返りはあったさ・・』


 こちらとしては、私事に巻き込んだ負い目があるので、報酬の要求があれば、ある程度はうける気で居たのだけれど・・

 『なに、俺らが困ったときに、手を貸してくれれば問題ないさ・・こういうのはお互い様だ・・』


 というわけで、ありがたく借りにしておいてもらった。

 マリアが困ることなんて、あるとは思えないんだけどね・・


 『困るのは俺の役目だしな・・』



 そして早急の問題として、ドワーフの移住があげられる。

 今回のダンジョンバトルで、僕らが勝利したことにより、双子に占領されたクランから、希望者は移住できることになった。

 アエンの話では、ドワーフ達は氷炎の魔女とは犬猿の仲で、争いが絶えなかったらしい。だとすれば、殆どの捕虜となったドワーフは、こちらに移住を希望するだろう・・・

 まあ、どこにでも頑固者は居るだろうから、先祖伝来の地から梃子でも動かないと主張するドワーフも少なからず居る可能性はあった。それでも、百数十人規模の移住が行われるはずだ。


 それらを、うちのダンジョンとマリアのダンジョンと、「小竜会」で引き受けることになる。

 「小竜会」には、「不凍湖の龍」に炉を開くことになった、タングステンさんを旗印に、ダンジョンを嫌うドワーフを率いてもらう。

 マリアには、うちで吸収しきれないドワーフの面倒を見てもらう予定だ。

 3等分でも50人を越えるだろうから、うちのダンジョンも拡張が必要になるのは間違いない・・


 『うちで預かるといっても、ゴブリンメインのダンジョンだからな・・』

 やはり、この世界でもドワーフとゴブリンは仲が悪いらしい。それを嫌って、マリアの方に行くのを嫌がるドワーフも多そうだった・・

 『まあ、比率はそのときになったら考えよう・・』


 そう結論が出た頃合に、マリアが口を挟んできた・・


 「ねえ、ボン、この氷河熊持って帰るから」

 『だから、勝手に人の物を欲しがるなとあれだけ・・』

 「なによ、ポチだってアザラシ食べ放題の、うちが良いに決まってるじゃない!」

 『テイムされた魔獣を引き抜けるわけがないだろ・・』


 スノーホワイト家から睨まれるので、止めてください・・

 「ちぇっ、ならあと5周よ、ポチ!」

 「ガウガウ」


 すっかり、あのポチを手懐けてしまっていた・・

 「マリア・・怖ろしい子・・」







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