さよならは人形で
投稿が大変遅くなりました。申し訳ございません。
「それでは、対・氷炎の魔女戦の勝利を祝して・・乾杯!」
「「乾杯!!」」
『ちあーず』
「管理人さん」の作り出した仮想ルームで、宴会が始まった。参加しているのは、僕とコア、それに防衛に召喚された6体と、マリアにボンさん、ゴブシロードとゴブタロウだ。
あと「管理人さん」・・
『あらあら、私は邪魔者ですか?』
「いえ、そうじゃないですけど・・・双子姉妹は帰ったのに、なぜいらっしゃるのかなと・・」
そう、氷炎の双子姉妹は、結局、こちらには顔を出さなかった・・
一組の操り人形だけを残して・・
その赤と青のいドレスを着た姉妹の人形は、見えない糸に操られたかのように、動き出すと、双子のメッセージを人形劇にして披露した。
「かしらかしらご存知かしら?」
「かしらかしら本当かしら?」
「氷炎の魔女が負けたそうですわ」
「あらあら何かの間違いではなくて?」
「でもでも怖いお姉さんが、『お前達の負けだああ』って怒鳴っていたです」
「・・相変わらず怖いもの知らずね、貴女・・」
「宴会にお呼ばれしたのに帰るですか?」
「敵に塩を送られて、ほいほい喜んだらダメよ」
「でもでも、食べたことの無いメニューが出るかもですよ?」
「馴れ合っても良いことはありません・・」
「そんなんだから、姉さんはボッチ飯が似合う女、No.1に選ばれるですよ・・」
ジョキン!
赤いドレスの人形の首が切り落とされた・・
糸が切れたように崩れ落ちる赤い人形の横で、大きな鋏を抱えた青い人形が何事もなかったかのように淑女の礼をしてきた。
「今回は勝ちを譲ってあげましたが、もし次の機会があれば容赦はしません・・それでは皆様、御機嫌よう・・」
そういって青い人形も床に崩れ落ちたのだった・・・
「ふん、器のちっちゃい姉妹よね・・バトルが終わったら、勝ったほうが得た報酬で食事を振る舞い、それを負けた方が食べることで、遺恨を残さないのが礼儀ってものでしょうに」
『そうだったか?以前に負けたときは、「少しでも元を取る」と言ってドカ喰いしていたような・・』
「ボン・・ここに人形の首切り鋏が落ちているんだけど・・」
『・・というわけで、宴会には敵方も大抵参加するんだ』
双子姉妹は、まだドワーフの捕獲を諦めていないのだろうか・・
「それはないわね・・負けたことには不満でも、バトル委員会の裁定を破るとは思えないわ。いくらあの二人でもそこまで馬鹿じゃないでしょうよ・・」
『それを破るということは、他の全てのダンジョンマスターに喧嘩を売っているようなものだから・・』
なるほど、お互いが抑止力になっているわけだ・・
「ダンジョンマスター同士が懇親会で集まったときに、『本当なら自分達の勝ちだった』とか『勝ちを譲ってやった』とか言い募るかもしれないけどね」
『経験者の貴重な情報だ・・』
「なによ、私はそんなせこい真似はしないわよ!・・ただ、『負けてもモフモフに触れ合えるなら、勝ったも同然』とは言ったけど・・」
言ったんかい!
「と、兎に角、慰労の宴会は、飲み食いしまくるのが礼儀ってことよ! ちょっと店長、お酒が足りないわよ!もっとジャンジャンお替り!」
『おいおい、あまり飲みすぎるなよ・・』
マリアも勝った側なんだけど、当然の様にタダ飯タダ酒のつもりらしい・・・
「なによ、文句あるの?私の助っ人で処理したのよ、これぐらい奢ってくれてもバチは当たらないわよね?」
『おいおい、こちらもメリットのある話だっただろ・・』
「そりゃあ確かにゴブリン図鑑はコンプリートできたけどさ・・」
インターバルの回想・・
「というわけで、アタシに内緒でレア進化させたスノーゴブリンを引き渡してもらいましょうか」
『いやいや、マスターが図鑑を所有してるだけで、レア進化に許可が必要なわけじゃないからな?』
「ボンは黙ってて!」
『お、おう・・』
「そうは言われても、ワタリはうちの大事なメンバーですし、今、ここに新しい召喚をするわけにもいかないと思いますが・・」
「大丈夫よ、モンスター図鑑は、該当するリストを所有しているダンジョンマスターまたはダンジョンコアが接触してコストを払えば、ゲットしたことになるから」
それなら問題ないかな・・
『うちのマスターの我が侭に付き合わせて悪いな・・』
「いえ、もう慣れました・・」
『・・慣れたら負けだぞ・・・ブック!』
そう呟きながら、ボンさんが手元に怪しげな魔道書を呼び出した。
『これに触れながら、該当する召喚リストを思い浮かべて、コストを消費してみてくれ・・最初はランクの低い方から試してみよう・・』
「試してみよう、って、実際にこの方法でやりとりしたことないんですか?」
「大丈夫、大丈夫、痛くないから、すぐ済むから」
マリアが適当な事を言っているけど、前例がないと何が起きるかわからないはずなんだけれど・・
『だいじょうぶ』
それまで無言だったコアが、そう言って、魔道書の表紙に手を載せた。
『さんぷる』
そう呟くと、魔道書が淡く光った・・
『さんぷる』
もう一度呟くと、魔道書も淡く光ったあとに・・突然、表紙に描かれた魔法陣が、拡大投影されてゆっくりと回転を始めた・・
「きたきたきた!」
『何かが召喚されるぞ!』
魔道書から投影された魔法陣の中央に、人の背丈ぐらいの何かが姿を現した・・
「ゴブリンね・・」
「ゴブリンですね・・」
『ゴブリンだな・・』
『ごぶごぶ』
魔法陣から現れたのは、なんの変哲もない、普通のゴブリンだった・・
「ボンと話が合いそうね」
『それはどういう意味だ?マスター』
するとそのゴブリンが話しだした・・
「おめでとうございます。この度はモンスター図鑑『ゴブリン』をコンプリートしていただき、誠にありがとうございました」
なんか、生命保険が満期になったっぽいな・・
「オーナー様には無条件で『ゴブリン使い』と『ゴブリン博士』の称号を差し上げます。この称号は、次のオーナーがコンプリートを達成するまで、貴女のものですので、ご安心ください」
なるほど、継承システムに近いんだ・・
「なお、このモンスター図鑑『ゴブリン』は、新たなオーナーを求めて放浪の旅に出ますが、コンプリートした時点でのリストは召喚リストとして残りますのでご安心ください。それでは5年に渡るご愛顧に感謝しつつ、お別れしたいと思います・・」
そう言ってゴブリンが、頭を下げると、魔法陣ごと魔道書に急速に吸い込まれていった。
そして魔道書は光の粒子に変わっていき、やがて跡形も無く消え去ってしまった・・
「よっしゃ、称号ゲットよ!」
マリアが嬉しそうにガッツポーズをしている。
『これでエンペラーが呼び出せるな・・』
「ふふふふ、見てなさいよ、冷熱姉妹、ゴブリンマスターの恐ろしさ、その身に刻み込んでやるからね・・」
「・・どう見てもこっちが悪役なんですけど・・」
『・・否定はしない・・』
『・・あくじょ・・』
「ここからは、ずっとアタシのターンなんだからね!」




