モフモフの為の楽園
フリージア侵攻部隊(残機1/補給0)VS モフモフ防衛隊(残機2/補給21)
「マーガス、応答しなさい、マーガス!」
『バイタル反応は微弱・・まだロストしていません』
岩石砲弾の罠が発動したことにより、敵味方もろとも転落していったサラマンダー・マーガスが、倒されたらその時点でこちらの勝利は消える・・
祈るように念話を飛ばすと、弱々しい反応が返ってきた。
『マスター・・聞えますか・・マスター・・』
「聞えます、マーガス、現状の確認を・・」
『・・・どうやらシャフトの底まで引きずられたようです・・傍に倒れているファイアー・ドレイクの粒子化が始まっています・・』
「敵のグレイシャル・ベアはどうなりましたか?」
『・・・見当たりません・・岩の下敷きになったアイスオークの死体が1つあるだけですね・・』
「アイスオーク?・・なんでしょうか・・その部屋のガーディアンが巻き込まれでもしたのか・・・」
『ああ、それも粒子化し始めました・・グレイシャル・ベアは私が気を失っている間に消えたものと思われます・・』
「・・居ないものに拘っても仕方ないですね・・その付近にサハギン・ウォーロックが持ち込んだ肉球を象った石版があるはずです・・捜してください・・」
『了解しました・・』
マーガスは、千切れた尾っぽを庇いながら、周囲の捜索を始めた。
あの落下の最中に、白熊に掴まれた尾を自らの手で切り落とすしか、難を逃れる術が無かったのだ・・
蜥蜴の尻尾と違い、サラマンダーの尾は簡単に切れたり、再生したりはしない・・人族で言えば、足首から先を切り落としたようなものだ。
そのダメージに加えて、シャフトを回転する岩石に背中を削られるようにして、長い距離を下ってきた。マーガスの全身はすでにボロボロであった・・
しばらくしてやっとそれらしき物を発見した。
『マスター、見つけました・・』
「そうですか、その部屋の奥にある扉を開ければ、敵のコアルームに通じているはずです。ですが・・たぶん最強のガーディアンが待ち構えていることでしょう・・・今の貴方では勝ち目は・・」
『ここまでたどり着いたのです、挑ませてください!せめて一矢でも報いなければ、散っていった仲間達に・・・』
敵のガーディアンと戦って負けたのなら諦めもつく・・だが、陰険なトラップで次々と葬られた仲間の無念は、せめて相手のダンジョンマスターに、嫌味の一言でも投げつけなければ収まらなかった・・
「いいでしょう・・どちらにせよ、貴方に託すしかないのですから・・たぶん、もうその先に罠はないでしょう・・・ないですよね?・・・そこまで念を入れて罠を張らないと信じていますよ!」
『マスター、誰に訴えているのですか?・・』
「いえ、戯言です・・・マーガス、頼みました・・」
『了解しました・・』
飛来した岩石によって、小さなクレーターが沢山できている地面を、ゆっくりと踏みしめながら、サラマンダー・マーガスは、最後と思われる荘厳な大理石の両開きの扉にたどり着いた。
「・・確かに、手を伸ばせば届く高さに、これがすっぽりと嵌りそうな肉球の形をした窪みがあるな・・」
マーガスは、石版をゆっくりと窪みに押し当てた・・
ゴゴゴゴ
遠くから聞える地鳴りのような音をたてながら、大理石の扉は手前にゆっくりと開いていく・・
ゴゴゴゴゴゴ
扉の奥には、通路が伸びているのが見える。そして地鳴りの音はさらに大きくなってきた・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「おかしい・・すでに扉は開ききっているのに、音が止まない・・」
それどころか、より大きな音と振動を伴って、近づいてくるようにも思えた・・
「まさか!!」
『マーガス!!』
二つの叫び声は、大部屋に飛び込んできた岩石砲弾の轟音にかき消されてしまった。
ドシュッ!ドシュッ!ドシュッ! ズズーーンx3 ゴロゴロゴロ ペキョ! ゴロゴロ
「・・・・・」
『・・マーガスのバイタル反応・・ロストしました・・』
「・・や・・」
『・・や?・・』
「やってられっかあああああ」
『お察しいたします・・』
『いえぃ』
「どうやら防ぎきったみたいだね・・」
『主殿・・?』
「あ、ロザリオもご苦労様」
『おつー』
『いえ、そうではなく・・私の出番は?・・』
「え?、ああ、うん・・なんだろう、その・・・そういう時もあるよね」
『まちぼうけ?』
『はは、やはりそうなのか・・これで終わりか・・はは・・』
「あの、ロザリオ?」
『やれやれだぜ』
コアが、今は一人にしておいてやりな、的なポーズをとっている・・・
・・そうだね。
「あとはマリアにお任せかな」
『まりまかー』
その頃、カレイドスコープのボス部屋では・・
「・・まだです、まだ負けたわけではないですよ・・」
『マスター、風前の灯です』
息を潜めてコアルームに篭る双子の妹がいた・・
「往生際が悪いわね・・ボン、まだ隠し扉は見つからないの?」
『ああ、エンペラーにはこの手の作業は向いていないから・・』
「なら、専門のゴブリンを呼べばいいじゃない」
『ところが、ブラフに使ったギガント・ゴブリンの召喚と、エンペラーの強化の為に追加で召喚したピグミー・ゴブリンで補給ポイントは使いきった・・』
「はあ?そこは節約してヘソクリを残すのがボンの役目でしょ?!」
『それはそうなんだが、シャーマンやオラクルまでサクリファイスしなくてもよかったんじゃないか?・・』
「あれは・・その、その場の勢いってものがあるじゃない・・」
『まあ、このまま時間切れでも、支配領域の数でこちらの判定勝ちだろうけどな・・』
「ダメよ、勝つからにはKOを狙うわ!」
『まあ、マスターならそう言うだろうけどな・・』
「ふっ、なんとでも言っていれば良いですよ。ここから姉さんの、驚き桃の木山椒魚の、びっくりドンキーなアレで、最後は大大逆転勝ちをするですです」
『妄想するのは自由ですが、あちらもコテンパみたいですよ』
「なんですと!」
妹が振り返ると、そこには真っ白な灰になった姉が立っていた・・足元に、大きなハリネズミを従えて・・
「え?え?姉さんの隠し子ですか?」
『そんなわけあるか!』x2
ツインコアのシンクロつっこみが炸裂した。
「でもでも、ここはセーフゾーンですから、敵勢力は入れないはずです?」
『侵入禁止ではないです。戦闘禁止なだけで』
「はあ、ならこのハリネズミはなんの用ですか?」
「キュキュ」
『ハリネズミではなくハリモグラだそうです』
「どっちでも良いですよ、似たようなもんですです」
「キュキュキュ!」
『そこのところは譲れないそうです』
「だったらどうするですか?この部屋では実力行使はできないですよ?ほら、ほら」
「キュキューー!!」
『モフモフ愛護協会に訴えるそうです・・・え?』
その時、同時に二つの方向から鬼が襲来した。
シャフトを光速の速さで駆け上ってきたロザリオと、
隠し扉をぶち破って秘密の通路を降りてきたマリアである。
「「モフモフを苛める悪い奴は、ここかああ!」」
『あらあら、ツインコアルームの占有により、モフラーチームの勝利です、うふふふ』




