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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
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ゴブリン皇帝

  マリア侵攻部隊(残機20/補給127)VS フレア防衛部隊(残機1/補給0)


 「さあ、オリジナル・ゴブリン・エンペラー・カスタムよ、ゆくがよい!」

 「矮小なる人族の命に従うは、我が誇りが許さねど、そなたが我輩の召喚主であるのもまた事実なり・・

致し方なし、ここは命に従い、彼の業火を纏いし多頭竜を屠るとしようぞ・・」


 「御託はいいから、とっとと行きなさい!」

 「・・任せろ・・」

 ゴブリン・エンペラーは、渋々といった風で、パイロ・ヒュドラに突撃していった。


 「我が名はゴブタロウ、ゴブリンを統べる者なり!」


 策も無く、正面から斬りかかって来るゴブリンに、呆れたように双子の妹が呟いた。

 「原型オリジナルなのに改良型カスタムとか、パチモン臭いです。パイドラちゃん、やっちゃってください」

 「ギシャーーー」x3


 パイロ・ヒュドラの首が3本ほど叫んで、ゴブリン・エンペラーを迎撃しようとした。


 「今よ!ゴブリン・ソーサラー」

 「行きます・・ファイアー・ウォール!」


 タイミングを計っていた、ゴブリン・ソーサラーが、ボス部屋の中のパイロ・ヒュドラを取り囲むように、天井まで届く炎の壁を張り巡らせた。


 「パイドラちゃんにファイアー・ウォールって、お馬鹿さんですか?」

 火炎属性竜のパイロ・ヒュドラに炎の壁が効果があるわけがなかった・・ダメージという面では・・


 『敵の狙いは視線の妨害と思われます』

 目の前に立ち上がった炎の壁により、突撃してくるエンペラーの姿がかき消されたのだ。

 ダメージがないことを理由に、3本の首は、その炎を突き破って、エンペラーを襲ったが、既にその場所には何もいなかった。


 「遅い、遅いわ!我輩はここである!」

 右に大きくステップしたエンペラーは、そのまま炎の壁を突き破り、ヒュドラの首に斬りつけた・・

 しかし・・


 キイィーーン


 甲高い金属音とともに、その剣が弾かれてしまった。


 「ぬう、我輩の一撃が通らぬだと・・げせぬ・・」


 それを見た妹が、盛大にはしゃぎたてた。

 「あれだけ、大袈裟な登場をしておいて、その程度の攻撃力ですか。出落ちキャラはとっとと退場するですよ!」


 さらに3本の首が参戦して襲ってくるが、エンペラーはそれらを炎の壁を目晦ましに使って、避けきった。

 「邪魔っけな壁ですです。イスカ、あれ消せないですか?」

 『無理ですね。他の壁なら物理攻撃力もしくは火炎属性ブレスで破壊できる可能性もありますが、ファイアー・ウォールだけは実体がありませんので』

 「なら術者を叩くです」

 『それは向こうも警戒していて、術者だけは廊下の角に隠れています』

 「なら解呪できる眷属を召喚するです」

 『補給ポイントがありません』


 「ならどうするですか?!」

 『あちらも打つ手がないのですから、このまま時間切れでよろしいのでは?』

 「そんな、姉さんみたいな姑息な戦法は・・」


 『フレア・・何が言いたいんですか?・・』

 「ひゃい!にゃんでもにゃいです!」


 その時、突然、パイロ・ヒュドラの首が1本、切り落とされた・・


 「なんですか?隠し技でも使ったですか?」

 『敵が、新たな武装を手に入れました』

 「どこから?」

 『そこに転がっていた剣を拾ったようです』


 エンペラーの右手には、ゴブシロードの残していった、聖剣が握られていた。

 「そなたの無念は我輩が晴らそう・・しばし借り受けるぞ!」

 セントカースベイルの攻撃力を加えたエンペラーの一撃は、確実にヒュドラの首を落としていった。


 「あれはロード専用だからほっといた奴ですです。なんでエンペラーが使えるですか?!」

 『皇帝は領主ロードの上位だからですかね』

 「ぐぬぬ・・でもでも切り落とせるからといって、パイドラちゃんを倒せるわけではないです!」

 『そのはずですが、徐々にヒュドラ本体にダメージが蓄積されています』

 「ど、どいうことですか?」


 ヒュドラというモンスターは、首と胴体ではダメージ判定が異なっており、首それぞれも独立している。1本の首に与えられたダメージが耐久力を越えると、その首は切り落とされ、新たな首が生えてくる。

 この再生力を無効化するには炎で焼くのが通例なのだが、パイロ・ヒュドラにはこの方法は通用しない。

なので、無限のHPがあるように思えるのだが・・


 『敵の一撃が、首を切り倒したあとの余剰ダメージを胴体に加えているようです』

 ヒュドラの首は、盾の意味も持っていた。再生する首が、攻撃を受けることで、胴体を護っていたのだ。

 つまり盾で受けたときと同じように、吸収しきれなかった分は、本体に届くことになる・・


 「でもでも、首で受けたら首と胴体で2回分の装甲値が引けるですよ?首を切り落とす分も考えたら・・えっと・・うんと・・・すごいダメージが必要なはずですです!」

 『計算をあきらめましたね、マスター』


 「と、とにかく、最初の一撃は傷さえ入らなかったに、剣を持ち替えただけで、こんなのおかしいです!」

 『聖剣の特殊能力という可能性もありますが、この場合はゴブリン・エンペラーの能力ということでしょう』


 そこへ、マリアの高笑いが聞えてきた。

 「やっと気が付いたようね。ゴブリン・エンペラーの真の強さは、キングの能力も兼ね備えているということよ!つまり同じエリアにゴブリンが居れば居るだけ攻撃力と防御力にボーナス修正が足されるのよ!」


 「すんごい、ずっこいですけど、この部屋に他のゴブリンなんていないですよね?!」

 『いえ、いますが?』

 「なんですと?」

 『先ほどから、ピグミー・ゴブリンが壁伝いに入り込んでいます』


 キャワキャワ言いながら、ご丁寧に暑さ凌ぎの氷を抱えて、ピグミー・ゴブリン達が壁際で観戦していた・・

 「・・なんで教えなかったですか?」

 『和むからです』


 「確かにミニチュアサイズのゴブリンは思ったより可愛いかったですが、それとこれとは別です!」

 『マスターとは分かり合えないようですね』

 「とにかく!部屋の中の雑魚ゴブリンをブレスで一掃するです!」


 その命令により、パイロ・ヒュドラの12本の首が一斉に鎌首を持ち上げて、ブレスの準備をした・・


 「来ると思ったわ!ゴブリン・エンペラーの特殊能力を発動!範囲内のすべてのゴブリンをサクリファイスしてエンペラーの攻撃力に変換!」

 「ついに我輩の空極奥義を使うときがきたか・・・この技を受けて滅ぼされることを光栄に思うがよいぞ! 奥義、皇帝の勅命!!」


 すると、効果範囲内にいたエンペラーを除くすべてのゴブリン種が、光の粒子となって宙に舞い上がり、皇帝の持つ聖剣へと吸い込まれていった。


 「なんかヤバイですです!パイドラちゃん、防御です!」

 しかし、ブレスの体制に移行していたパイロ・ヒュドラの首は、12本全てが頭上に掲げられて、胴体を護れる位置にはいなかった・・


 「ブレスの直前は胴体ががら空きになる・・・ゴブシロードが命をはって教えてくれたわ・・」

 『マスター、攻撃力が予測値を越えたぞ』

 

 「ゴブタロウ、蹂躙しなさい!」


 「奥義、双剣皇帝!!」


 左右の剣が十文字に煌き、パイロ・ヒュドラの胴体が、4つに切り裂かれた・・

 

 「パイドラちゃんがーーー」

 真紅の炎を吹き上げながら、粒子に変換されていくパイロ・ヒュドラを、双子の妹が泣きながら見送っていた。







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