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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
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地獄の釜が開く音

  フリージア侵攻部隊(残機3/補給0)


 「エルダーウォーロックは退避通路の前の床にグリース(潤滑)、マーガスはその横の扉にノックを!」

 「「承知」」

 ロック(施錠)で封じた扉を、すぐにノック(開錠)で開くと、中から獣が1頭飛び出してきた。


 『あれは、ツンドラ穴熊の進化系ですね・・それにしても大きい・・』

 その穴熊は、足元のグリース(潤滑)の呪文で滑りやすくなった床に足を踏み入れ、その場で転倒した。

 「ギュギュ?!」

 そしてあっという間にシャフトの下へ転がり落ちていく・・


 「ギュギューーー」

 途中から、自ら身体を丸めて縦回転していたような気もするが、目の錯覚だろう・・


 「あの速度なら墜落死しますね?」

 『シャフトの角度と長さを計算すると、耐えられるとは思えません』

 「次は出てきませんか・・」

 あわよくば2頭ぐらいと思ったが、そうは都合よくは行かないようだ・・


 「ならば、引き釣り出すまでです・・エルダーウォーロック、グリースの上をシャフトの上部へ駆け上がる、サハギンの幻影を出しなさい!」

 「承知・・・汝はうつつにはあらねど、仮初めの姿で惑わすものなり・・ファントム・イリュージョン!(亡霊の幻惑)」


 すると、サハギンの本物にそっくりな幻影が現れて、退避通路の前のシャフトを急ぎ足で駆け上がっていった。

 それを見た、穴熊の1頭が、思わず足止めしようと、飛び掛ってきた。


 しかし両腕で抱え込むように爪で攻撃した瞬間、幻影は消えうせ、バランスを崩した穴熊は、グリース(潤滑)によって転倒した。

 「ギュギュ?!」

 同じように転落するかと思われたとき、さらに1頭が退避通路から飛び出してきて、仲間の後ろ足をキャッチした。

 「ギュ!!」

 支えられた1頭は、自らの前足を正面の氷の壁に突き立ててバランスをとった。


 「・・見事に訓練されているな・・」

 『モフモフ同盟、侮れませんね』

 「しかし、訓練されていると野生にはない弱点もできる・・」

 『というと?』

 「マーガス、共通語でいいからサジェスション(示唆)してみろ」

 「承知・・・我が言葉に従え!『前転せよ』」


 『ギュ』

 「ギュギュ??」

 突然、後ろで支えてくれていた相棒が前転したので、もう1頭も巻き込まれて転倒してしまう。そしてその場所にはグリース(潤滑)が掛けてある・・


 「「ギュギュギューーー」」

 2頭仲良く転がり落ちていった・・


 「パイレーツを襲っていたのは3頭だけですね?」

 「はっ、目視できたのはそうです」

 フリージアの質問に、エルダーウォーロックが答えた。


 「なら、もうあの退避通路には何もいないでしょう・・すみませんが、もう一度行って、扉の鍵となる石版を持ち帰ってきて下さい・・」

 「我等はマスター様の忠実なるしもべなれば、なんなりとお申し付けくださいますよう・・」

 そう言って、エルダーウォーロックは、シャフトを登っていった。


 しばらくして、認証鍵となる肉球を象った石版を発見したらしく、誇らしげにシャフトを降りてきた・・


 そこへ・・・

 シャフトの上層部から、蹄の音も勇ましく、獣の大群が駆け下りて来た。


 「暴れ猪だ!!」


 マーガスが叫んだときには、エルダーウォーロックは、猪の波に飲み込まれて、シャフトの底へと転落していった。

 「シャハーーー」


 「うかつでした、まだ補給ポイントを温存していたとは!」

 『いえ、マスター、あれは術者による召喚呪文です!』

 「・・なるほど、獣使いが残っているということですか・・」


 『どうなさいますか?認証鍵は、底まで落下したと推測されますが・・』

 「鍵は扉を開けるときに拾えば良いのですから、まずは上層にいる術者の排除が先ですね・・」

 『了解しました』


 問題は、エルダーウォーロックが死亡すると、氷の壁が維持できなくなることだ。炎や氷の壁は、術者からの魔力の供給が停止すると、自然に消滅してしまう。

 壁がなくなれば、あのやっかいな罠が復活する可能性が高かった・・

 そして、もはや私には、次のウォーロックを呼び出す補給ポイントは存在しない。


 「速攻で決めます。氷の壁が消えた瞬間にファイアー・ドレイクはシャフトを登って、敵、術者の潜むエリアまで侵攻しなさい。場所が特定できたらマーガスが、空間転移で術者の背後から奇襲します」

 『了解しました。座標の特定の準備をします・・』


 『エルダーウォーロックの魔力供給が停止しました・・アイスウォール消失まで10秒・・』

 「ドレイクはファイアー・アーマーのスキルを発動、マーガスは落下防止の為のレビテート(浮遊)の呪文を自身にかけておきなさい・・」

 「フシャー」 「承知しました」


 『アイスウォール、消失』

 「ドレイク、行きなさい!」

 「フシャーー」


 氷の壁が消失したシャフトの中を、ファイアー・ドレイクは懸命に登っていった。

 それをテスラが、モニタリングしながらダンジョンの構造を把握していく・・

 『10m、20m、30m・・最上部に到達・・直上に直径3mの縦穴があります・・』

 「術者はその上でしょう・・ファイアー・ドレイクは縦穴を登攀したら術者を牽制しなさい。その隙にマーガスは転移を・・」

 『ファイアー・ドレイクが登攀に成功しました。部屋は9mx9mx3mの狭い造りで、床がすり鉢状にへこんで、縦穴に繋がっているようです。天井の隅にも穴が開いていますが、3mほどで行き止まりに見えると・・』

 「その狭さなら術者に逃げ場はありませんね・・ドレイクに制圧させなさい・・」


 『部屋に術者はいないようです・・そのかわりに・・白熊がいます・・』

 「は?」

 『中型のグレイシャル・ベアがファイアードレイクと戦闘に入りました・・』

 「操っている獣使いは?!」

 『周囲には見当たらないようです・・』

 「マスター、転移しますか?」

 「待ちなさい・・敵の術者が特定できないと、逆にマーガスが奇襲をうけます・・」

 「承知しました、待機します・・」


 「グレイシャル・ベアなら火炎属性には弱いはずです。ドレイクのファイアー・アーマーの反射ダメージで自滅するでしょう・・」

 しかし、予想に反してドレイクは押され気味だった。


 「フシャーー」

 「モフー」

 ファイアードレイクのブレス攻撃も、反射ダメージも、白熊には効果がないように見える。反対に、白熊の爪は確実にドレイクを削っていった。


 『敵、白熊には火炎耐性が付与されている模様、ドレイク、これ以上もちません!』

 「仕方ありませんね、マーガス、空間転移を!」

 「承知いたしました・・・ディメンジョン・ドア!」


 見事に目標の座標に転移したマーガスは、部屋の隅からドレイクを支援しようと、床に降り立った・・その時・・


 カチッ


 何かを踏んだ音がした・・


 「あ!」 「フシャー?」 「モフーー!?」


 頭上のどこかで、重たいものが落下する轟音と振動が響いてきた・・・





 

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