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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
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氷の人形

誤字の訂正と、姉の話し言葉を一部修正しました。

 『それでは、ダンジョンバトル後半戦を開始します。30分後に決着が着いていなければ、判定になるので、よろしくね、うふふ』


 「管理人さん」のアナウンスが流れて、ビルドバトルの後半戦が始まった。こちらは攻守の交代はしなかった。なぜならマリアが乗り乗りだったから・・・


 「いい、5分持たせて。仕込みにどうしてもそれだけかかるのよね。5分間ねばってくれれば、こっちの勝ちよ」

 『できるだけ素早く展開するが、向こうも速攻で押してくるはずだ。護りはまかせる・・』

 「ボン、行くわよ!」


 後半戦は、ボンさんも敵陣に乗り込むことになった。マリアとの連携を密にする為だそうだ。

 相手はきっと、攻守を入れ替えてくる・・

 ラスボスと思われるパイロ・ヒュドラの特性を生かすには、妹の「炎舞」が最適だろうし、こちらのシャフトダンジョンを攻略するには、姉のロジカルな戦術が必要なはずだ。


 「コア、シャフトに群体(蝗)を冷気耐性でカスタム召喚、各部屋に20ずつばら撒いて」

 「ん」

 「同じくシャフトに群体(蜜蜂)を火炎耐性でカスタム召喚、各部屋の天井に張りつけて」

 「ん」

 「ノーミンはシャフト上層部に待機。穴熊チームはノーミンから強化呪文をもらったら、例の場所へ移動して」

 「ん」 「了解しただ」 「「「ギュギュ」」」

 「ロザリオはシャフト下層部の扉の奥で待機。そこが最後の砦だから頼んだよ」

 「主殿、ここは猫の子一匹通さぬよ」

 『キュキュ?』

 「いや、親方は別だぞ、いつでも通行許可をだそう・・」

 『キュ』

 うん、猫の子は通れそうだね・・


 「コア、この部屋に群体(蝗)を冷気カスタムで召喚しておいて・・」

 「ほいな」

 「いやいや、主殿、敵は通さないぞ、敵は・・多分・・・きっと」

 「もちろん僕はロザリオを信じてるよ、僕はね・・」

 「そ、それでは誰が信じていないのだ?」

 「・・・ロザリオ自身かな・・・」



  同じ頃の双子姉妹の仮想コアルーム


 「では、ここは任せました」

 『御武運を』


 「姉さん、姉さん、こっちは時間稼ぎなんかしないで、全滅させちゃえば良いんですよね?」

 「・・ふぅ・・好きにしなさい、貴女には細かい作戦は無理でしょうから」

 『真理ですね』

 『イスカ、自重しなさい・・』


 いつもの軽い会話をしたあとで、私は仮想コアルームから眷属を引き連れて移動を開始した。

 すでに妹の偵察により、敵の防衛機構の大半は解析が済んでいた。そしてそれに対応できる眷属を召喚してある・・・あとは最短ルートで敵のコアルームを占有すれば良い。


 こちらの戦力は、妹の残したファイアー・ドレイクとサラマンダー・マーガスが1体ずつ。それにセーフゾーンで召喚した、サハギン・エルダーウォーロック(R7/490)とサハギン・パイレーツ(R4/160)だ。

 実は、ボス部屋のパイロ・ヒュドラにポイントを取られすぎて、私の補給ポイントも650しか残っていなかったのだ・・・妹に1000とか強請られても、渡せるはずもなかったのである・・


 「だが、ウォーロックとパイレーツの組み合わせで、このダンジョンの攻略は可能なはずです・・」

 『ですが、敵のガーディアンの残存戦力いかんによっては妨害される可能性もあります』

 「大丈夫、その為に、フレアを叱り付けてドレイクとマーガスは温存させたのだから・・」

 

 妹が無闇に突撃させて使い潰すより、私が最後の攻略に役立てた方が、効率が良い。

 防衛はパイロ・ヒュドラで十分なはずだ。妹とイスカの「炎舞」が加われば、あれを倒せる眷属はマリアにはいないはずだ。エンペラーは既に補給ポイントの関係で召喚できない・・

 ただし、こちらは大部屋6ヶ所と通路9ヶ所を占有されている状態だ。判定になれば勝つのは難しいだろう・・つまり敵の仮想コアルームの占有を果すしか、こちらに勝利はない。


 『マスター、例のシャフトへ通じる扉まで来ました』

 「よろしい、サハギン・パイレーツに罠を調べさせてから慎重に開けさせて・・」

 『はい、マスター』


 インターバルの間も、止まらずに岩石砲弾は転落を続けていたようだ。話に聞くのと、目の前で見るのとでは、なるほど迫力が違う・・

 だが、それは加速がついて高速回転しているからに過ぎない・・


 「サハギン・エルダーウォーロック、シャフトの中に上に向かってアイス・ウォールを張りなさい!」

 「承知しました・・・凍てつく氷海を統べし女王よ、その御力により敵を阻む壁を遣わしたまえ、アイス・ウォール!(氷の壁)」


 するとシャフトを縦割りにするように、中心線に沿って、高さ3m、長さ30m以上の氷の分厚い壁が出現した。

 その後、何度か、上部で重い物が氷の壁に衝突する音が響いてきたが、それ以降、岩石砲弾が転落してくることはなくなった・・


 「次は、特殊扉の鍵でしたね・・エルダーウォーロック、肉球を象った石版を、ロケート・オブジェクト(物品追跡)の呪文で探査しなさい」

 「承知しました・・私が直接、触れたり見たりしていないので、確率は下がりますが、よろしいですか?」

 「構いません、試す分にはMPしか掛かりませんから・・」

 「ごもっとも・・・我は捜す、失われた宝を、思い出の品を、鍵となる証を!ロケート・オブジェクト!(物品追跡)」


 すると幸運なことに反応があった。

 「マスター様、上部にそれらしき反応があります・・」

 「よろしい、パイレーツ、罠があるでしょうから慎重に調べながら取ってきなさい・・」

 「シャハシャハ」

 

 アイス・ウォールで半月形に分断されたシャフトの中を、パイレーツは器用に伝いながら、3つ上の退避通路まで登っていった。

 「シャハ・・・・」

 扉には罠はかかっていないが、鍵はかかっているようだ。しかしそれも岩石砲弾がこないなら普通に解除できた。


 奥にある二重扉にも罠はなく、鍵だけ開けて、パイレーツは進んでいく・・


 退避通路は、元々3マス直線通路を、2つの扉で塞いだだけの簡素な造りだ。中は石壁も張っていない、剥き出しの地面らしい・・

 そしてその通路の一番奥に、肉球を象った石版が・・山積みされていた・・・


 「うん?意味がわからないけど、翻訳のミスですか?」 

 『いえ、確かにパイレーツから、20個以上の肉球石版があると・・』

 「・・・嫌がらせでしょうか?」

 『この場合は、それが正しい認識かと・・』


 「仕方ありませんね・・エルダーウォーロックを現地に行かせて、呪文で精査するしか・・」

 そこまで考えたとき、テスラから警報が放たれた。


 『敵襲!パイレーツが戦闘中です!』

 「しまった!、必ず立ち寄る場所に網を張られていたようです!ファイアー・ドレイク・・はサイズ的に無理ですね・・エルダー・ウォーロックとサラマンダー・マーガスは救援に向かいなさい!」

 「承知!」 「了解した・・」


 2体が現場に着くと、既にパイレーツは満身創痍で、壁を突き破って襲い掛かってきた獣に伸し掛かられていた・・

 「あれは助からん、苦しまないように一思いにやってくれ!」

 サハギン・エルダーウォーロックの叫びとともに、サラマンダー・マーガスが、スキルを発動させる。


 「ファイアー・ボール!」

 狭い退避通路の中で炸裂した火炎弾は、サハギン・パイレーツもろとも、3体の獣を飲み込んだ・・・


 だがしかし、爆炎が収まったあとに現れた獣達は、まったくの無傷であった。

 「「「ギュギュ」」」

 「馬鹿な・・火炎耐性が付与されているのか・・」

 唖然とするマーガスに対して、新たな獲物を発見した獣達が、襲い掛かる・・


 そこに

 「・・・ロック!(施錠)」

 一撃で倒せなかった時のために、用意していた施錠の呪文で、エルダーウォーロックが退避通路の扉を封じた。

 ガツンガツンと何かがぶつかる音が響くが、魔法の鍵がかかった扉が開くことはなかった。


 「戻りなさい」

 2体を最初の通路まで呼び戻すと、テスラに尋ねた。

 「シャフトに対して『氷変』は使える?」

 『ダメです。このエリアの中に未だに敵が複数存在します。支配領域に置くことが出来ません』


 どうやらこちらの手の内も解析されているようだ・・・


 「どうやら5分で攻略は難しいようですね・・・貴方の実力を読み違えていたようです・・・」

 どこかでこちらを監視しているはずのルーキーに話かける・・


 「いいでしょう・・ここからは形振り構わずお相手いたしましょう・・アイスドールの名に掛けて・・」



 



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