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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
291/478

武士道とは

  マリア侵攻部隊(残機7+15留守番/1097)


 ボス部屋で待ち構えていたのは、12本の首を持つ、火炎属性のヒュドラであった。

 それは、ウネウネと首を動かしながら、侵入者を睥睨すると、一斉に踊りかかってきた。


 「ゴブシロード!」

 「御意!」

 圧倒的な殺意の奔流目掛けて、鬼の侍領主が、たった一人で立ち向かった。


 「ジャジャシャシャーー」x12

 「ウオオオオオ」


 正面から噛み付こうと延びてきた2本の首を、両手の刀と剣で迎撃する。

 「「ジャシャーー」」

 「奥義、交差法、弐連!」

 刀に弾かれた首は軌道をかえながら後方に位置する他の眷属に襲い掛かろうとするが、良く見ると、殆ど顎の下から切り落とされそうになっていた。


 「ぬう、一撃では切り落とせぬか・・」

 「問題ないわ、ゴブリン・アサシン、止めを!」

 「「ギャギャ!」」


 T字路の両脇から狭い射角を貫いて、クロスボウが放たれた。

 「「ジャギャーーー」」

 止めを刺された2本の首が、苦悶の声を上げながら床に力なく崩れ落ちた。


 「ジャジャシャーー!」x3

 怒り狂った3本の首が、鎌首を持ち上げたかと思うと、その口から炎の奔流を吐き出してきた。

 危険感知により、寸前で察知した鬼の侍領主は、咄嗟に脇へ避けようとして、思いとどまる・・


 「拙者が避ければ本陣が危うい・・」

 直線状に延びる炎の吐息に対して、盾となるべく仁王立ちに立ち塞がった。


 「ゴブ雪!!」

 「・・祖霊よ、かの戦人を炎から護りたまえ!ファイアー・レジスト(火炎耐性)!」

 マリアの指示がある前から詠唱を始めていたシャーマンが、ギリギリのタイミングで防御呪文を間に合わせた。


 「忝い!」

 パイロ・ヒュドラのブレスを3撃その身で受けきって、ゴブシロードはいまだ健在であった・・


 だが、しかし・・・


 床に崩れ落ちた2本の首が、見る間に萎びて黒い消し炭に変わると、パイロ・ヒュドラの本体から、新たな2本の首が再生したのである。


 「「ジャッシャー」」


 無限の再生力・・・これが不死身と呼ばれる所以であった・・


 「ボン!ヒュドラの再生はどうすれば止まるの!」

 『・・通常は炎で傷口を焼けば止まるんだが・・』

 炎の化身であるようなパイロ・ヒュドラにその手が通じるとも思えなかった。


 『へたすると火炎吸収されて、さらに元気になるだろうな・・』

 「なによそれ、ずるっこでしょう!」

 『だからこそ、パイロ・ヒュドラは不死身と呼ばれているんだよ・・』


 ブレスが効果が薄いと見て、ヒュドラは6本の首で鬼侍を蹂躙しようとした。

 六つの竜の口が、手足首胴を食い千切ろうと、うねりながら迫って来た・・


 「秘剣・・千本桜!!」


 ゴブシロードの両手から同時に旋風斬が放たれると、弾かれたように左右上下に通り過ぎたパイロ・ヒュドラの6本の首が、全て切り落とされて、床に落下した・・

 「やったわ!さすがゴブシロードね」


 マリアが褒めるのと、ゴブシロードが口から大量の血を吐き出すのが、重なった。


 良く見れば、ゴブシロードの手足や脇腹が、ヒュドラによって食い千切られていたのだ。


 「うそ・・・」

 「いかん、治癒が間に合わん・・・」


 「・・どうやら拙者はここまでのようでござる・・ゴフッ・・」

 「ゴブシロード、下がりなさい!!」

 

 しかし、既に両足に致命傷を負った侍領主には、その命令に従う事は出来なかった・・


 彼の眼前で、切り落とされた6本の首の再生を果した不死身のヒュドラが、12本全ての鎌首を持ち上げて、ブレスの斉射をしようとしていた・・


 「・・セントカースベイルよ・・我が主を護りたまえ・・ゴフッ・・」


 ゴブシロードが最後に左手の聖剣の力を解き放つと、後方の大理石の扉が、独りでに閉じた・・


 「ゴブシローーード!」

 マリアの叫びは、扉越しにさえ伝わる轟音と熱気に、かき消されてしまった・・・



 『・・ゴブシロードのバイタル反応・・・消失・・・』


 ボンの呟きと、ジャッジメントのアナウンスは、ほぼ同時だった・・



 『あらあら、これから10分間のインターバルに入ります・・』




  双子姉妹仮想コアルーム


 『敵、オーガー侍ロードの撃退を確認しました』

 「そう、ここまでは予定通りね・・」

 『その・・あちらを含めなければですが・・』


 二人の視線の先には、部屋の隅で体育座りをしながら、ぶつぶつと壁に話し掛けている妹がいた・・


 「・・フレアはいらない子なのです・・姉さんがいれば全部すんじゃうんです・・」


 「・・ちょっと言い過ぎたかしらね・・」

 『このままだと後半戦に支障をきたすかと・・』

 「・・イスカ、なんとかしてくれない?」

 『このままの方が静かで良いのでは?』

 「『いや、まずいでしょう・・』」


 『まったく世話の焼けるマスターですね・・・ではマスター・フリージア、例のセリフをお願いします』

 「え?あれをやるの?・・」

 『はい』


 「こほん・・かしら、かしら、ご存知かしら?・・」

 「ピクッ」

 『あ、少し反応しましたね・・』

 『次、どうぞ』

 「ええ?・・・こほん・・フ、フリージアだよ・・」

 「・・聞えないです・・」


 「フ、フリージアだよ!」

 「フレアだぜ!!」 

 「「二人合わせて!」」

 「「ファイアー&アイス・シスターズ!!」」


 『ざっとこんなものですよ』

 『イスカ・・』


 「姉さん、姉さん、充電完了ですです」

 「そうですか・・私は、今どっと疲れが出ましたが・・」

 「だったら、後半戦はフレアにお任せ、かせかせなのです」

 「そうできたら、楽なんですけどね・・後半戦は攻守を入れ替えます」


 「ええーー、フレア、あの陰険ルーキーにまだ仕返しが済んでないですー」

 「貴女の大好きなパイロ・ヒュドラを操れるとしてもですか?」

 「あ、パイドラちゃん、居るならそっちが良いですです」

 『なんてチョロイ』

 『イスカ、黙って・・』


 「貴女のお陰で、敵の防衛ダンジョンの攻略も目途が立ちましたし、あとは私に任せてください・・」

 「えへへ、フレア、姉さんの役に立ったですか?」

 『主に鉄砲玉として』

 『イスカ!』


 「ええ、あれだけヒントをもらえれば、開始5分で攻略も可能でしょう・・」

 「さすが、姉さんですです、ならフレアはその間、マリアのゴブリンを燃やしまくれば良いですね」

 「この勝負、貴女の頑張りにかかっています・・最後の護りは任せましたよ・・」

 「任されました!」


 『さすがの妹転がしです』

 『・・それについては同意します・・』



  モフモフ同盟仮想コアルーム


 こちらではマリアが荒れ狂っていた・・

 「なによ、あんなの反則もいいとこよ!ジャッジに訴えてやるわ!」

 「ボンさん、あれって違反になるんですか?」 

 『いや、無理だろうな・・ルール的には問題がない・・倒す側としては厄介極まりないが・・』


 ただでさえ、首に加えたダメージは、本体には加算されないヒュドラの特性に加えて、無限の再生力と弱点となるはずの火炎攻撃を完全に無効化している以上、戦力の削りあいになれば絶対に勝ち目はない・・


 「ガチャ装備のゴブシロードで押し切れない敵を、どうやって倒せっていうのよ!!」

 「ゴブリン・グレネードはどうなんですか?」

 『相手の支配領域では、空挺が使えないから、接近するまでがネックだな・・しかもほぼ全弾同時爆発を起こさせないと、再生される可能性が高い・・』


 「こうなったら、ゴブリン・エンペラーで・・・」

 『無理だ、あれを召喚するには1500ポイントかかる・・残りは1097しかない・・』

 「カスタム無しならいけるじゃない!」

 『せめて火炎無効をカスタムで付与しないと難しいだろうな・・』

 「ぐぬぬぬ・・」


 「そしたら僕と攻守を入れ替えますか?」

 「はあ?アンタのとこの、ほのぼのメンバーであのバリバリの戦闘モンスターが倒せるの?」

 そう言われると、自信がないが、他に方法がなければやるしかない・・


 「あと、あの珍妙なギミックダンジョンは、アンタじゃないと有効に防衛できないでしょ?こっちはなんとかするから、本業を手抜きしないでよね」

 『それについては俺も同意見だな・・何か隠し玉があるなら勝負を掛けてもいいが、そちらは、もっと残りポイントが少ないだろう?』

 「ですかね・・」

 『しょぼーん』


 「せめてゴブリン使いの称号があれば・・」

 『それはマスターが選択をして捨てたはずだが・・』

 「わかってるわよ、ゴブシロードを切り捨ててまで残すほどの価値はないわ・・でもゴブリン図鑑が完成していたら、制限なしで能力が使えたのに・・」


 へえ、ゴブリン図鑑が完成すると、他の種族がいてもゴブリン使いになれるんだ・・

 「最後の1種類をコンプしたと思ったら、わけのわからないスノーゴブリンが増えてるし・・誰よあんな進化させたの・・」


 おや?・・雲行きが・・・


 「スノーゴブリン・アンダーテイカーとか、スノーゴブリン・ニンジャとか馬鹿じゃないの!」


 やばい・・心当たりがありすぎる・・・


 コア、どうしよう・・


 振り向いたら、コアがサングラスに大きなマスクをしていた・・・

 芸能人の変装じゃないんだから・・・逆に目立つって・・・


 「ねえ、そこのお二人さん、何か知ってるんじゃないの?ねえ」


 『あーー、うちのマスター、今、ご機嫌斜めだから、知っていることがあったら正直に話してくれないか?・・・暴走する前に・・』


 ボンさんの切実な訴えに、僕らは完落ちした・・






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