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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
283/478

民明書房参照のこと

 「ファイアー・ドレイク、転がってくる岩を止めるですよ!」

 「フシャー」

 双子姉妹の炎の妹が、眷属のファイアー・ドレイク(R5/250)に、シャフトを転落してくる巨大な岩の砲弾を、身体をはって止めるように命じた。

 『成功確率3%です』

 ツインコアの片割れ、侵攻部隊担当のイスカが、無情な宣告をした・・


 「それでもフレアは、ファイアー・ドレイクを信じてるです!」

 「フシャー!」

 狭いシャフトに、その巨体を潜り込ませ、4本の足で必死に踏ん張るドレイクの正面から、轟音をたてて岩石砲弾がせまってきた。

 「ゆけ!ファイアー・ドレイク!」


 パキョッ


 「ヒャシャーーーーー」 ゴロゴロゴロ


 「・・・・・」

 『当然の帰結ですね』


 「次、サラマンダー・ノーブルいくです!」

 「キシャー(仰せのままに)」

 『マスターは懲りないですね』


 炎の精霊であるサラマンダーの中でも上位クラスに位置するノーブルは、長大な槍を構えると、その刀身に魔力を込め始めた。

 『まさかあの技を使うというのですか・・』

 「イスカ、知っているですか?」

 『東洋の武人に、回転する巨大な岩石を、槍で突いて破壊する技を持つ者がいると聞きます・・』

 「そんな奥義をいつのまに・・」


 「キシャーーー」

 『全ての物質には急所となる点が存在します。そこを突けば巨大な岩石砲弾でも破壊可能・・しかし高速で回転する岩の一点を読みきって突くのは至難の業・・』

 「ノーブルの戦闘力が増大しているです・・貯めた気合をすべて刀身に纏わせて岩を砕くきですですね」


 轟音とともに岩石砲弾がノーブルにせまり来る・・・その時


 「キシャー!(奥義、バーニング・スピア!)」


 ノーブルの構えた槍が螺旋の炎に包まれると、目にも留まらぬ速度で、繰り出された・・


 ギイイインンーーー


 硬質な打撃音がシャフトに響き渡り、岩石砲弾が一瞬だけ停止したような錯覚を覚えた・・・そして


 バッカアアンン


 爆音とともに四散したのである。

 「やったです、やってくれると信じていたです」

 『まさか本当に砕き散らすとは・・計算外です』


 周囲に破片を撒き散らしたまま、ノーブルはやり遂げた笑顔でマスターを呼んだ。

 「キシャー(さあ、今のうちです)」


 「さすが東洋の奥義です、一撃必殺、一読必笑なのです」

 『95%の確率で、槍毎弾かれて転落死するはずだったのですが』

 「ノーブルは奥義を会得したです、もう岩石砲弾は怖くないです」


 「キシャ・・(いえ、ですから今のうちに早く・・)」

 槍を握るノーブルの両腕は、衝撃を吸収しきれずにプルプルしていた。


 そこへ次なる刺客が襲い掛かってきた。

 岩石砲弾の2発目である・・


 「むう・・間隔が短いです、これではメンバー全員が移動できないです」

 『10秒弱で次が来ましたね』

 「ノーブル、これも奥義で瞬殺するです!」

 「・・キ、キシャ(・・りょ、了解です)」


 握力の戻らない手で槍を構えつつ、ノーブルは内心焦っていた。

 先ほど使ったのは奥義ではなく普通のスキルで、炎で槍の威力を増大するものだ。戦闘支援を受けているダンジョンコアの特殊機能も相まって、偶然でたクリティカルの一撃が岩石の耐久力を上回っただけなのだ。

 クリティカルが2回続けて出る可能性は低いし、両手に力が入らない・・・しかし、マスターの命令とあれば、引き下がることはできない。

 一度できたことなら体が覚えているはずだと、自分を鼓舞して、再び槍に気合を込める。


 「キシャーーーー」


 いける! そう確信したノーブルではあったが、彼が忘れている事が1つあった・・

 それは彼が砕いた岩石の破片が、前方にも散乱しているということだ。

 シャフトを転がる岩石砲弾は、その大きさがピッタリなので隙間がほとんど無く、進路上にあるものを巻き込まずに弾き飛ばす。

 つまり・・・


 ガガガガガ  アバアバアバアバ  パキョッ  ゴロゴロゴロゴロ


 散弾のように飛来した岩石の破片に全身を打ち抜かれ、意識が朦朧としたところに砲弾の直撃を受けたノーブルは、そのままボロ雑巾のように弾き飛ばされながら、落下していった・・・


 「・・・・」

 『なるほど、こういう落ちですか』


 「次・・・誰が逝くですか?」

 目が据わったマスターの、言い間違いなのか特攻宣言なのかわからない発言に、残りの眷属達は、思わず目を逸らした。

 『現在の残存戦力は・・サラマンダー・ソルジャー(R5/250)x2、サラマンダー・シャーマン(R6/360)x1、ファイアー・ドレイク(R5/250)x1です』

 イスカにコールされる度に、身体を竦ませて怯える眷属達だった・・


 『少し頭を冷やしなさい、フレア・・』

 「姉さん、姉さん、敵の主砲は化け物です」

 『トラップに正面から突っ込むからです・・』

 「え?トラップですか?本当ですか?」

 『こちらテスラです。イスカからの情報を演算した結果、シャフトを転落しているのは「岩石が転がり落ちてくる罠」で発生するものに99%の確率で該当します』


 「でもでも、こんなに数が出るのは聞いたことないです。あと、フレアはどこにも触ってないですよ?」

 『それも演算しました。クーリングタイム60秒の罠を6基用意すれば、10秒間隔で落下させ続けることが可能です。マスター・フレアが発動させてないのに罠が永続的に作動している点は、ただいま検証中です・・』

 「・・・大型トラップを6基並べるとか、向こうのマスターはトラップマニアですか」

 『それにまんまと填められたマスターも大概ですけどね』

 『イスカ、貴女が見抜いて進言するべきなのよ?・・』

 『ふっ、舐めないでください。私にはこれがトラップであることなど、見た瞬間に心の片隅に芽生えていたのです』

 『それじゃ意味ない・・』x2

 

 「とにかく、トラップならどこかに作動スィッチがあるはずです。偵察機を送り込むです」

 フレアは少し悩んでから、新たに召喚する眷属を選び出した。

 「ファイアー・バットを2体召喚するです」

 『新たなる生け贄を召喚します』

 「「キィキィ」」


 呼び出された眷族は、巨大な赤い蝙蝠だった。ファイアー・バット(R3/90)2体は、炎の軌跡を残しながら、シャフトの上下へ分かれて飛び去っていった。

 偵察部隊がソナーで探知した情報を、リアルタイムでイスカがトレースしていく・・・


 『上下とも9m間隔で左右に交互に退避通路がありますね。扉が分厚いので中の様子は空洞があることしか判別できませんが・・』

 「床に何かないです?」

 『今のところ何も・・・あっ!』

 「何か見つけたですか?」

 『上りのファイアー・バットがお亡くなりになりました』

 「あう・・・」


 速度的には追いつかれずに逃げることも可能だったはずだが、転落してくる岩石の轟音が、ファイアー・バットのソナーを混乱させて、墜落、そのまま轢かれて死亡したようだ。

 『下は70mほど下って、広い空間に出ました・・・生体心音複数!・・あっ!』

 「また、岩石に轢かれたですか?」

 『矢で射落とされたようです・・発射音が2回しました』


 「どうやら下にガーディアンがいるみたいですです」

 『しかし囮の可能性もありますよ、フレア・・』

 「しかしも案山子もないのです、まずはガーディアンを蹴散らして、このシャフトの支配権を奪うですよ」

 『確かにそれは必要ですが・・』

 「退避通路を上手く使えば、岩石はやり過ごせるはずですです。でも登るのは無理です」

 『・・わかりました、気をつけて・・』



 仮想コアルームとやりとりしている間にも、岩石は間断なく落下し続けていた。

 「よくタイミングを計って、通り過ぎたらすぐに走り込むです」

 フレアに言い含められた、サラマンダー・ソルジャーが、決死の覚悟でシャフトに飛び込んで、9m下の扉にたどり着いた。石の八角形の両扉は、構造的に押し開くしかできなさそうだった。

 せまり来る次の岩石の恐怖と戦いながら、ソルジャーは、全身の力を込めて扉を押した・・・


 「キシャー(鍵がかかっています・・)」


 パキョ  ゴロゴロゴロ

 

 「えっ?」

 『なるほど、効率が良いですね』


 落石地獄は、まだ始まったばかりであった・・・



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