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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
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お酒はでないんですか?

 一通り自己紹介を済ませると、控え室の小さめの円卓に腰を落ち着けた。

 来訪側はリュウジャとタングステン殿が座り、護衛はその後ろに立っている。こちらもそれに倣って、ワシとアエン殿が座り、アサマとテオがその後ろに立った。


 「なるほど、その様子を見れば、ハクジャが書いてよこしたことが、本当なのだと理解できる・・」

 リュウジャが、そう言って、背後の二人を興味深そうに眺めている。

 

 「実際には、この二人もワシと同様にマスター様の眷属であるから、立場は同等なのだ、ジャジャ」

 それでも今回の遠征の間は、ワシをリーダーとして尊重してくれているし、護衛対象として優先もしてくれている。


 「だろうな、二人ともかなりの使い手だ。以前のハクジャなら、脅迫されて傀儡にされてるのかと疑うところだ」

 「そう見えるかね?ジャジャ」

 「いや、ハクジャの表情や仕草に、陰りや迷いはない・・・自らの意思で、ここにやって来たのがわかる・・」


 あいかわらず、人の心を読み取るのが上手い。この観察力と洞察力、そして豪運が、この漢の強みだと、再認識した。

 「誰より先に会いに来たのが、それを見極める為だったなら、目的は果たせたかな?ジャー」

 「ああ、これで次の話ができる・・」


 リュウジャとワシは、現状の「小竜会」の思惑と、ドワーフについての情報をやり取りして、認識を統一した。その間に、アエン殿とタングステン殿が、お互いの近況と、他の生存者の様子を話し合っていた。


 「では『鮫』は、保護したドワーフの子供だけ送り届けてきて、本人は後から来るつもりなのか?ジャー」

 「どうだろうな・・厄介払いしたかったのか、興味がないのか、それとも何かの布石なのか・・」

 「あの、がめつい『鮫』が、一度手にした金の卵を、簡単に手放すなど信じられんが・・ジャ」

 「まあ、あちらに流れ着いたのは、気位が高いだけの、技能もほとんどないお坊ちゃんらしいから、それだけでは何も生み出さないさ・・・身代金を払ってくれる相手もいないしね」


 横でドワーフ二人が熱心に話し合っているのは、流れ着いてから飲んだ酒の種類と、漂着してから鍛冶ができたかどうかだけで、3人目の安否は、ほぼ無視されていた。

 どうやらクランの中でも、持て余し者だったらしい。

 彼の乗っていた脱出艇なら回収する価値はあるが、中身は自己責任だそうだ。貴族出身を鼻にかける子弟より、もっと助かって欲しかった技術者は山ほどいた。

 彼らを押しのけて生き残ったのであるから、それ以上を他人に望むのは贅沢というものだそうだ。


 「ワシの長老会入りは認められそうか?最低でも三日月湖周辺が、マスター様の支配地域に入ったことだけ認めてもらえれば、それでいいのだが、ジャー」

 「そこが難しい問題だ。長老達は、概ねダンジョンマスターには畏敬の念を持っているのは間違いない。だから、新たなマスターが出現して、北の境界線を守護してくれるのは歓迎すべきことだろう・・」

 「では?!ジャ」

 「しかし、この新参のダンジョンが、侵略者だと警戒する長老も少数だが存在する・・」

 「それは違う!」

 「その違いは我々にはわからない・・それを見極める為の、今回の召集なのだから・・」


 「だとしたら、ワシは何をすれば良いのだ・・ジャジャ」

 「基本的には、何もしなくて良い。ただ、在りのままを伝えれば、長老達はわかってくれるはずだ・・」


 「だが、『三日月の槍』の女族長と、『凍結湖の鮫』の親分は納得しないだろう・・ジャジャ」

 「しないだろうな・・」

 長老会議で、あることないこと喚きたてるだろう・・そして彼らの言い分を認める長老もでてくるやもしれぬ・・・


 「どちらにしろ、『鮫』の出方次第で、対応を変えていくしかないな・・」

 「リュウジャにも面倒をかけるな・・ジャジャー」

 「なに、最近とみに『鮫』が煩くてな・・こちらのシノギにちょっかいをかけてくるから、一度、お灸を据えようと思っていたところだ・・・では、また会議で・・」


 リュウジャ達は、それを合図に、自分達の控え室に戻っていった。

 残された我々は、反対勢力からの妨害への対応を話し合ったが、良い案も見つからずに、ただ時が過ぎていった。

 「アエン殿は何か思うことはありますかな?ジャジャ」

 「そうですね・・お茶よりもお酒は出ないんでしょうか?」

 ここにも不安要素が居たのだった・・・



 やがて女給仕が現れて、準備が整ったことを伝えてきた。

 「よし、行くか・・ジャ」


 会議の間へ案内されたのは、ワシとアエン殿と、アサマとテオの4名になった。残りの者は、控え室で待機になる。テオも大広間には入れるが、円卓には着けずに、壁際で待機して控え室との連絡係を務めることになった。


 「小竜会」の円卓は、16名が座れる大きなもので、今はそこに長老7名と、幹部が3名、オブザーバーとしてドワーフが2名、新規の会員希望者としてワシを含めて13名が着席していた。その背後に、護衛が8人ひっそりと立ち並んでいた。ワシの後ろはもちろんアサマだ。

 幹部の一人がリュウジャで、『鮫』の族長は長老の一人だ。例のドワーフの子弟とやらが居ない・・


 長老の一人・・確か『虎』の族長だったはずだが、彼が場を仕切るらしい・・


 「さて、久しぶりの『小竜会』の開催になったが、皆、よく集まってくれた。代々の長老に成り代わって礼を言う・・・」

 「別にお前さんの為に、集まったわけでもなし、長い話は抜きにして本題に入ってもらおうか」

 「『鮫』の、遅れてきてその言い草はないじゃろうて。しかもお前さんの送ってきた小僧はあれはなんじゃ?あんまりじゃから、わしがこの場から叩き出したのじゃぞ」

 「躾ができてないのは、こちらの所為じゃないんでな・・文句はそこの同族へ言って欲しいぜ」


 その言葉で、参加者の視線が、アエンとタングステンに集中した。本来、ニッケルという名のドワーフが座る予定だった席は、『鮫』の隣だったのだが、今は空席だ。


 それを機会に、「虎」がドワーフ二人に自己紹介を求めた。長老の中にはまだ、彼らに接触していない者もいたからだ。

 アエンが1級鍛冶師であると名乗ると、どよめきが広がり、タングステンが特級鍛冶師であると名乗ると、会場に静寂が広がった。

 『鮫』でさえ、驚愕と打算と無念の表情をしながら、口を開かなかった。


 やがて会議は、ドワーフの去就と、氷炎の魔女への対応、そして壊滅したと思われていた「下弦の弓月」について話合われた。

 ドワーフの去就に関しては、急にパトロン面しだした『鮫』が、3人まとめて面倒を見ると言い出したが、他の長老が相手にぜずに、個々の保護者が責任を持つことで話が決まった。


 氷炎の魔女に関しては、ここまで追ってこないだろうという楽観論が大勢を占めたので、基本、放置だ。


 そして最後に、我等の待遇が議論された。


 「話にならんな。『下弦の弓月』は冥底湖の魔女に呪い殺された。たとえそれが間違っていて、魔女ではなくダンジョンに取り込まれたのだとしても、そんな紐付きに、同族を名乗られても迷惑だ。ましてや『小竜会』に名を連ねるなど、不敬にもほどがある!」

 やはり「鮫」は反対派の先鋒だった。


 「ですが、彼らは『三日月の槍』に不当な抗争を仕掛けられ、あまつさえ後継者夫婦を暗殺されたのです。部族の滅亡を回避するのにダンジョンマスターの庇護を受けるのは致し方ない仕儀であったと推察します・・」

 「龍」が擁護派として、長老たちの情に訴えてくれている。

 

 元々、ワシらと「三日月の槍」との抗争は、向こうが一方的に盟約を破って仕掛けてきたもので、長老達の間でも、眉を顰める者が多かった。

 そのうえ、息子夫婦の不審な事故死は、ほとんどの者が女族長の差し金であったろうと噂をしていたのだ。

 その彼らが、返り討ちにあったとしても、何の問題もなかったのである。


 問題があるとすれば、「下弦の弓月」に助力し、それを眷属化したダンジョンマスターが、果たしてフロストリザードマン社会にとって、善か悪か、はたまた利か損かということである。


 「どうみても侵略者だ。すでに『三日月の槍』の半分と、我が息子とその配下を飲み込んでいるんだぞ。それによって肥大化したダンジョンは、次々に部族を飲み込んでいくに違いない!」

 「それは違う。ダンジョンは侵入してきた勢力しか倒していないそうだ。他のクランの支配地域に押し入れば、殺されても文句はいえないはずだ!」

 「ダンジョンなぞ、信用できるか!」


 論争が過熱している最中に、マスター様から遠話が届いたが、この状況では対応が難しかったので、他のメンバーに回してもらった。

 すると、すぐにテオが、アサマに何か伝えてきた。それを聞いたアサマに緊張が走る。

 彼ほどの隠密が動揺する何かがもたらされたのであろう・・・まさか・・


 さらにテオはアエン殿にも何かを伝えている。それを聞いた彼女も驚愕と恐怖の表情を浮かべた。横でその会話を小耳に挟んだタングステン殿が、思わず聞き返していたが、それにはテオは答えなかった。彼はメッセンジャーなので、他の人と会話することは許可されていない。


 最後にワシの横に立って、伝言を伝えた。それもわざと両隣の長老達に聞えるようにだ・・・


 「マスターからの連絡です。『氷炎の魔女は双子のダンジョンマスターと判明。ドワーフを争ってダンジョンバトルになる可能性あり』だそうです」






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