表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
268/478

砦の三悪人

 「道を開けろ、でかいのが通るぞ!、ジャー」


 トロンジャ率いる侵攻部隊の最後方から、アイスドレイクが巨体を揺すりながら前線へと駆けていった。

 その背中には、2体の兵士が乗ってはいたが、騎乗用に飼いならされたアイスドレイクはまだしも、乗り手が慣れていないので、おっかなびっくりなのが目に見えてわかる。

 それでも振り落とされるのだけは避けようと、両手両足に尾っぽまでつかって、背中にしがみ付いていた。


 後方のアイスドレイクが通過すると、壁に張り付いたり、脇道に避難していた兵士達が、続々と、もう1頭の背中を橋代わりに、落とし穴を越えていく。

 「敵が退いたぞ、押し込めろ!ジャジャ」

 「ほ組は右だ、左はへ組にまかせろ!、ジャ」

 「正面に木製の扉発見、突破しますか?ジャー」


 次々に送られてる配下からの情報に、トロンジャは満足気であった。

 「よし、戦力を集中できてる分、こっちが有利だね。このまま奥の族長部屋を襲撃するよ!」

 「「あら、ほら、ジャー」」


 敵の伏兵が、左右に篭ったので、一気に正面突破を図った。ろ組の兵士二人が扉をぶち破るように開くと、そこには、三つ又矛を手にして、金色の妖精竜をかたどったヘルムを被った、一人のリザードマンの娘と、それを護る4匹の大蛙がいた。

 「姐御、奥の部屋には、じゃじゃ馬娘と護衛の大蛙が4匹ですぜ!うわっーーー」


 報告していた兵士が、大蛙の舌に絡めとられて飲み込まれてしまった。


 「誰が、じゃじゃ馬だぜ、ジャー」

 部屋の奥でベニジャが叫んだ。


 「いやお前だろ、ジャ」

 「もしかして自覚ないのか、ジャー」

 「嫁にはちょっと遠慮したいよな、ジャジャ」

 侵攻部隊の兵士達が、率直な意見を呟いた・・


 それを聞きつけた防衛側の兵士達が、反論の声をあげる。

 「お嬢のは、お転婆とかオキャンとか表現するんだよ、ジャー」

 「自覚して演じてたら、あざといだけだろうが、ジャジャ」

 「そっちの姐御なんて、後家さんだろが、ジャ」


 「なんだと、ジャ」

 「やるか、おら、ジャー」

 「上等だぜ、表でろや、ジャジャー」


 勝手ににらみ合いを始めた兵隊同士の争いを横目に、大蛙達は、どんどん侵攻部隊の兵士を飲み込んでいく。

 「汚ねえぞ、メンチ切ってる隙に攻撃してくんじゃねえぜ、ジャー」

 「何言ってやがる、今は出入りの最中だぜ、油断する方が馬鹿なんだよ、ジャジャ」


 「お前達、いいかげんにしな!奴らの術中にはまってるんじゃないよ!」

 先陣の兵士が4体も飲み込まれたのに業を煮やしたトロンジャが、配下の兵隊達に喝を入れた。

 

 「ボヤッシャー、お前の風呪文なら奴らにも効果があるはずだよ。叩き込んでやりな!」

 「トロンジャ様のご命令とあれば、たとえ火の中、水の中・・・」

 「能書きはいいから、とっとと、やっておしまい!」

 「それでは・・ポチっとな」


 術者風の手下Aが、手にしたワンドを振りかざすと、そこから魔力の風が吹き荒び、旋風となってベニジャ達を襲った。


 「旋風刃のワンドだと!ジャジャ!」

 驚くベニジャと大蛙に風の範囲魔法が炸裂した・・・かに見えたが、その風の刃は、直前で霧散してしまった。


 「何やってんだい、不発じゃないか!」

 「いやいや、魔法はちゃんと発動してやす・・まさかディスペル・ウォールの使い手がいるとでも・・」

 「いいから、連射するんだよ!」

 「あら、ほら、・・・げふっ・・」


 突然、喀血してうつ伏せに倒れボヤッシャーの後頭部には、3本の黒い鋼のボルトが突き立っていた。

 「しまった!新手かい!」

 後を振り返ると、出口から差し込む光が逆光となって、3体の亜人の影のみが視認できた。


 「影の軍団、参上っす」



 少し時間が遡る・・


 「けろっぴけろ」

 「ベニジャと蛙軍団が敵と遭遇したね」

 「ギャギャ(敵主力は橋を渡りきったようです)」

  橋の役目をしていたアイスドレイクが動き出せば、敵を孤立化させることができる・・


 「こっちは準備完了っす」

 ワタリが、転移を促がすが、その前にやっておくことがあった。


 「コア」  「ん」

 阿吽の呼吸で、僕の意図を汲んだコアが、ワタリの手元に例のブツを変換した。


 急に出現したそれを、ワタリは慌てて受け止めると、目を丸くしてこちらを見た。

 「こ、こいつは・・・」

 ワタリの手には、黒く光る鋼のクロスボウが握られていた。


 「旧式じゃあ、あのデカブツは打ち抜けないぜ」

 「もってきな♪」

 コアもいい笑顔でサムズアップしている。


 「へへっ、最高の支援っすよ・・」

 嬉し涙を堪えながら、ワタリがクロスボウの弦を引き絞る。カチャリとロックされた音が響くと、慎重にボルトを装填し、水平に構えた。

 その両脇には、既に準備を整えた、アズサとシナノが同じ体勢で並んでいた。


 3人の足元に転送の魔法陣が浮き上がっていく・・

 「影の軍団、推参っす」




 「畜生め!ボヤッシャーの仇だよ、トンシャ、突っ込むんだ」

 「がってん、ジャー」


 体格のがっちりした兵士が、アイスドレイクに跨って、後方の射手達に突進しようと努力していた。

 しかし、騎乗技能もテイム技能もない脳筋には、方向転換さえもままならなかった。

 「こら、こっちにくるんじゃないよ、敵は反対側だっていってるだろ!」

 「それが、ちっとも言うことを聞かないんでさあ・・ガッ、ゴッ、ゲッ」


 アイスドレイクに跨ってうろうろしている戦士など、的以外の何者でもなかった。しかしさすが脳筋は、ボルトを3本くらっても、まだ生きていた。

 「そんな、ひょろひょろ弾で、この鋼鉄の筋肉と呼ばれた俺様の肉体を・・ガッ、ゴッ、キュピーーン」


 2射目の最後の一撃が、大きく開いた口を抜けて喉を貫いていた。

 口を開いたまま、トンシャはアイスドレイクの背中から崩れ落ちていった。


 「この『黒影』を侮辱するから、早死にするっすよ・・」

 「ギャギャ(もう銘をつけたんですね)」

 「ギャギャ(ひょろひょろ弾呼ばわりが地雷だったらしい)」


 乗り手を失ったアイスドレイクは、勝手に脇道へと逸れていってしまった。

 「ええい、こうなったら、あの生意気な小娘の首だけも獲ってやるよ!お前達、両側の抑えに、ほ組とへ組を残して、残り全員で正面に殴り込みな!」

 「「へい!ジャジャー」」


 残りの兵隊17人のうち、左右に4人ずつ残して、9人がベニジャの居る部屋に雪崩れ込んで来た。

 護衛の大蛙が4体なら、必ず5人は届くはずだ。 

 「「そのタマ獲った、ジャー」」


 「そんな簡単にやられるかよ!出番だぜ、ジャジャー」

 ベニジャの叫び声とともに、部屋の壁に擬態していた8匹の大蛙が、一斉に舌を放った。

 「「謀られた、ジャーー」」

 

 一瞬にして8人の兵士が飲み込まれ、残った一人は4匹の護衛蛙に身動きを封じられたあとで、ベニジャの三つ又矛で脳天を割られた。


 「おのれ、小娘が小賢しい真似を・・・」

 トロンジャの顔が、憎悪でゆがんでいた。


 ベニジャは三つ又矛でトロンジャを指した。

 「やっと、そのつら眺めることができたぜ、女狐、ジャジャ。二親の敵討ちだ、楽に死ねると思うなよ、ジャー」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ