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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
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背中が煤けてるぜ

 ハクジャの昔の知り合いに出した手紙に返事が来た。

 「どうやら、便宜を図ってくれるようです、ジャー」

 ハクジャも、相手が信用してくれるかわからずに、ずっと心配をしていたらしい。今はほっとした顔で、折り返し届いた手紙を読み返しているところだ。


 「その昔馴染みの族長さんってどんな人?」

 「元はワシと同じで、遠くから流れてきた博打打ですジャ。当時の『不凍湖の龍』の頭にずいぶん気に入られて、いつの間にか後継者になった男です、ジャー」

 「それ、よく古参の幹部とかが許したね」

 「元々あの部族は、誰しもが認める器の大きな者が族長になる風習がありましてな、先々代も流れ者だったりして、跡目はすんなり譲られたようです、ジャ」

 それはまた、大らかというか度量が大きい部族だね・・


 「まあ、そこまで認めさせるまでに色々あったのは確かですが、結局は、奴の豪運に周りの連中が惚れ込んだようなものです、ジャジャ」

 それで族長まで登り詰められるんだから、すごいよね・・


 「ちなみに、なんで湖が凍らないの?塩分濃度でも高いのかな?」

 「なんでも、あの湖だけ湖底から熱水が噴出しているんだそうです、ジャー・・」


 ガタッ ガタッ ガタッ

 その話を聞いたとたん、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった3人がいた。

 僕とアエンとワタリだ・・


 「温泉!」

 「お風呂酒!」

 「混浴っす!」


 その瞬間、ワタリの背後にアズサが現れて、耳を掴んだままどこかへ引っ張っていった。

 「ギャギャ(ちょっと借りていきますね)」

 「痛い、痛いっす。ギブ、ギブっす」


 ・・ワタリのことは置いておくとしても、温泉が湧くなら「不凍湖の龍」とはお近づきになりたいね。

 「かぽ~ん」



 アエンの鍛冶が一段落したところで、「小竜会」の会合に出席する使節を選抜することにした。

 まずはハクジャ。長老族長に進化したので、できれば「小竜会」に席を置いて欲しいところだ。でも無理はしなくていいからね。

 「マスター様の強さと優しさを訴えて参ります、ジャー」


 次はアエン。彼女は「小竜会」の方から参加要請があった。他にも救助されたドワーフがいて、安否を気遣っているそうだ。ダンジョンマスターに隷属させられているんじゃないかという心配もあって、直接、本人と話がしたいという。

 もっともなので、アエンに聞いたら最初は乗り気でなかった。

 「だってリザードマンが隷属させてない証拠もないわけですよね?」

 「確かに『小竜会』が全部グルになっていたら、なくもないかな・・」

 「ここなら好きなお酒も飲み放題だし・・」

 「いや、節度は守ってもらうからね」

 「鍛冶もできるし、道具も揃えてくれたし、お酒も飲めるし・・」

 結局そこに戻るのね・・


 それでもアエンも他の仲間の安否が気になることもあり、何かあったら助けに行くからと言い聞かせて同行させるのに成功した。

 「いない間は、鍛冶場は触っちゃダメですからね!」


 ベニジャは・・外した。

 本当ならハクジャの後を継ぐものとして、長老達にお披露目しておくべきなのだろうけど、ドワーフ難民という政治的な問題が発生している時に、彼女の自由な言動は、色々拙い事になりそうだったので・・・

 「信用ねえなあ、まあ、アタイも狒々爺達の見世物になるのは気が引けるし、行けと言われても断るけどな、ジャジャ」

 「それ、向こうで言ったら無事に帰ってこれないよ?」

 「だいたい、下手すると、あのいけ好かない年増の女狐が出しゃばってきそうじゃん。顔見たらぜってえ殴るし、ジャー」


 ああ、いたね、元「三日月の槍」の女族長さん。部族ごと引越ししたみたいだったけど、どうしてるんだろうか・・・

 「噂だと『凍結湖の鮫』の所に転がり込んで、色目使ってるらしいぜ、ジャジャ」


 「ハクジャ、彼女が『小竜会』に影響を与える可能性はある?」

 「流石にそれはないかと。女は『小竜会』には入会できませんし、『鮫』の族長も、あやつに丸め込まれるほど、無能ではありません、ジャー」

 だとすると、こっちにちょっかい掛けてくるかな・・


 ハクジャ達の護衛には古参の幹部一人と、若手の3人をつけることにする。流石に僕やコアが出張するわけにもいかないし、フロストリザードマンの全部が理知的とは思わないからね。

 ただし、ハクジャの後見にダンジョンマスターが居ることを証明する為に、異種族の誰かも同行させたほうがいいかも・・


 ロザリオは・・・ちょっとインパクトが強すぎるかな。

 「どちらにしろ、私は地下水路の探索チームだぞ」

 そうだったね。今回はどこまで続いているか分からないから、完全水棲眷属と、無呼吸眷属で行くしかないんだった。


 そしたら、スノーゴブリンから一人、エルフから一人出してもらえるかな?

 「ギャギャ(私で良ければ)」

 「先導役も必要ですか?」

 影の軍団からアサマが、モフモフ親衛隊からテオが名乗りを上げてくれた。

 こうして総勢8名の使節団の陣容が決定した。

 彼らには、できるだけ上質な装備を渡して、旅の無事を祈ることにしよう・・・


 途中まで、独立機動部隊の護衛を付けて送り出すと、次は、地下水路の探索チームだ。


 こちらは選択の余地も無く、フローズンライトニング・イールのミコトチーム3体がメインになる。

 無呼吸眷属からは、ロザリオ、スケルトン・ウォーリアーのスカル、バーニング・ボーンのバーンの3体が参加する。ミコトチームの機動性を損なわないように、牽引される骸骨チームも3体に絞った。


 「なに、偵察してくるぐらいなら、過剰な戦力だ。ヴォジャノーイでも出てこない限りは余裕だと思うぞ」

 ロザリオがフラグを立てた・・・


 「目的は、途中ではぐれた潜水艇の発見と、回収だよ。くれぐれも敵対生物に無駄な喧嘩を吹っかけないようにね」

 他の5名が、一斉にロザリオを見た。

 「いや、主殿、それはおかしいぞ。敵対生物と判明しているのだから、既に交戦状態なのではないか?」

 「その場合でも、目的を果たしていたら、帰還を最優先にってことだよ」

 「ああー、うむ、まあ、善処しよう・・」

 

 「・・ピュイ・・」 「・・カタカタ・・」

 うん、僕も皆と同じこと思ったよ・・


 「だめっぽ」






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