かしらかしらご存知かしら
気がつくと時計の針が25時をまわっていました。申し訳ございませんでした。
「はい、火入れしますよー、とりゃ!」
あまり威勢の良くない掛け声とともに、鍛冶場の炉に火が入った。
最低限の標準炉に、今は薪を燃やしての始動である。できれば石炭かコークスが欲しいとこだが、リストに無いからどこからか調達するしかない。
薪をくべるのは重労働になるけど、そこはバーニング・ボーンの出番だ。疲れ知らずで火傷もしない、まさに適役だと思う。
「北の山脈には炭鉱もあったのかな?」
「それはドワーフクランのお膝元ですから、石炭から鉄鉱石、銅鉱石、銀、金、鉛まで仰山とれましたよ」
かなり遠いけれど、一度、掘削にいくべきかなあ・・
「今はほとんどの坑道を『氷炎の魔女』に占領されてるでしょうけどね」
「そうそう、その魔女なんだけど、実際に本人がそう名乗ったの?」
冥底湖の魔女の例もあるし、誤認とか騙りとかなら楽そうなんだけど・・
「十中八九、本人達でしょうね・・」
「そうなんだ・・・って、魔女って複数いるの?」
「あれ?知りませんでした?氷の魔女と炎の魔女、二人合わせて氷炎の魔女ですよ」
あああ、僕はてっきり右手に氷魔法、左手に火炎魔法、合体させて究極魔法な奴かと思ってた・・
「姉妹とか双子とか言われてますけど、見た目は少女ぐらいらしいですよ。魔女ですから実年齢は不明ですけどね」
「それで片方が氷使いで、片方が火炎使いなんだ・・」
「召喚獣も属性付きで、対冷気装備で仕掛けると炎の魔女が、対火炎装備で待ち受けると氷の魔女が出てきて、コテンパにやられたみたいです」
嫌な戦法だな・・
「それで魔女達はなぜ『鍛冶場の番人』を襲ったのかな?」
「それは判りません。ドワーフが嫌いだったとか?」
本当にそんな理由だったら嫌だよね・・・
そんな四方山話をしながらも、アエンは手馴れた様子で炉を調整していく。
「やはり火力が今一ですね」
「今はそれがせいいっぱいです・・」
「まあ、贅沢は言いません。黒鋼は難しそうですので、鋼で欲しいものがありますか?」
「えっと剣と盾とクロスボウは揃ってるから・・まずランスかな・・」
「ギャギャ(頼みます)」
「はいな、バランスはこの木製のと同じで良い?」
「ギャ(もう少し先端を重くできるかな)」
「了解ですです」
トンテンカン トンテンカン
アエンは鋳潰した鋼を木製の心材にコーティングすると、あっという間に成形してしまった。
「こんな感じで」
「ギャギャ(おお、持ちやすい!)」
「「ギャギャ(次、次はわたしのランスを)」」
順番待ちしていたパイとティーが、我先にと群がってきた。
「はいはい、順番にやるから慌てない慌てない」
アエンは難なく依頼をこなしていった。
「この作業風景だけ見てると、仕事の出来る女鍛冶師なんだけどね・・・」
「作業中も抱え込んで離さない酒瓶が台無しですな、ジャー」
水分補給の名目で、良く冷えたエールを飲みながらの鍛冶であった。
「くうーー、この1杯の為に仕事してるって感じ!」
ちなみに冷却係として、アイスドレイクチームが交代でブレスを吐いていた。
「シャーシャー」
「次は忍者刀をお願いしたいっす」
「あー、鍛造はまだ無理ですね・・形だけなら鋳造で作れるけど、意味ないでしょ?」
「残念っす・・なら手裏剣はどうすか?」
「棒状か十字ならできるよ。ただ研磨する時間がちょっと・・」
「荒砥ぎなら出来るっす。仕上げを見てもらえればいいっすよ」
「お、助かりますよ、ではそれで」
刀を打つには相槌役か、機械鎚が必要で、さらに専用の道具もいるらしい。材料になる高品質の鋼または黒鋼もないし、砥石も種類が必要になってくる。
「刀はドワーフなら誰でも打てるの?」
「いえ、1級か特級鍛冶師でないと無理ですね。私だと数打ちが精一杯で、業物は特級鍛冶師でないとなかなか」
「ちなみに特級鍛冶師ってクランに何人いたの?」
「3人でした」
「クランにいた鍛冶師の人数は?」
「2級も含めて・・35・6人?」
なるほど、それぐらいの比率なんだね。
特級鍛冶師、どれくらい生き残っているんだろうか・・
旧ドワーフ鉱山にて
「かしらかしらご存知かしら?」
「知らん」
「姉さん、相変わらず反応が冷たすぎます!もっとハッスルハッスル!」
「お前は無駄に、はしゃぎすぎだ」
ここは「鍛冶場の番人」が支配していたドワーフ鉱山の一角である。ようやくこの全域を支配下においた二人の魔女が、最深部で合流を果していた。
「状況は?」
姉のフリージアは寡黙にして沈着冷静、そして敵に投げかける視線は絶対零度と言われ、アイスドールの異名を持っている。
「えっと、鍛冶師のトップ3のうち、一人は死亡、一人は重傷で引退、最後の一人は逃げ出したみたい」
妹のフレアは熱血にして勇猛果敢、その分、思考が少し疎かという噂で、ファイアーダンサーの異名で知られていた。
「無様だな・・」
「ええ?ドワーフ鉱山まるごと支配したんだよ、快挙でしょう、いやこれはもう壮挙と言うべき?」
「だが目的は達成されなかった」
どうやら彼女達は、単なるドワーフ嫌いではなかったようだ。
「まだいけるって、大丈夫だって、あきらめたら何もはじまらないよ?」
「ほとんどお前のせいだがな・・」
妹が調子に乗って、やりすぎたために、ドワーフとその設備に多大な被害がでてしまった。捕獲した生存者の好感度もぶっちぎりでマイナスだった。
「追うしかないか・・」
地上へバラバラに逃げ出したドワーフは放っておいても、地下水路を古代帝国の遺産まで使って脱出した数人は、腕も知識も最重要とされたに違いなかった。現に脱出直後に捕獲した一人は、結果としては残念ながら溺死してしまったが、特級鍛冶師だった。ならば残る一人も水路の先にいるに違いなかった。
「ええ~、でもフレアの眷属だと水中は苦手だよ?ジュワッていうよ、ジュワッって」
「かまわん、私が送る・・」
「あ、じゃあフレア、地上に逃げたドワーフ狩りするね」
「ほどほどにな・・」
「フレアの辞書に、ほどほどはないんだよ!つねに全力全開、全速前進だってば!」
「・・ふう・・」
姉のフリージアは、本日何度目かのため息をつくと、自分の仕事をこなすのであった・・




