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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
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かしらかしらご存知かしら

気がつくと時計の針が25時をまわっていました。申し訳ございませんでした。

 「はい、火入れしますよー、とりゃ!」

 あまり威勢の良くない掛け声とともに、鍛冶場の炉に火が入った。

 最低限の標準炉に、今は薪を燃やしての始動である。できれば石炭かコークスが欲しいとこだが、リストに無いからどこからか調達するしかない。

 薪をくべるのは重労働になるけど、そこはバーニング・ボーンの出番だ。疲れ知らずで火傷もしない、まさに適役だと思う。


 「北の山脈には炭鉱もあったのかな?」

 「それはドワーフクランのお膝元ですから、石炭から鉄鉱石、銅鉱石、銀、金、鉛まで仰山とれましたよ」

 かなり遠いけれど、一度、掘削にいくべきかなあ・・


 「今はほとんどの坑道を『氷炎の魔女』に占領されてるでしょうけどね」

 「そうそう、その魔女なんだけど、実際に本人がそう名乗ったの?」

 冥底湖の魔女の例もあるし、誤認とか騙りとかなら楽そうなんだけど・・


 「十中八九、本人達でしょうね・・」

 「そうなんだ・・・って、魔女って複数いるの?」

 「あれ?知りませんでした?氷の魔女と炎の魔女、二人合わせて氷炎の魔女ですよ」

 あああ、僕はてっきり右手に氷魔法、左手に火炎魔法、合体させて究極魔法な奴かと思ってた・・


 「姉妹とか双子とか言われてますけど、見た目は少女ぐらいらしいですよ。魔女ですから実年齢は不明ですけどね」

 「それで片方が氷使いで、片方が火炎使いなんだ・・」

 「召喚獣も属性付きで、対冷気装備で仕掛けると炎の魔女が、対火炎装備で待ち受けると氷の魔女が出てきて、コテンパにやられたみたいです」

 嫌な戦法だな・・


 「それで魔女達はなぜ『鍛冶場の番人』を襲ったのかな?」

 「それは判りません。ドワーフが嫌いだったとか?」

 本当にそんな理由だったら嫌だよね・・・



 そんな四方山話をしながらも、アエンは手馴れた様子で炉を調整していく。

 「やはり火力が今一ですね」

 「今はそれがせいいっぱいです・・」

 「まあ、贅沢は言いません。黒鋼は難しそうですので、鋼で欲しいものがありますか?」


 「えっと剣と盾とクロスボウは揃ってるから・・まずランスかな・・」

 「ギャギャ(頼みます)」

 「はいな、バランスはこの木製のと同じで良い?」

 「ギャ(もう少し先端を重くできるかな)」

 「了解ですです」


 トンテンカン トンテンカン


 アエンは鋳潰した鋼を木製の心材にコーティングすると、あっという間に成形してしまった。

 「こんな感じで」

 「ギャギャ(おお、持ちやすい!)」

 「「ギャギャ(次、次はわたしのランスを)」」

 順番待ちしていたパイとティーが、我先にと群がってきた。


 「はいはい、順番にやるから慌てない慌てない」

 アエンは難なく依頼をこなしていった。


 「この作業風景だけ見てると、仕事の出来る女鍛冶師なんだけどね・・・」

 「作業中も抱え込んで離さない酒瓶が台無しですな、ジャー」

 水分補給の名目で、良く冷えたエールを飲みながらの鍛冶であった。

 「くうーー、この1杯の為に仕事してるって感じ!」


 ちなみに冷却係として、アイスドレイクチームが交代でブレスを吐いていた。

 「シャーシャー」


 「次は忍者刀をお願いしたいっす」

 「あー、鍛造はまだ無理ですね・・形だけなら鋳造で作れるけど、意味ないでしょ?」

 「残念っす・・なら手裏剣はどうすか?」

 「棒状か十字ならできるよ。ただ研磨する時間がちょっと・・」

 「荒砥ぎなら出来るっす。仕上げを見てもらえればいいっすよ」

 「お、助かりますよ、ではそれで」


 刀を打つには相槌役か、機械鎚が必要で、さらに専用の道具もいるらしい。材料になる高品質の鋼または黒鋼もないし、砥石も種類が必要になってくる。

 「刀はドワーフなら誰でも打てるの?」

 「いえ、1級か特級鍛冶師でないと無理ですね。私だと数打ちが精一杯で、業物は特級鍛冶師でないとなかなか」

 「ちなみに特級鍛冶師ってクランに何人いたの?」

 「3人でした」

 「クランにいた鍛冶師の人数は?」

 「2級も含めて・・35・6人?」

 なるほど、それぐらいの比率なんだね。

 特級鍛冶師、どれくらい生き残っているんだろうか・・




  旧ドワーフ鉱山にて


 「かしらかしらご存知かしら?」

 「知らん」

 「姉さん、相変わらず反応が冷たすぎます!もっとハッスルハッスル!」

 「お前は無駄に、はしゃぎすぎだ」


 ここは「鍛冶場の番人」が支配していたドワーフ鉱山の一角である。ようやくこの全域を支配下においた二人の魔女が、最深部で合流を果していた。


 「状況は?」

 姉のフリージアは寡黙にして沈着冷静、そして敵に投げかける視線は絶対零度と言われ、アイスドールの異名を持っている。


 「えっと、鍛冶師のトップ3のうち、一人は死亡、一人は重傷で引退、最後の一人は逃げ出したみたい」

 妹のフレアは熱血にして勇猛果敢、その分、思考が少し疎かという噂で、ファイアーダンサーの異名で知られていた。


 「無様だな・・」

 「ええ?ドワーフ鉱山まるごと支配したんだよ、快挙でしょう、いやこれはもう壮挙と言うべき?」

 「だが目的は達成されなかった」

 どうやら彼女達は、単なるドワーフ嫌いではなかったようだ。


 「まだいけるって、大丈夫だって、あきらめたら何もはじまらないよ?」

 「ほとんどお前のせいだがな・・」

 妹が調子に乗って、やりすぎたために、ドワーフとその設備に多大な被害がでてしまった。捕獲した生存者の好感度もぶっちぎりでマイナスだった。


 「追うしかないか・・」

 地上へバラバラに逃げ出したドワーフは放っておいても、地下水路を古代帝国の遺産まで使って脱出した数人は、腕も知識も最重要とされたに違いなかった。現に脱出直後に捕獲した一人は、結果としては残念ながら溺死してしまったが、特級鍛冶師だった。ならば残る一人も水路の先にいるに違いなかった。


 「ええ~、でもフレアの眷属だと水中は苦手だよ?ジュワッていうよ、ジュワッって」

 「かまわん、私が送る・・」

 「あ、じゃあフレア、地上に逃げたドワーフ狩りするね」

 「ほどほどにな・・」


 「フレアの辞書に、ほどほどはないんだよ!つねに全力全開、全速前進だってば!」

 「・・ふう・・」


 姉のフリージアは、本日何度目かのため息をつくと、自分の仕事をこなすのであった・・




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