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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第9章 氷炎の魔女編
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死者からの手紙

 「ていへんだ、龍の兄貴・・じゃなかった、龍のお頭!ジャジャー」

 不凍湖の頭と、流れのドワーフ鍛冶師のタングステンが打ち合わせをしている部屋に、若い衆が血相を変えて飛び込んできた。


 「どうした、どっかの組が殴り込みでもしてきたか?」

 「それどころじゃねえんすよ、死人から書状が届きやしたぜ、ジャー」

 「なんだと?見せてみろ」

 若い衆は、そう言われて、木の枝に挟んだ書状を恐る恐る差し出した。


 「直訴状じゃあるましし、何びびってやがる」

 「ですが、お頭、冥府から届いたものを読んで呪われたりしませんですかい?ジャー」

 書状の裏には差出人の名前が書かれていた。


 「下弦の弓月」ハクジャ


 「なるほど・・確かに死人からの書状だぜ・・」



 真剣な表情で読みふける族長を、タングステンは興味深そうに眺めていた。

 「ふう・・」

 族長が一息ついたところで、耐え切れなくなって尋ねてきた。


 「それで、本当に死者からの手紙じゃったのか?」

 「いや、予想通り、死んだと思わせて身を隠していた、昔の知り合いからですよ・・」

 「なるほどのう、それが今頃、墓を抜け出してきたということは、ワシらの所為かのう」

 「まあ、切っ掛けぐらいにはなりましたかね・・しかしそれより問題は・・」

 「ほう、問題は?」


 「その知り合いがダンジョンの眷属になっていることですかね」

 「なんと・・・では助けを求めてきたのか?だとしたらワシらも手を貸すぞ。やつらは宿敵じゃからのう。いくら刈り取っても根っこを残して置くと、翌年にはまた生えてくる雑草のようなやつらじゃ」


 「ああ、ドワーフとは仲が悪かったですか・・・我々はどちらかというと便利な能力を持っている助っ人みたいな感覚ですかね・・でかいダンジョンだとパトロンになったりもしますよ・・」

 「なんと、所変われば品変わるというが、ダンジョンと共存とはのう・・・」

 「帝国時代に、ここいら一帯を治めていたダンジョンマスターがいたらしいんですよ。そのときはリザードマン3000体が、配下になっていたとか・・・」


 「なんじゃそりゃ、そんな化け物みたいな存在が、この地に2勢力も存在できるわけが・・・ああ、そうか・・そういうことか・・」

 「ですね・・ドワーフ側には黙っていたんでしょう、自分がダンジョンマスターであることを・・」

 「・・・『いつでも困ったら頼ってください』・・・そう言われたと伝わっていたが・・・そうか・・・」

 タングステンは遙か遠くを見つめながら、物思いにふけっていた・・・



 「それでまあ、昔の知り合いは他所の部族と抗争していて、その最中に助っ人の魔女に乗っ取られて逆に

殺されたと言われていたんですがね・・」

 「なんじゃと!それはもしや氷炎の魔女!」

 「いえ、『冥底湖の魔女』の方です、噂になったのは」

 タングステンが素早く指で魔除けの印を結んだのが見えた。


 「・・それは最悪じゃろう・・」

 「ところがこれがブラフで、本命の助っ人がダンジョンマスターだったいうオチでしてね」

 「おお、そう繋がるわけじゃな・・1つだけ確認しておくが、そのダンジョンマスター、例の伝説の主ではないのじゃろうな?」

 「さすがにそれはないです。もし彼の方が復活もしくは転生でもされたなら、この辺りの部族が全てまとまって忠誠を誓いかねませんからね・・」

 「そういう言い方をするということは、お主は、そうはせぬということか?」


 「どうですかね・・長老達ほど何も考えずに平伏はしないでしょうが、仕えがいがあるとわかれば・・」

 龍と呼ばれる族長は、先代の族長の面影を脳裏に浮かべていた。

 流れ者だった自分を、妙に気に入って、後継者にまでしてしまった親分肌の族長だった・・・


 「なるほどのう・・・それで、その相手はなんと言ってよこしたのだ?」

 「『ドワーフ娘を一人保護した。できれば小竜会で相談したいので仲介を頼む』だそうです」

 「『小竜会』というのはなんじゃな?」

 「この界隈のフロストリザードマンクランの族長会議みたいなものですね。定員は8名で、欠員が1名あるので、今ちょうどその改選時期です」



 「ふむ・・『アエン』は保護されたというからには無事なんじゃろうのう・・」

 「小竜会に話を持っていくのに、勝手にどうこうはしないでしょうが・・・」

 「何か心配事があるのかな?」

 「そこのクランと抗争していた所が、反撃くらって壊滅したんですよ。今は小竜会にも席を置いている大型クランに吸収されましたがね・・」

 「なるほど、そこが真相を知ったら、騒ぎたてそうじゃのう」

 「まさにその通りです・・」


 二人は、この先に待ち構える面倒事を予想して、深いため息をついた・・・




  その頃のダンジョンでは。


 「鍛冶場がなければ仕事できません!」

 なぜかアエンに怒られていた。


 ハクジャと相談して、昔なじみにこっそり手紙を届けたあと、返事を待つ間にアエンに鍛冶をレクチャーしてもらおうという話の流れになったのだ。

 最初はしぶっていたアエンだったけど、元から仕事中毒ワーカーホリックの気があったらしく、暫く鎚を握っていないこともあり、その気になってくれた。


 フィッシュボーンの一角に用意した部屋には、間に合わせの道具や、鋳溶かして材料に使えそうな武器・防具を運び込んでおいたけれど、肝心の炉がなかった。そこで最初の会話に戻ることになる。


 「冷やすのは得意なんだけど、熱するのは苦手なんだよね・・」

 冬狼のケンや、アイスドレイクのメンバーがしょんぼりしていた。


 「アエンのポケットから『携帯鍛冶場セット』とか飛び出してこないの?」

 青い作業着の前ポケットを見てたら、なんとなくありえそうだった。


 「ドワーフをいったいなんだと思っているんです?」

 「不思議メカニック?」

 「それはノームです・・・」

 ああ、この世界でもノームはそういう扱いなんだね。


 「それにしては謎の脱出艇とか使っていたような・・」

 「あれはクランに伝わる古代の魔道具です。確かに分解して構造を調べてみたりもしますが、たいていは元に戻せなくて・・・」

 「そのまま破棄されたりするんだ」

 「わ、私だけじゃないですよ。前任者もそのまた前任者だって、きっと・・」

 「でも、アエンもやっちゃったんだね?」


 「仕方なかったんです!誰も知らない倉庫から見たこともない魔道具がポロっと見つかったら、分解したくなるじゃないですか」

 「いや、それは僕にはなんとも・・」

 「自信はあったんですよ、手順も確実に記録してたし、無理な破壊はできるだけしなかったし!」

 「少しはしたんだね?破壊・・」

 「だって、溶接してあって、開けられない箱が入ってるんですよ。気になるじゃないですか!」

 「それってブラックボックスだよね。開けちゃダメなやつだよね?」

 「・・自爆装置が作動し始めました・・・」

 「・・・・」


 なんだろう、このドワーフ娘に教えてもらうことに一抹の不安が・・・


 「と、とにかく、鍛冶の基本は炉です。それがないと始まりません」

 そうは言っても、竈と違って薪を燃やすぐらいじゃ温度が足りないだろうし・・・


 「コア、炉って設置リストにある?」

 「なうりーでぃんぐ・・」


 設置リスト:鍛冶場

 簡易炉 レンガ製 25DP

 標準炉 耐熱レンガ製 100DP

 高級炉 特殊耐熱レンガ製 500DP

 溶鉱炉 魔法金属製 5000DP

 ふいご 人力 15DP

 機械式ふいご 75DP

 魔法式ふいご 250DP

 焼きいれ槽 50DP

 焼きいれ槽(2槽式) 100DP

 ツールラック 50DP

 フックレーン 150DP

 ・・・・


 「はい、ストップー」

 鍛冶場のリスト半端ないね。


 「おお、溶鉱炉までできるじゃないですか、ぜひぜひ導入の検討を」

 「却下です」


 「むう、道具に資金を惜しむと半端仕事しかできませんよ」

 「言ってることは理解できますが、限度ってものがあるでしょ」

 「鍛冶とお酒のリミッターはとっくに制限解除してありますですよ」

 これだからドワーフって種族は・・・


 「むう、なんか失礼なことを考えたでしょう」

 「いえいえ、まったく」

 「とにかく最低でも耐熱煉瓦で出来た炉でないと、鋼も打てませんし、ふいごも機械式以上推奨ですね。焼きいれ槽は最悪、水桶でも盥でも代用はできます」

 

 「じゃあ悪いけど、必要最低限でやってもらえるかな。そんなに余裕ないから」

 「ダンジョンってもっと、うはうはに稼いでると思ってました・・」

 「うちは貧乏ダンジョンで有名だからね・・それなのに無制限に酒を飲み干す居候が・・」

 「ゲフン、ゲフン」


 その後はアエンが積極的に協力をしてくれた・・・







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