この左頬の火傷跡が
翌朝は日が昇る前から起き出して、復旧作業を再開した。
丘の斜面は、骸骨工兵に掘られた後で、炎の壁で焼かれてボロボロになっている。それを整地しながら、崩落しそうな箇所は、あらかじめ崩してしまう。耐えられそうな場所は補強もしておく。
整地していると、錆びて壊れかけたスコップや鍬が大量に出土した。骸骨工兵が使っていたもののようだ。再利用はできそうもないので、コアに分解してもらう。
召喚されて工兵として働かされていた骨達は、その炎の壁で焼き尽くされて昇天してしまったようで、遺骨はほとんど残っていなかった。
幾つか燃え残ったり、埋まったままだったものは掘り出して、丘の麓に合同慰霊碑を立てて埋葬しなおした。
エルフのクレリックに略式の祈祷をしてもらったけれど、もし信仰する神でなかったとしても許して欲しい。
天井の抜けた部屋を畑にすると、9mx9mの9マス部屋が、およそ0・8アール、15mx15mの25マス部屋が、およそ2・2アールの広さに相当する。確か中規模農園の作付け面積の基本単位1ヘクタールが100アールに相当することを考えると、農地としては小さなものだ。
まあ、それでも実験農場だと思えば十分なような気がする。ノーミンも現状はこれで満足してくれた。
「もっと農作業に従事するメンバーが増えたら、そのとき考えるだよ」
そういって、今は日照と排水を考慮しながら、あちこちの壁や斜面を削り直している。
「だども、これ上空からは入り込み放題だべ」
「それはしょうがないね。地上からだって斜面を登れば入れるしね」
「それで問題ないだか?まあ畑と考えれば、前はもっと野ざらしだっただども・・」
「外側にあった畑を分厚い土壁で取り囲んだと思ってくれればいいよ。壁を乗り越えて入り込む害獣は、ちゃんと追い払うからね」
「なるほど、ついでにDPに換えるわけだな」
「そうだ、畑の番人も呼んどかないと・・」
「お手柔らかに、お願いするだよ」
やだな、ちょっとキャッチャーを北側にも配置して、案山子を増設するだけだよ・・
「コア、北側の侵入路にもキャッチャーを設置して」
「らいむぎー」
「元のキャッチャーは、再配置で少し形状を変えて、トラップルームまでカバーする感じに」
「はとむぎー」
「キャッチャーと畑にそれぞれ1体ずつの案山子を設置して」
「おろ?」
ん?何か問題起きた?
「りすとー」
ああ、なるほど。案山子にバリエーションが増えたのか・・・
設置リスト(罠:農地防衛)
スケア・クロウ 150DP
スカー・フェイス 200DP
ジャック・オ・ランタン 250DP
ブーギー・マン 300DP
・・・あきらかに後半は案山子じゃないよね・・・
「コア、スケア・クロウ以外の詳しい説明を・・」
「はいなー」
スカー・フェイス(復讐の火傷跡) 放火によって顔に無残な火傷の跡を負った復讐者を模した案山子。耐火及び状態異常付与(恐怖:中)を持つ。
ジャック・オ・ランタン(南瓜頭のジャック) 頭部は南瓜をくり貫いてランタンに加工してある案山子。夜間の警戒と戦闘に補正がつく。同名の妖精とは別物である。
ブーギー・マン(悪夢の使者) 青白いマスクに緑色の中折れ帽子、手には鉤爪をつけた案山子。警戒領域から逃げ出した侵入者の夢の中まで追いかけていき、安眠を妨害する。
なるほど・・一応どれも案山子なんだね。キャラクター案山子というか、呪いの案山子というか・・
コストが高いということは性能も良いんだろうけど、ブーギーマンはなあ・・・
「コア、キャッチャーにはスカー・フェイスを、広い畑3つにはジャック・オ・ランタンを、残りは普通のスケア・クロウで」
「ほいさー」
ちなみに、キャッチャーに設置された2体のスカー・フェイスは、なぜか焦げ跡のある麦藁帽子を被っていた。
「ニヤリ」x2
その頃のダンジョンコールセンター
「それでは君は、今回の干渉について何もしていないと主張するのだね」
黒服の男に詰問されている「貴腐人」がはっきり答えた。
「はい、何もできなかった、というのが正しいかとは思いますが」
「手段があれば指示も無しに介入する可能性もあったというのかね」
「コールセンターに有資格者が常駐していたなら、防げた案件だと具申いたします」
「聞き様によっては上層部批判とも受け取れるが・・」
「いえ、職務を果せなかった事を悔やんでいるだけです」
「なるほど・・では君は、その重要な職務中に、反省房のある特殊区域に出入りしているのだが、それは何故かね?」
「・・・管理者の方々へ、前任者の復職を嘆願に行きました」
「ほう、なるほど、そうきたか・・」
黒服の男と「貴腐人」の視線がぶつかりあう。
「では、君が特殊区域に出入りしたあと、すぐに反省房から何者かが出て行ったのは何故だね」
「質問の意図が不明です。特殊区域への出入りは必ず記録が残るはずです。何者というのはいったい誰のことでしょうか?」
「貴腐人」を睨みつけていた黒服が、舌打ちをして書類をテーブルに叩き付けた。
「よかろう、君はなかなか優秀なようだ。今回の件は不問にふしてやる。だが、次はないぞ!」
無言で頭を下げる「貴腐人」を残して、黒服の男は去っていった。
少し経つと、隣の休憩室の扉がカチャリと開いて、「ドジっ子」が顔を覗かせた。
「お帰りになりましたかあ・・」
「ええ、もう大丈夫です。よく我慢できましたね」
「わたしはこっちで隠れてるだけですから~、『貴腐人』さんだけ怒られて、すいませんでした~」
「貴女がいると、話がややこしくなるので、静かにしていてくれるのが、一番の手助けなんです」
「そうなんですか~、ならお茶を入れますね・・・あああ!薬缶がコンロに掛けっぱなしで、コゲてます~~」
「この臭いからすると薬缶は買い替えですね・・・」
貴腐人は、椅子に腰を降ろすと、テーブルに投げ捨てられた書類を手にとって読んだ。
「特殊区域入退出記録」
07:01 「貴腐人」 入域
07:35 「貴腐人」 退出
07:44 「みらいにっき」 退出
・・・
09:11 「みらいにっき」 入域
「いったいどうやったら、管理コアのチェックを誤魔化せるんでしょうか・・・」
「うふふふ・・」




