復興の足音
「しかし、酷くやられたね」
「丘の半分が無くなったっす」
「なにか我らの居住地を思い出させますな、ジャー」
現在、ダンジョンの復興真っ最中です。
骸骨工兵に掘り起こされた丘は、高さが半分ぐらいになり、1階層のうちの4割が、天井が無い状態だ。
「これ、DPで元に戻せないっすか?」
ワタリが全身包帯のミイラ男になりながら、現場の視察に付いて回っている。まあ、歩けるなら大丈夫なんだろうけど。
「天井を設置することはできるけど、その上に土を盛り直すのは難しいかな・・」
「なるほどっす」
「そうなると、この階層は放棄して、中層以下に手を加えますかな?ジャジャ」
ベテランのハクジャにもダンジョン構築の意見を聞いているところだ。
「んー、それもありなんだけど、畑がね・・」
「ああ、なるほど。確か地下にも耕作地をつくることはできたはずですが、光や水が面倒だった気がしますです、ジャー」
「なんだよね、嫌光性の野菜をつくるならそれでも良いんだけどね」
「ノーミンはどう言ってるっすか?」
「できれば外に畑が欲しいって」
「DP使わずに作物が手に入りますし、害獣駆除で肉も手に入りますから、ジャー」
そういった収穫的な意味合い以外にも、畑仕事がレクリエーションになってるんだよね。主にエキドナチームや穴熊ファミリーに・・・
「どうせ屋根がないなら、広い部屋は畑にしちゃったらどうすか?」
「それだ!」
上層部を放棄すると、外に畑がある場合は、警備するのにかなり不安が残ったんだけど、元の部屋を壁に囲われた畑とみれば、そのまま支配領域化で、監視も召喚警備もできるから問題なさそうだ。
若干、風通しと日当たりが悪くなるかもだけど、暴風や虫害には逆に強そうだしね。
「コア、親方呼んで相談してみて」
「きゅ」
「キュキュ?」
「きゅきゅ」
「キュキュキュ」
こちらの意図をコアから伝えてもらったら、親方が直に図面をひいてくれた。といっても、親方が爪で地面に描いた設計図を、コアが立体投影してくれたんだけど。
「北側の通路は、蜜蜂小屋、リンゴ部屋、その両脇の作業部屋とスノーゴブリンの寝室が露天か・・」
「癒しのリンゴの木は移転しないのですかな?ジャー」
「せっかく日が当たるようになったから、果樹園にでもしようかと」
「ギャギャ(賛成です!)」
アズサがいきなり会話に飛び込んできた。
「アズサ、部屋の片付けは終わった?」
「ギャギャ(はい、崩れた土砂を掻き出すだけでしたので)」
「じゃあ仮で、地下墓地の兵士待機部屋と食堂に引越ししておいて」
「ギャギャ(了解です!あと大量にでたゴミはどうしましょう?)」
「それゴミじゃないっす、オイラの私物っす!」
「ああ、ゴミはコアが吸収しちゃうから、床に転がしといて」
「うぃんうぃん」
コアが某お掃除ロボットのように回転しながら接近してきた。
「ダメっす!蝉の抜け殻も、田螺の巻貝も、マイマイカブリに食われた蝸牛の殻も、全部必要なんす」
「ぎゅいんぎゅいん」
某真空竜巻掃除機のような吸引力で、ガラクタをあっという間に吸収・分解していった。
「あああ、オイラの夏の思い出が・・・」
崩れ落ちるワタリの肩をアサマが優しく叩いた。
「ギャギャギャ(元気だせよ、また取りに行けばいいじゃないか)」
「・・・一緒に行ってくれるっすか・・」
「ギャギャ(それはパス)」
「とほほ」
農地の囲い込みは、専門家のノーミンも呼んで検討する。
「少し狭くなるだども、壁の中なら安心して農作業ができるだよ」
「必要なら部屋を広げて耕地面積を増やすこともできるよ」
「そしたら、ここと、ここ、それからこっち側も少し広げて欲しいだ」
「了解、親方、いけそう?」
「キュキュ」
お墨付きがついたので、作業場とゴブリン部屋、それに反対側の宴会場を掘り広げることになった。
もちろんDPは使わず手堀です。
エキドナチームと穴熊ファミリーが八面六臂の活躍をしてくれています。
「キュウ~~」
とおもったらガス欠だそうです。
そういえば、ダンジョンを掘り起こすのに夢中で、食事がまだだったね。
「日も暮れたし、今日はこの辺で作業を中止して、宴会にしようか」
「キュキュキュ!」 「ギュギュギュ!」
ぽっかりと天井がなくなって、キャンプ場のようになった宴会広間で、邪神教徒撃退記念の祝勝会を開いた。
食事のメニューは定番のステーキや焼き魚に加えて、枝豆の塩茹で、もやしと猪肉の生姜焼き、蜂の子の炒め物などが増えた。
飲み物は、お酒としては蜂蜜酒が完成し、ノンアルコールではジンジャエールと豆乳が、加わった。
酒好きの女子達が蜂蜜酒に群がり、追加追加でさすがに途中で変換中止にした。
「ギャギャ(ほら、皆さんが飲みすぎるからマスターが制限しちゃいましたよ?)」
「アタイはまだ2壷しか飲んでねえぜ~、ジャジャ~」
「ずるいですよ~、私なんかまだ1壷半です~」
「これは親方達の分だ・・こっちは穴熊婦人会に頼まれてだな・・もちろんチョビの分もあるぞ・・」
「これ以上は個人のツケにするからね」
それを聞いた女子会のメンバーの表情から、すーっと酔いが醒めていったのが見て取れた。
「さて、そろそろお酒以外の飲み物にしましょうか・・」
「「「 賛成! 」」」
コアは、直接、吸収していた今までと違って、専用の小さなコップで、蜂蜜酒を飲んでいたので、酩酊するようなことはなかった。
それでもほんのり顔が紅くなっていた・・・
「蜂蜜酒どう?」
「おいしい♪」
「それは良かった。フロストリザードマン達が一生懸命、護ってくれたらしいよ」
「うん」
コアと二人で満天の星空を見ながら蜂蜜酒を飲んでいた・・・
「夏もそろそろ終わりだね・・」
「えんどれすさまー」
「それは嫌だな」




