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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第8章 暗黒邪神教団編
244/478

塵も積もれば

また投稿が日付を跨いでしまいました。申し訳ございませんでした。

 床が文字通り火の海になったトラップルームの消火が済むと、ゴブリンスナイパーチームとモフモフ助け隊の3人は、見えない障壁の様子を覗っていた。

 いままさに怒り狂った神官が、床下の縦穴に向かって攻撃呪文を叩き込んでいるのが見える。


 「あれがこっちに飛んできたりしないよね」

 「あの障壁がウォール・オブ・フォースなら何も通さないはずだ」

 「発生源は壁の向こうか・・・手が出せないな・・」

 床に突き立って障壁をつくりだしているであろう黒い剣は、壁の向こう側である。そうでなければ攻撃呪文などで破壊を試みることもできたのだが・・


 その横ではゴブリンスナイパーチームが念話で会話をしていた。

 「ギャギャ(そうです、こちら側からは透明な壁が邪魔して突破は無理そうです)」

 「了解、狼チームはこっちの護衛に戻ってきて。そちらへは魔法の専門家を送るから」

 「ギャギャ(こちらも移動しましょうか?)」

 「いや、ラムダの護衛をお願い」

 「ギャギャ(了解です)」


 ケン達、狼チームと入れ替わりに、黄色い逆さ妖精竜が飛んできた。


 「あああ、モフモフが・・・」

 「代わりに凄いのが来たぞ・・フェアリードラゴンとか・・信じられん・・」

 「逆さに飛んでいるのは意味があるのか?」


 唖然とする助け隊の前で、ラムダはくるりと回転して呪文をキャストした。


 「無詠唱だと!」

 「でも何もおきないよ?」

 「解呪に失敗したのだろうな・・邪神の結界だ、生半可なLvじゃないはずだ・・」


 ラムダは次のタッチ・ディスペルを放つが、それも失敗に終わった。


 黄色い極小型の蝶の翅をもったドラゴンが、ちらちらしているのに気がついた神官が、壁の向こうで何かを叫んでいる。


 「こちらが障壁を解除しようとしてるのに気がついたみたいだ」

 「フェアリードラゴンを助ける方法さえあれば・・」

 「あれって言ってみれば邪神の力でしょ?こんなのどう?」


 六つ子のレンジャーが、腰のベルトから取り出した、聖水の瓶を障壁に向かって投げつけた。

 

 パリンッ パシャッ シュワワワ


 「お、反応した。いけるぞ」

 「よっしゃ!」x2

 助け隊は、ありったけの聖水を投げつけはじめた。


 「ギャギャ(こちらも何か投げましょう)」

 「ギャギャ(清めの塩)」

 「ギャギャ(魔除けのお面)」

 ゴブリンスナイパーズも手当たり次第に、効き目のありそうな品々を投げつけてみた。


 手持ちの聖水が切れると、助け隊の面々も、怪しげなものまで投げ始めた。

 「厄除けのお守り」

 「ウサギの足」

 「4葉のクローバー」


 「ギャ(竈の灰)」

 「ギャギャ(イモリの黒焼き)」

 「ギャギャギャ(ユニコーンの抜け毛)」


 その瞬間、バシュッという大きな音がして、見えない障壁が消失した。


 「「効いた!!」」


 

 多分ラムダのタッチ・ディスペルが、黒い剣の抵抗を凌駕して、解呪に成功しただけだと思われるが、ひょっとすると地道な援護が、少しだけ可能性を広げたのかも知れなかった。


 その結果いくつかの出来事が、ほぼ同時に起きた。


 障壁が無くなる可能性を考慮していた神官は、準備していた呪文を発動しようとした。

 床下から群体が飛んできて、神官を取り囲んだ。

 障壁に遮られていた、おババの魂の剣が、神官の胸に突き立った。


 「通った!」x3



 おババの剣に、心臓を貫かれた神官は、何かを叫ぼうとした。しかし、その口からはゴボゴボという小さな音とともに、血があふれ出してきただけであった・・・



 「・・・やったのか?」

 「兄さん!それ言っちゃダメ!」


 妹レンジャーの制止も虚しく、フラグは成立してしまった。


 神官の体は強大な重力で爆縮されたように漆黒の球体となり、一度だけ明滅すると、ふっと消えてしまった。


 「逃げられた!」

 「力尽きたのではなく?」

 「最後の明滅は転移系の発動の可能性が高い」


 「ギャギャ(神官がグサッで、メキョで、ヒュンです!)」

 「落ち着いて、こっちのモニターにも反応はないから、外に逃げたんだと・・」

 「ずもももも」

 「え?重力波感知したって?場所は?」

 「ぴしっ!」


 コアがどこからか取り出した指示棒で、投影スクリーンに映し出されたダンジョンの3Dマップの一点を指し示した。


 「癒しの泉・・・デスナイトかよ!」




 その頃、ノーミンに増強の呪文の援護を受けたポチが、デスナイト相手に無双していた。


 騎馬同士が短い距離でぶつかりあったが、突き進んでくる骸骨騎乗馬の鼻面に、左のパンチが炸裂した。

 「ガウ」

 それだけで、骸骨騎乗馬の突進は止まり、首が嫌な角度で折れ曲がってしまった。


 すかさず右のパンチが繰り出された。

 「ガウ」

 それをデスナイトが自分の盾で庇うが、盾はひしゃげて使い物にならなくなってしまった。


 止めの噛み付き攻撃は、遮るものもないまま、骸骨騎乗馬の上半身を噛み砕いてしまった。

 「ガガウ」


 崩れ落ちる愛馬の背から、デスナイトはひらりと飛び降りて、水浸しの床に降り立った。

 ジュウジュウと音をたてて足首が変色していくが、デスナイトはその苦痛を表情に出すことはなかった。


 愛馬を失った骸骨騎士に対しても、ポチの猛攻は続く。


 「ガウ」 「ガウ」 「ガガウ」


 盾を捨てたデスナイトは、黒い剣を両手で構えて反撃するが、それはロザリオが、ガーディアン・シールドのスキルを使いながら防御した。

 「ポチ、攻撃は任せたぞ。ここからだとランスでもないと下の敵に届かないのだ」

 ポチは体高が5m以上あった・・


 十数度目の打ち合いのあと、とうとうデスナイトが力尽きた。

 ポチの右パンチが、頭蓋骨を叩き潰したのである。


 ゆらりと両膝から崩れ落ち、そのまま前のめりに倒れ込む・・・・はずだった。



 「ロザリオ!そっちにヤバイのが出現するかも」

 「主殿、デスナイトなら倒したぞ・・・いや、訂正だ、どうやらもう一幕あるらしい・・」


 ロザリオの目の前で、骸骨騎士の心臓部分に漆黒の球体が出現していた。

 ボロボロになった手足の骨が、瞬く間に再生し、失われた頭蓋骨までもが元通りに戻った。

 落ち窪んだ眼窩には、妖しい紫色の炎が灯り、カタカタと顎を鳴らしながら、それは聞き取り辛い共通語を喋り始めた。


 「ケケケケケ、マダダ、マダオワッテイナイ。ワタシハ、マダ、マケテイナイ、ケケケケ」


 そう言い放つと、暗黒神官騎士は、黒の剣を天井に向けて突き上げた。

 「イデヨ、シシャノ、ドレイタチヨ。ナンジラノ、アルジノ、メイニシタガエ!」


 すると天井の土壁を突き崩して、十数体のスケルトンが、姿を現した。彼らはそれぞれ、鍬や鋤、スコップなどを手にしていて、粗末な布の服の切れ端を身にまとっていた。

 そして両足を天井に埋め込んだまま、逆さ吊りの状態で、手にした道具を投げつけてきた。


 「ポチ!ホーリーシャワーだ!」

 「ガウガウ」

 再び、ポチが身体を震わせて水を飛ばすと、天井に張り付いたスケルトン達は、すべて落下してきて、浄化されてしまった。


 「ケケケ、ココデハ、フリナヨウデスネ。デスガ、ソトナラ・・」

 「むざむざ逃がすと思っているのか!」

 ロザリオはポチと突撃するが、それを天井から落下してきた土の塊が邪魔をした。

 その隙に、暗黒神官騎士は、転移してしまった。


 天井を見上げると、まだ何体ものスケルトンが、土中から這いずりだそうとしていた。

 「あの豚男爵め、いったい何人の罪も無い人々をここに埋めたのだ・・・」


 




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