塵も積もれば
また投稿が日付を跨いでしまいました。申し訳ございませんでした。
床が文字通り火の海になったトラップルームの消火が済むと、ゴブリンスナイパーチームとモフモフ助け隊の3人は、見えない障壁の様子を覗っていた。
いままさに怒り狂った神官が、床下の縦穴に向かって攻撃呪文を叩き込んでいるのが見える。
「あれがこっちに飛んできたりしないよね」
「あの障壁がウォール・オブ・フォースなら何も通さないはずだ」
「発生源は壁の向こうか・・・手が出せないな・・」
床に突き立って障壁をつくりだしているであろう黒い剣は、壁の向こう側である。そうでなければ攻撃呪文などで破壊を試みることもできたのだが・・
その横ではゴブリンスナイパーチームが念話で会話をしていた。
「ギャギャ(そうです、こちら側からは透明な壁が邪魔して突破は無理そうです)」
「了解、狼チームはこっちの護衛に戻ってきて。そちらへは魔法の専門家を送るから」
「ギャギャ(こちらも移動しましょうか?)」
「いや、ラムダの護衛をお願い」
「ギャギャ(了解です)」
ケン達、狼チームと入れ替わりに、黄色い逆さ妖精竜が飛んできた。
「あああ、モフモフが・・・」
「代わりに凄いのが来たぞ・・フェアリードラゴンとか・・信じられん・・」
「逆さに飛んでいるのは意味があるのか?」
唖然とする助け隊の前で、ラムダはくるりと回転して呪文をキャストした。
「無詠唱だと!」
「でも何もおきないよ?」
「解呪に失敗したのだろうな・・邪神の結界だ、生半可なLvじゃないはずだ・・」
ラムダは次のタッチ・ディスペルを放つが、それも失敗に終わった。
黄色い極小型の蝶の翅をもったドラゴンが、ちらちらしているのに気がついた神官が、壁の向こうで何かを叫んでいる。
「こちらが障壁を解除しようとしてるのに気がついたみたいだ」
「フェアリードラゴンを助ける方法さえあれば・・」
「あれって言ってみれば邪神の力でしょ?こんなのどう?」
六つ子のレンジャーが、腰のベルトから取り出した、聖水の瓶を障壁に向かって投げつけた。
パリンッ パシャッ シュワワワ
「お、反応した。いけるぞ」
「よっしゃ!」x2
助け隊は、ありったけの聖水を投げつけはじめた。
「ギャギャ(こちらも何か投げましょう)」
「ギャギャ(清めの塩)」
「ギャギャ(魔除けのお面)」
ゴブリンスナイパーズも手当たり次第に、効き目のありそうな品々を投げつけてみた。
手持ちの聖水が切れると、助け隊の面々も、怪しげなものまで投げ始めた。
「厄除けのお守り」
「ウサギの足」
「4葉のクローバー」
「ギャ(竈の灰)」
「ギャギャ(イモリの黒焼き)」
「ギャギャギャ(ユニコーンの抜け毛)」
その瞬間、バシュッという大きな音がして、見えない障壁が消失した。
「「効いた!!」」
多分ラムダのタッチ・ディスペルが、黒い剣の抵抗を凌駕して、解呪に成功しただけだと思われるが、ひょっとすると地道な援護が、少しだけ可能性を広げたのかも知れなかった。
その結果いくつかの出来事が、ほぼ同時に起きた。
障壁が無くなる可能性を考慮していた神官は、準備していた呪文を発動しようとした。
床下から群体が飛んできて、神官を取り囲んだ。
障壁に遮られていた、おババの魂の剣が、神官の胸に突き立った。
「通った!」x3
おババの剣に、心臓を貫かれた神官は、何かを叫ぼうとした。しかし、その口からはゴボゴボという小さな音とともに、血があふれ出してきただけであった・・・
「・・・やったのか?」
「兄さん!それ言っちゃダメ!」
妹レンジャーの制止も虚しく、フラグは成立してしまった。
神官の体は強大な重力で爆縮されたように漆黒の球体となり、一度だけ明滅すると、ふっと消えてしまった。
「逃げられた!」
「力尽きたのではなく?」
「最後の明滅は転移系の発動の可能性が高い」
「ギャギャ(神官がグサッで、メキョで、ヒュンです!)」
「落ち着いて、こっちのモニターにも反応はないから、外に逃げたんだと・・」
「ずもももも」
「え?重力波感知したって?場所は?」
「ぴしっ!」
コアがどこからか取り出した指示棒で、投影スクリーンに映し出されたダンジョンの3Dマップの一点を指し示した。
「癒しの泉・・・デスナイトかよ!」
その頃、ノーミンに増強の呪文の援護を受けたポチが、デスナイト相手に無双していた。
騎馬同士が短い距離でぶつかりあったが、突き進んでくる骸骨騎乗馬の鼻面に、左のパンチが炸裂した。
「ガウ」
それだけで、骸骨騎乗馬の突進は止まり、首が嫌な角度で折れ曲がってしまった。
すかさず右のパンチが繰り出された。
「ガウ」
それをデスナイトが自分の盾で庇うが、盾は拉げて使い物にならなくなってしまった。
止めの噛み付き攻撃は、遮るものもないまま、骸骨騎乗馬の上半身を噛み砕いてしまった。
「ガガウ」
崩れ落ちる愛馬の背から、デスナイトはひらりと飛び降りて、水浸しの床に降り立った。
ジュウジュウと音をたてて足首が変色していくが、デスナイトはその苦痛を表情に出すことはなかった。
愛馬を失った骸骨騎士に対しても、ポチの猛攻は続く。
「ガウ」 「ガウ」 「ガガウ」
盾を捨てたデスナイトは、黒い剣を両手で構えて反撃するが、それはロザリオが、ガーディアン・シールドのスキルを使いながら防御した。
「ポチ、攻撃は任せたぞ。ここからだとランスでもないと下の敵に届かないのだ」
ポチは体高が5m以上あった・・
十数度目の打ち合いのあと、とうとうデスナイトが力尽きた。
ポチの右パンチが、頭蓋骨を叩き潰したのである。
ゆらりと両膝から崩れ落ち、そのまま前のめりに倒れ込む・・・・はずだった。
「ロザリオ!そっちにヤバイのが出現するかも」
「主殿、デスナイトなら倒したぞ・・・いや、訂正だ、どうやらもう一幕あるらしい・・」
ロザリオの目の前で、骸骨騎士の心臓部分に漆黒の球体が出現していた。
ボロボロになった手足の骨が、瞬く間に再生し、失われた頭蓋骨までもが元通りに戻った。
落ち窪んだ眼窩には、妖しい紫色の炎が灯り、カタカタと顎を鳴らしながら、それは聞き取り辛い共通語を喋り始めた。
「ケケケケケ、マダダ、マダオワッテイナイ。ワタシハ、マダ、マケテイナイ、ケケケケ」
そう言い放つと、暗黒神官騎士は、黒の剣を天井に向けて突き上げた。
「イデヨ、シシャノ、ドレイタチヨ。ナンジラノ、アルジノ、メイニシタガエ!」
すると天井の土壁を突き崩して、十数体のスケルトンが、姿を現した。彼らはそれぞれ、鍬や鋤、スコップなどを手にしていて、粗末な布の服の切れ端を身にまとっていた。
そして両足を天井に埋め込んだまま、逆さ吊りの状態で、手にした道具を投げつけてきた。
「ポチ!ホーリーシャワーだ!」
「ガウガウ」
再び、ポチが身体を震わせて水を飛ばすと、天井に張り付いたスケルトン達は、すべて落下してきて、浄化されてしまった。
「ケケケ、ココデハ、フリナヨウデスネ。デスガ、ソトナラ・・」
「むざむざ逃がすと思っているのか!」
ロザリオはポチと突撃するが、それを天井から落下してきた土の塊が邪魔をした。
その隙に、暗黒神官騎士は、転移してしまった。
天井を見上げると、まだ何体ものスケルトンが、土中から這いずりだそうとしていた。
「あの豚男爵め、いったい何人の罪も無い人々をここに埋めたのだ・・・」




