騎兵隊はたいてい遅れてくる
深い森の中を、重い鎧を着込んだ騎士達が、黙々と行進していた・・・
騎士達は一列に繋がりながら、獣道を突き進んで行く。その先頭には騎士とは違い、軽装の鎧に身を包んだ男女の冒険者がいた。彼らは道案内をするかのように、騎士の一団を率いていた・・・・
男の冒険者より、頭一つは背の高い、女蛮族の背中には、とうに自力で歩くことを放棄した、少女が張り付いている。残りの一人が見当たらないが、たぶん斥侯として単独行動をしているのであろう・・
そこに一団より先行していたレンジャーが駆け戻ってきたようだった。
「誰だ!」
聖堂騎士団の小隊長が誰何するが、接近してきたのが馴染みの冒険者であることを確認して、緊張を解いた。
「シーカー1だ、報告したいことがある」
「隊長は列の中央だ、行っていいぞ」
レンジャーは、仲間にうなずいてから、列の中央へと移動していった。
「そういや、そろそろか」
「はの字の足なら、例の丘が見える場所まで行って帰って来たぐらいさね」
「あの様子だと、敵が待ち伏せしてたとかではなさそうね・・」
途中で合流した聖堂騎士団の本隊とともに、オークの丘へと強行軍している4人組であった。
そして・・・
騎士団の隊列の一番後方には、ロープで簀巻きにされて、荷物のように馬の背に縛られて運ばれている、男女の冒険者がいた。
「ねえ、なんでワタシら捕まってるの?」
「ヤバイ物を運んでたからだろ・・」
「じゃあ、なんで来た道を戻ってるの?」
「村に護送する人員が足りなかったからだろ・・」
「ちゃんと説明したのに、なんで信じてくれないんだろ?」
「お前が、『ハリモグラにプレゼントされました』って素直に言ったからだろ・・」
なお、人族殺しのボルトを含めた装備一式は、聖堂騎士団に没収されてしまっていた。
「ねえ、没収された装備、返してもらえるかな?」
「嫌疑が晴れなきゃ無理だろ・・」
「・・やっぱり、『ハリネズミ』にしとくべきだったかな?」
「そこじゃないだろ・・」
いつの間にか、馬が行軍に合わせて足を止めていた。
レンジャーは、足早に騎士団の隊長に近づくと、声をかけた。
「シーカー1だ、報告に戻った」
「ご苦労、様子はどうだ?」
「鷹の目をかければ視認できる位置まで行ったのだが、状況が切迫していたので、急ぎ報告に戻ることにした」
「状況が切迫とは?」
「オークの丘の上に、3本の黒い棒のようなものが宙に浮かんでいるのが見えた・・」
「黒い棒・・・まさか剣ではないだろうな!」
「わからん、すぐに溶けて雨のように降り注いでいた」
その報告を聞いた、騎士団の隊長は難しい顔をした。
「もし、それが黒い剣だった場合、すでに事態は最悪の一歩手前まで来ているということだ」
「邪神が復活するのか?」
「まだだ、だがその準備が整ったと見るべきだろう。黒い剣、たぶん剣であっているはずだが、それは使徒の剣と呼ばれるもので、邪神教徒が13人、自爆すると出現すると言われている」
「だとすると、ほぼ壊滅したはずだが・・」
「全滅して剣だけ現れたのなら良いのだが、3本しかなくて、それもすぐに変形したなら、操っている邪神教徒がまだいるはずだ」
レンジャーは最後に見た黒い剣の様子を思い出そうとした。
「あの剣で何ができるんだ?」
「いろいろだ。我等が確認しているだけで、即死攻撃、転移、上位召喚、上位結界などがある。だいたい13階位の高位呪文相当のことが可能だと想定されている」
「むちゃくちゃだな・・」
「それを13本だ・・」
起こり得る状況を考えると、残された時間はあまりに少なかった。
「だが、その話を聞いて覚悟が決まった」
騎士団の隊長は、すぐさま小隊長を呼び集めた。
「シーカー1の情報により、邪神出現が近いことがわかった。これより、専用騎乗馬を召喚できる者だけで早駆けをする。残りの者は徒歩で後を追え」
その命令には、多くの騎士が無念の唸りを上げた。専用の騎乗馬を召喚できるのは、聖騎士の中でも小隊長クラス以上でないと資格がなかったからだ。
「俺がライディング・ホース(乗用馬)なら4頭、召喚して操れるが?」
置いていかれそうになった騎士達が、一斉にレンジャーを注視した。
「とはいえ、重装備なら1頭で一人しか運べないぞ。俺たちで2頭使うしな・・」
レンジャーは、先に自分達の分は確保しておいた。どちらにしろ彼が一緒に行動しなければ、召喚した馬が消え去ってしまうのだが・・
「「構わん!鎧はこの場に置いて行く。剣と盾ぐらいの装備なら二人乗りができるだろう?なっ!」」
じりじりと取り囲んでくるが、誰を乗せるかで大いにはいはいもめそうな雰囲気だった。
と、そこへ・・
「はい、はい、ワタシも召喚できますよ~。なんと5頭も」
簀巻きにされた女ドルイドが、必死にアピールしていた。
「あれは信用できるのか?」
レンジャーが隊長に尋ねた。
「ううむ・・邪神の信徒でないことは判別できるのだが、雇われたり、義理で協力している者は区別がつかないのだ。嘘はついていないようなのだが・・」
とはいえ、戦力が倍増することを考えれば、自ずと答えは決まっていた。
急いで部隊の編成が行われ、パラディン・ホース4頭とライディング・ホース9頭の騎兵隊が誕生した。
5頭増えたことで、重装鎧を放棄すれば全員が移動可能になったが、果たして防御力が著しく低下した騎士を戦場に投入する意味があるのかという意見により、5名が装備を回収しつつ徒歩で追いかけることに決まった。
ちなみに簀巻きにされた男の冒険者は、人質として残されかけたが、治癒呪文が使えることをアピールして、なんとか騎兵隊に同行を許された。
シーカー達は軽装なので、1頭に二人ずつ乗り込むことになる。
「で、そっちは馬がため息ついているんだが、相乗りするメンバーを交換しなくて大丈夫か?」
「ああ、ちょいと重いかもしれないが、召喚馬には頑張ってもらうさね」
「そうそう、俺も馬に蹴られて死にたくないから」
レンジャーの後ろで、しっかりと腰に手を回している魔法少女が呟いた。
「なによ、アタシは一番乗馬の上手い騎手のとこに乗ってるだけなんだからね・・」
「よくわからんが、準備ができたら行くぞ。獣道を早駆けだ、しっかり掴まってろ!」
「うん!」
先導役のレンジャーが操る乗用馬を先頭に、13頭の騎兵隊が出発した・・・
中央に位置する馬群には、手枷と首枷を填められた六つ子の二人が、必死に乗馬を操っていた。
「ねえ、なんか不吉な数字じゃない?」
「フラグたてるなよ・・・」




