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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第8章 暗黒邪神教団編
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ラプラスの干渉

 コアルームの中は惨憺たるありさまだった。

 老人が自爆する直前に変換された、真水の入った樽が20個、台座を取り囲むように2段に積み上がって出現し、爆風でなぎ倒された。

 至近距離で発生した火炎弾以上の火力は、水の壁と等しい樽の列で防げたが、爆発で破壊された樽の破片が飛散して部屋中を暴れまわった。

 さらに、樽の壁のない方角では、火災が発生したが、それは壊れた樽が撒き散らした水が、スプリンクラーの代わりになって鎮火した。


 中央の台座の足元には、内側に倒れ掛かってきた水の樽の直撃を受けて気絶したダンジョンマスターと、その下敷きになっているダンジョンコアがいた。

 吹き飛んだ扉の残骸の側には、壁にもたれかかる様に神官服の男が立っていた。

 部屋の隅には黒焦げになったスノーゴブリンが倒れていた。


 その中で、最初に動き出したのは・・・神官服の男であった。


 「ふう、火炎に対する防御は、2重に掛けておいたのですが、樽の破片が散乱するとは想定外でしたね」

 素早く室内を見渡すと、神官は状況を把握した。


 「老人が亡くなって、13人の信徒が自分を生け贄に捧げた・・・ならば、経典に記された通り、『信徒の剣』が現れているはずですが・・・」

 頭上を見上げると、見えないはずの外の様子が認識されて、宙に浮かぶ13本の黒い剣があるのが理解できた。そして、その剣と自分との間に魔力的な繋がりがあるのが感じられた。


 「おおお、素晴しい!これが神の剣、神の祝福、そして我が覇業を叶える神の御力!」

 だが、13本の剣には、彼以外にも使用権利を有する者が存在した・・

 「まずは邪魔者を消しておきましょう・・・逝け!」

 神官が指を指して思念を送り込むと、黒い剣の1本が、老婆の胸に突き刺さった。


 「はははは、素晴しい、我が意のままに奇跡を起こす13人の殉教者というわけですね、ははは」

 しかし老婆は剣で胸を貫かれたままで、反撃をしてきた。

 「くっ、流石にしぶとい・・剣よ我を護れ!」

 ギリギリで黒の剣同士を相殺させることができた。


 「死に損ないにはもったいないが、止めは刺しておくか・・逝け!!」

 しかしその攻撃は、飛び込んできたメイドに防がれてしまった。

 「ちっ、邪魔が入ったか・・だが、これでメイドも除外できた。次は外さんよ・・くっ・・防げ!」

 老婆に止めを放つはずの黒い剣を、神官は通路に突き立てた。すると、見えない障壁が出現し、通路からコアルームに飛び込もうとした狼の群を遮断した。

 冬狼が牙を突きたて、爪で引き掻き、ブレスを浴びせようとも、その障壁は壊すことが出来なかった。


 「メイドは死亡、漁師も爆死、老婆もすぐに追いかけるに違いない・・・だとすれば、もう願いは3つとも私のものというわけですね・・」

 神官が、床に倒れ伏しているダンジョンマスターに目を向けた。


 「気絶しているうちに捧げてしまいましょう。それが私が君に贈る慈悲という名の感謝と思ってください・・・ははははは」

 高笑いをしながら指を振り下ろそうとした、その時、ダンジョンマスターの前に浮遊するコアが立ちはだかった。


 「だめーー!」


 明滅しながら何かを召喚しようとするが、空間操作を阻害する結界はいまだに作用していた。


 「だったら!」

 何かを変換しようとしたコアの直前の床に、黒い剣が突き立った。それだけで、変換の機能が停止してしまう。

 「なぜ?!」

 戸惑うコアの周囲に次々と黒い剣が突き立っていく。それが4方を囲んだとき、コアの機能は全て停止した・・・


 「ラプラスの魔法陣です・・4本も使わされるとは驚きましたが、もう何もできないでしょう。そこで静かにしていてください。先に貴方を壊してしまうと、そこの人族の生け贄としての価値が無くなるんですよ・・ああ、心配しなくてもすぐに一緒に送ってあげます。なにせ私は寛大ですからね・・・ははは」



 その声は、もうコアには聞えていなかった・・・




 ビー ビー ビー

 規則正しい警戒音が、コントロールセンターに鳴り響く。待機していたオペレーターが、驚いて端末をオンにする。


 「ははい、こちらコールセンターです。ただいま非常事態中につき回線が込み合っております。ど、どうしたら良いのでしょうか?」

 「お馬鹿さん、カスタマーに対処方法を聞いてどうするのよ。あと非常事態とか問題発言しないように。すぐに接続を切って!」


 「あ、はい、ええと、そうなんですか? はい、ありがとうございます。やってみます!」

 「『貴腐人』さん、このブザーは、ラプラスの悪魔の干渉が観測されたときのものだそうです。急いで干渉の起きた場所に権限者を送り込みなさいって、教えてくれました!」


 いったいどこに繋がったというのよ・・・

 でもラプラスの干渉が本当なら、1級災害指定で間違いないし、マニュアルでもそうなっている・・

 「すぐに該当地点の割り出しを・・・いえ、それは私がやります。貴女は・・・お茶を淹れてきて・・」

 「はい、喜んで~」

 珍しく転ばなかった「ドジっ子」を見送りながら、「貴腐人」は、データにアクセスした・・・


 「ラプラスの干渉が観測された地点は・・・Nフィールド・・C206エリア・・ポイント『オークの墓』・・・彼女のダンジョンじゃない!!」


 今はここに居ない上司が、いつも気にしていた後輩のダンジョンコア・・・人付き合いが苦手で、いつも部屋の隅で一人で本を読んでいた・・・。ほとんど喋らないから、ついたコードネームが「無口」。

 そんな彼女も、物好きなマスターに選ばれて、ダンジョンコアの役目を果していたはずだったのに・・・


 「大変です!コアさん、助けにいかないと!」

 「どうやって!」

 「どうやってって、偉い人を、えいやあって、送るんですよね・・」

 「その偉い人が居ないのよ!私には代理権限だけで、現地への干渉は許可されてないの!」

 「えええ?じゃあ、じゃあ、どうするんですか?」

 「どうしようもない、どうにも出来ないのよ! 委員会のお偉方が事態に気がついて、処理しようという気にならない限り」

 「でも、それじゃあ、コアさん、どうなっちゃうんですか・・」


 私はそれに答えることは出来なかった・・・ 

 

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