それぞれの道、それぞれの意思
「撃ち方、止めー」
「やめーー」
北の入り口から侵入しようとした邪神教徒を、一時的に撃退した。7人パーティーだったけど、前衛の片方を落とし穴の連鎖と毒針で倒し、術者一人を遠距離狙撃で倒した。
「ギャギャ(この新型クロスボウの威力すごいです)」
「ギャギャギャ(照準も狂いがないし)」
「ギャギャ(静穏性も申し分ないな)」
黒鋼のクロスボウ・カスタムを手にしたゴブリンスナイパー達が、うっとりと高性能な武器を磨いていた。
一人だけ仲間外れにされて落ち込んでいたけれども・・・
「いいっすよ、どうせオイラは味噌っかすっす。隅っこでじゃが芋の皮を剥いているのがお似合いっす」
あ、じゃあ一樽分お願いするね。新しいじゃが芋料理にも挑戦したいから・・
「しくしくしく」
「主殿、輜重兵に転属したワタリは置いておいて、クロスボウカスタムの有用性は十分証明されたのだから、DPが入り次第、順次導入してもらえるのだろう?」
「そうだね、コストに見合う性能があるから、余裕が出来たら希望者には配備するよ」
「よし、そうと決まれば、邪教徒退治だ。残り5人だったな」
「張り切るのはいいけど、無茶はしないようにね。残っているのは幹部クラスだと思うから」
「しかし、メイドとかいたぞ・・」
「居たね・・」
前衛も、重装戦士とかでなくて、樵と漁師風だった。そしてメイド・・・
「邪神教団も人集め大変なのかな・・・」
「へいっくしょん! 大きなお世話じゃ・・」
「おババ様、風邪を召されましたか?」
「誰ぞ、よからぬ噂をしてるのじゃろうて」
老婆とメイドが吹きさらしでお茶を飲んでいた。簡易テーブルと折り畳み椅子、それにティーセットは、やはりメイドがスカートの中から出したものだ。
「だから、そのサイズのテーブルをどうやって出したんだよ」
どうしても気になるのか、漁師が再び突っ込みを入れてきた。
「どれも携帯用に折り畳める種類です。問題ありません」
「折り畳んでさえ、二抱えはあるだろうが。おかしいんだよ」
「スカートに入る物でしたら、取り出すことも可能です。物理的にも理論的にもまったく矛盾しません」
「じゃあ、なにか? 牛を一頭隠せたら、そこから出てくるって言うのかよ」
「もちろんです、なんなら今、出しましょうか?」
「・・けっこうです・・」
打ちひしがれた漁師とは反対に、老婆はミルクティーの入ったカップを片手に賞賛した。
「なるほど、このミルクが新鮮なわけじゃ。良い仕事をするのう」
「お褒め頂、光栄です」
そこに熱に浮かされたように突入作戦を立案していた老人と神官の二人が戻ってきた。
「作戦が決まったぞ。あそこから強行突入じゃ」
老人が指差したのは、ライ麦畑に隠された洞窟であった・・・
聖堂騎士団野営地にて
殉死した6名のうち、遺体の残った4名を簡易ながら埋葬し、他の2名の冥福を祈った。
伝令を暗殺した二人の邪神教徒は、包囲網から脱出できずに、その場で爆死した。その余波で足元に倒れていた瀕死の騎士が焼死したが、魂の喪失は免れた。
遺体を確認できなかった伝令の1名と、呪いを掛けられて味方殺しの罪を負った、もう一人の伝令の魂は、救うことができなかった・・
「隊長、出立の準備が整いました」
4個小隊24名のうち、すでに9名が命を落とした。全て私の責任だ・・・
「隊長・・ご命令をお願いします」
残り15名で追跡を続けるのは無謀といえる。敵はたった2名で1個小隊を壊滅できるのだから・・
「隊長・・・」
「だが、ここで立ち止まるわけにはいかぬのだ!」
「隊長!」
「シーカーの連絡によれば、彼らも邪神教徒と遭遇し、2名を撃破したそうだ」
「「おおお」」
「我ら聖堂騎士団は、これよりシーカーと合流し、敵本隊へ強襲をかける!」
「「正義は我等と共に!!」」
その頃の六つ子
「ねえ、なんか怪しげな梟が追いかけてくるんだけど」
「邪神教徒の使い魔か?」
「どっちかっていうと、ご同業?」
「なんで冒険者が、夜中に隠れて疾走する同業者を追いかけて来るんだよ」
「・・怪しいからだと思う」
「なるほど」
「ねえ、接触して説明した方が良くない?」
「しかし、信じてもらえるか?ハリモグラから贈られた危険物をギルドに届けに行く途中ですって」
「・・・無理かな・・」
「だろ」
「思ったより、ねばる。これ術者も移動してきてるね」
「追いつかれそうか?」
「それは大丈夫、振り切れないだけで、速度はほぼ一緒」
「ならビスコ村まで、このまま行くぞ」
「了解」
だが、彼らは知らない。その行く先には聖堂騎士団が行軍していることを・・・




