19人もいた
「・・生け贄の炎が・・2つ・3つ・・4つ灯った・・」
占い師が、手元の水晶球を見ながら呟いた。
「ご老人、どうやら間に合わなかった4人は、全てたどり着く前に果てたようです」
「ううむ、彼らなら騎士団を出し抜いて追いついてくれると信じておったが・・・相手が悪かったか・・」
落ち込む老人に神官が答えた。
「もしくは、功に逸って深入りしたのかと」
「それもあるか・・どちらにしろ、これで我等はここに集った7名のみとなった」
老人は、王都では19名いた仲間のうち、最後まで残った6人の顔を見渡した。
老婆は、自分が倒れたときの牽引役として副長を任せている。
神官は、参謀役だ。冷静沈着な男だが、少し線が細いので、荒事には向かない。
占い師は、行動の指針を判断してくれる。また仲間の状況を把握できるのも強みだった。
樵は、肉体労働の専門家だ。立ち塞がるものは、大木であろうと騎士であろうとなぎ払う。
漁師は、樵と同じく労働班で、銛を主武器に使っている。
最後にメイドは・・・家事担当だ。彼女が何故ここにいるのかは謎だ。邪神教徒であることは間違いないのだが、彼女にだけは他の仲間が持っている、焦燥感や狂気が感じられない。何を望んで入信したのかも誰も知らない。
何度か、敵の密偵か、無自覚のマーカーなのかと疑ったが、その痕跡はなかった・・・
まあ、我ら全員、お互いに隠していることの10や20は普通にあるので、詮索は止めにした。
それにどんな過去を持ち、どんな意図を持っていたとしても、役に立つことにはかわりが無かった。
「これより我等は聖地の奪還を行う。そしてこの地を拠点とし、聖堂騎士団を迎え撃ち、その魂を生け贄に捧げることで、今一度、我等が神にご降臨いただくのじゃ」
老人の言葉に、残りの6名が頷いた。
「先頭は樵と漁師、2列目に神官と占い師、3列目がワシとババ、最後尾にメイドじゃ」
「ご老人、私を3列目に入れてもらえますか?援護の呪文が掛け辛いので・・」
「ふむ、良かろう。ワシと代われ。他に不満のある者はいないか?」
「はい、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「メイドは後方の警戒じゃな。後ろから襲われたらできるだけ身体を張って耐えてくれ。その隙にこちらで何とかする」
酷いことを言われたにも関わらず、メイドは平然とその指示を受け入れた。
「了解しました。後方からの奇襲に備え、パーティーの盾となります」
そういうとメイド服の裾の長いスカートの下から、大きなカイトシールドを取り出した。
「おい、その盾はどこから引っ張り出した。あきらかに寸法がおかしいだろうが」
漁師が、メイド服のスカートに納まりきらないサイズの盾に、突っ込みをいれた。
「どこから出したかはメイドの秘密です」
「メイドの秘密って・・魔法の鞄でもなけりゃ無理な芸当だろうが」
「これぐらいメイドの嗜みです」
漁師は納得いかなかったが、老婆と占い師は、うんうん頷いていた。どうやら女性には当たり前のことだったらしい。
「優秀なメイドなら、それぐらい出来てあたりまえじゃな」
「そうですよね、メイドのスカートの中は亜空間ですから」
それを聞いた4人の男性は同じ事を思った。
「・・嘘くせー・・」x4
オークの丘が見渡せる丘にて
邪神教徒の集団が、オークの丘に到着する前に遡る。
六つ子の5人は、ハリモグラから託された、禍々しい気配を放つ1本のクロスボウ・ボルトを目の前にして途方にくれていた。
「どうしよう、これ」
「持ち歩くだけで犯罪者に間違われるぞ」
「押し付けられたな・・」
「どうにか処分してくれって事かもよ」
相手の意図もわからなければ、入手先も不明であった。まあほぼ間違いなく邪神教団の持ち物だったのだろうが・・
「紐で結んで運んできたのだから、俺達に渡すつもりだったのは間違いないと思う」
リーダーが重い口を開いた。
「どうせだから、邪神教徒にでも使うか?」
「効くのかな?人間止めてるって噂だよ・・」
「種族は変ってないだろう。ただし即死系は耐性があるかもな。もともとが奴らの得意技だ」
「そうか、下手するとこれを撃たれていたかも知れないんだ・・」
六つ子のテンションが下がった・・
「まあ、とにかく使われる前に回収できたのは僥倖だな。そして目標が誰であろうと、これを使うことはモラルに反する行為だ」
「だね、使ったという事実は残るから、暗殺者の嫌疑をかけられるかもね」
「じゃあ、どうする?そこらに埋めとくか?」
「それで良いならハリモグラがわざわざトンネル掘って届けたりしないだろう」
「そうか・・これってメッセージなんだ」
「どんな?」
「『無闇に人族を殺すつもりはないよ』っていう」
「そうか?どちらかというと、『こんな物を使わなくても十分対応できるぜ』じゃないのか?」
「『これあげるから、そこどいて』かもよ」
「『当りがでたらもう一本』」
「それはない!」x4
しばらく悩んだ後で、リーダーが結論を出した。
「仕方ない、一度ビスコ村に戻ろう。ギルド長に状況を話して、こいつ処分も頼めばいい」
他の4人も頷いた。というより他に良い方法が思い浮かばなっただけなのだが。
そしてビスコ村に帰るにも危険はあった。
もしこれを運んでいるところを聖堂騎士団に見つかって職務質問でもされたりしたら・・・
「うわ、嫌な想像しちゃったよ」
「破滅だな」
「問答無用で斬られそう」
「・・じつはこれ新手のトラップなんじゃないのか?」
そうだとしたら実に有効な罠であると言えよう・・・
「遭遇は、極力避ける方向で・・」
リーダーの指示に残りの4人は強く頷くのであった。




